番外編 異世人と怪談をしても微妙だと思う
時系列無視の番外編です。
この話を読まなくても、前後の話や本編に影響は有りません。
お盆ということで、怪談話会です。
日本人の怪談を、外国の人に語っても微妙かもしれない。
むしろ、同じ日本でも、住んでいる地域が違えば、微妙かもしれない。
世代が違えば、微妙かもしれない。
共有している常識、それがどれだけ大切か、というお話です。
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「今日は怪談話をしよう」
僕の提案に、
「かいだんにゃ?上るにゃ?」
ミアが小首を傾げる。
「怪談というのは、怖い話の事だよ」
龍二が補足する。
ミアの世界にはない概念だったかな。
「怖い話を……何故するにゃ?」
「怖いもの見たさって言うか……涼しくなると言うか……」
栗原が、言葉をつまらせながら言う。
「意中の男性に、怖がっているふりをして抱きつくチャンスとかですか?」
模合が言う。
その位置からだと、龍二は遠いですよ。
「何故怖がっているふりをするにゃ?普通に抱きつけば良いにゃ?」
ミアが僕を抱きしめる。
色々当たるからやめい。
「ちょ」
「ミアさん!」
栗原と模合が、ミアを引き離す。
「まあ、ミアは見ていたら良いんじゃないかなー。私達が怖がらせてあげるしー」
杏那がくすくすと笑う。
「だ、誰も参加しないとは言ってませんにゃ!こ、後悔するにゃ!とっておきの、禁断の……禁呪に近い、怖い話があるにゃ!大分卑怯だとは思うけど、仕方ないにゃ!」
超ハードルを上げてきた。
「へー」
杏那が、面白そうな表情を浮かべた。
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話は、順番に、1人1つずつ披露していく。
僕は、きさらぎ駅の話を。
口裂け女、地元の地名を交えた実話っぽい話、ダンジョンの噂……
龍二の怪談は、頭抜けていて。
僕も、軽く悲鳴を上げた。
平気な顔をしていたのは、ミアだけだ。
杏那も、少し顔色が悪かった。
杏那の話は、それ怪談か、という内容だった。
「実は……私は羽修に、処女を捧げてるよ!」
龍二は驚きの表情。
栗原と模合は恐怖を感じた表情。
ミアは、何故その話、と訝しげな顔。
「いや、確かにびっくりする様な内容だが、悪質な嘘はやめておけ」
龍二がたしなめる様に言う。
怪談特有の、嘘OK的な空気。
本当か嘘か曖昧になるから、効果的という事か。
いや、単なる事実のカミングアウトなんだけどね?
「……というか、何で今ので、兎中が顔色一つ変えない訳?」
「いや……どう反応して良いのか……」
事実だしなあ。
「ふふふ……次は……私の番、にゃ」
今まできょとん、として反応無かったミアが。
不敵な笑みを浮かべる。
異世界の怪談か。
未知の存在。
それが……
どれほどの……
ものか……
ミアが、語り始める。
かつて、神々の大戦があった。
数多の世界で、人類は、卑小な存在。
圧倒的な力を持った、神々に翻弄されるだけの存在だった。
ある時、その均衡が、崩れた。
この世の全ての悪。
悪しき意思、ダンタリアン。
悪魔の中の悪魔であり。
しかし、神であるという説もある、それ。
恐るべきは、その力。
森羅万象を記録する、アカシックレコードへのアクセスができるとされ。
無限の力の持ち主は、卵の殻も割れない力の持ち主になり。
万物を切断する剣は、か弱い糸すら切れなくなり。
魚は空に飛び、鳥は水を泳ぐ。
あらゆるものは書き換えられ、弄ばれる。
全ての神と悪魔は力を合わせ。
幾億の世界が犠牲となり。
ダンタリアンを絶え間なく攻撃。
そして。
最後の世界。
最後の2柱……悪魔ルシファーと、神オーディン。
ダンタリアンを倒した後には、たったそれだけが残った。
最後の世界は、始まりの世界となり。
アカシックレコードからも隔離された、特別な世界となった。
やがて、他の世界が増え始め。
現在に至ると言われている。
ルシファーとオーディンも、互いに戦い、滅び。
旧き神は、全てが滅びた。
しかし
実は
ダンタリアンは、滅びていない。
そんな話が
まことしやか、に
今の世界に、かつての力はない。
団結力はない。
もし今ダンタリアンが復活したら。
その事実を認知すらできないまま。
ただ弄ばれ、そして、全てが無に帰すだろう。
もしかしたら。
貴方は既に、会っているかも知れない。
気づくことすら許されないまま。
ダンタリアンに
ミアの語りが終わって。
うん。
怖くない。
みんな、微妙な表情。
「あれ……怖くない、ですか?」
「ぜんぜん……?」
「えと、ダンタリアン、ダンタリアン」
「えっと、ミアの世界だと、名前を聞いただけで怖いとか?」
杏那が小首を傾げて言う。
「……ですにゃ。名前を言ってはいけないアレ。本来は名前を出すだけで魂の底から凍えさせる怖さが……というか、私も話ながらちょっと漏らしたにゃ」
「……着替えておいで」
激しすぎる捨て身攻撃。
しかし、異世界人には通じなかった。
結局、怖がらせた人が多かった人が勝ちという事で。
龍二が優勝に。
あれだね。
基礎知識というか、常識というか。
そういうのの共有って重要だよね。
怪談には。