第18話 隠しダンジョン
「にゃ……やっぱり変だにゃ」
「どしたん?」
ミアが困惑した様に言い、杏那が尋ねる。
今日は朝からマナ稼ぎ。
α35、β28、γ51のダンジョン。
「前回より力が出せない……ううん、これまでにないくらい、力が出せないにゃ」
「……最初に、光で敵を照らしてたよね」
危うく、敵に近づかれるところだった。
で、杏那がとっさに蹴りを入れ……魔物が派手に吹っ飛んだ。
「むしろ、僕も杏那も、いつもより調子が良いと言うか……魔物が弱い?」
動きもとろい。
「にゃあ!むしろ魔物の動き早いにゃ!?」
ミアは十分強い。
が。
今日は普段使わないもの……秘蹟を使って戦っている。
本気モードだ。
逆に、杏那が敵を引き付ける……ついでに倒してしまう事がある。
敵を引き付けるのは良いが、別に倒してしまっても問題ないのだろう的な。
しばらく進み……休憩を取る事にした。
ミアがばてたのだ。
「ダンジョンによって、出せる力が変わっている気がするにゃ。単純にレベルアップで強くなっているだけでなく……むしろ、今日みたいに弱くなったりするにゃ」
「そんな話は聞いた事がないけど……でも、確かに、前回のダンジョンより、今回のダンジョンの方が力が出しやすいかな」
レベルは上がっていないのだけど。
「そもそも、異世界船や、異世界ダンジョンが一般的とか、凄い世界だにゃ」
「僕達にとっては、これが一般的だからね」
まあ、異世界船の発見前には、考えもしなかった話だけど。
「ミアちゃんの世界にも、異世界船はあるんだよね?」
「無いわけではないですが……伝説の存在だにゃあ。世の理を外れるような強者が、異世界を旅する為に乗っている、と言われているにゃ」
伝説的な存在が、一般家庭にもあったら、そりゃ違和感あるよな。
「ダンジョンも、普通に入り口が同じ世界にあるにゃ。というか、ダンジョンも生き物だから……侵入者とか、世界から力を吸い上げるとか……なにかの力を吸い上げる必要があるにゃ」
「ミアちゃん、異世界ダンジョンにいたんでしょ?」
「そうにゃ。次元の間には、凝集したエネルギーが、ダンジョンの形態を取ることがあるにゃ。本来であれば世界に成長する為の種が、成長に失敗して異形となったもの……それが異世界ダンジョンにゃ。神造ダンジョンをも超える規模になったりもするけれど……極めて珍しい存在にゃ。お手頃サイズがその辺に漂ったりはしてない筈なのにゃ……」
「本来なら、ゲームクリア後の隠しダンジョン的なものなのか」
そういえば。
「以前龍二達とダンジョンに行った時、異世界船が妙にゆっくり進んでいたよね。あの時、窓の外に魔物らしきものがいたんだけど」
「あれは境界獣……やはりあれも、世界の種が変異してできたと言われているにゃ……けど、それが成長して、世界の種を食べたり、世界を食べたり……本当に危険な存在にゃ」
世界を食べるって……
「ちなみに、窓ガラス越しで遠かったから大丈夫でしたが……まともに見ると、精神が狂うにゃ」
正気度チェックが必要な存在らしい。
「にゃあ。少しは回復したにゃ……いけると思うにゃ」
「まあ、無理はしないで良いよ。とりあえず引き返そうか」
本格的にミアが動けなくなるのはまずい。
何故か杏那が妙に動けているけど。
「私が強くなったり、ミアちゃんが力を発揮できなかったり……何か法則があるのかな?」
杏那がぽつりと言う。
法則、か。
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マナへの換算が終わった。
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残マナ:1,000pt
消費マナ:1,000pt
冒険後残マナ:0pt
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獲得マナ:104,233pt
所持マナ:114,233pt
チャージ:104,233pt
チャージ後所持マナ:10,000pt
チャージ後残マナ:104,233pt
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勝手に使われるから、チャージしないでおく手も考えたけど。
結局残マナがマイナスになるだけだから、チャージしておいた。
「104,233ptか……やっぱり結構いくよね。何で龍二達と出かけた時、あんなに低かったんだろう?」
「私が強かったのとも関係あるのかにゃあ?」
「羽修、何か心当たりない?」
「分からないね。せいぜい、γの値が0だったとか、今回はγの値が高かったとか……」
ぴくり。
ミアが、耳を動かす。
「それかも知れないにゃ?」
「ん?」
「どゆこと?」
「次元差。私達の世界では、異世界から呼んだ勇者は、強いにゃ。元の世界では、魔法がない世界で、学生だったとかそういう場合でも」
「次元移動による、能力覚醒か」
「にゃあ。多分それだけじゃないのにゃ。確かに、レア職業やレアスキルを得る事も多いにゃが……そもそもの強さも異常だったりするにゃ。これは、元の世界と、召喚された世界との、次元差……距離のせいだと考えられているにゃ。つまり、遠くの世界に行けば行くほど、強くなるにゃ」
「つまり……γの値は、能力の強弱に影響する、次元間の距離という事か」
「αやβは一般的だけど、γなんて初めて見たしね。γ方向に移動できるこの船が、異常って事かな」
杏那が頷く。
最初、ミアのいたダンジョンとのγの差は、98。
今回のダンジョンは、51だから、差は47になる。
前回のダンジョンは0だったから、差は98。
で、マナの還元量にも影響あるとすれば。
僕達の稼ぐマナが異常なのも分かる。
γの値だけ、マナが増えているのだ。
そして、前回はγが0。
だから、マナは通常と同じ程度のレートで換算されたと。
「よし、リア。次行くダンジョンは、ミアのいた世界と逆方向に対して離れた場所にしてくれ!」
これでミアはますます強化され、僕達も強くなり、マナも経験値も稼げる!
『ようやくそこに辿り着いたのですね……』
リアが、感慨深い様な声を出す。
『だが断る』
「「「!?」」」