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カセットテープも連れていって

作者: 田池 多季

カセットテープのテープは、あれに似ていませんか。


本作は、「第3回『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』大賞」応募作品です。

夕日が差す生徒会室のキャビネットの暗闇で、古ぼけたカセットテープレコーダーを見つけた。


この学校は、来月に隣町の学校と併合される。僕は、新しい生徒会室に移すものを選ぼうと、まもなく役割を終える生徒会室を整理していた。


母も通っていたほど古い学校なので、みんなに忘れ去られたものが、たまに見つかることがある。


例えば、髪を肩まで伸ばしている女子生徒の写真。先生に尋ねたら、僕の十五年上の先輩で、いじめを苦に自殺したのだという。いまでは、そういう生徒がいたらしいという噂が流れる程度で、事の子細は先生方しか知らない。


レコーダーをキャビネットから出す。金属部分のところどころに錆が付いていた。コードが伸びていて、ACアダプターに繋がっている。


レコーダーの窓から、中に入っているカセットテープが見えた。


音楽は配信で聴くことが多いけれど、最近はカセットテープの人気が出てきているらしい。そういう記事をネットで読んで、僕は少し興味を持っていた。


何が録音されているのだろう。電源を繋げて、再生ボタンを押し込む。


再生ボタンが沈んで数秒間、静かにノイズが流れた後、校歌の合唱が、ピアノの伴奏付きで聞こえてきた。昔は、校歌や運動会の音楽をカセットテープで流していた、と先生から聞いたことを思い出す。


その校歌は、奇妙だった。


合唱している人が減っていく。大勢だった声が、人数がわかるほどに小さくなり、最後には一人だけになった。


女子生徒の声だった。


ピアノの音が止まった。それでも彼女は歌い続けた。


歌が、終わった。そして、僕に語りかけてきた。


「ねえ、私も連れていって」


ガチャン!


僕は驚いて、思わず飛び跳ねた。


いまの音は、何だったんだろう。


沈んでいた再生ボタンが元に戻っていた。僕は、もう一度再生ボタンを押し込んだ。


すぐにガチャンと音がして、再生ボタンが元に戻る。


何ということはない。テープの最後まで来て止まったんだ。続きを聞くには、カセットテープをひっくり返さないといけない。


レコーダーの取り出しボタンを押すと、扉が開くような音がして、一部分が口を開けた。


カセットテープを引き抜く。テープがヘッドに絡まっていたせいか、黒く細長いものがしなやかに伸びた。


いや、これは、テープじゃない。


髪の毛だ。

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