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再走。


よかったよぉ、そう言って俺に抱き着くラナにフェリア。

申し訳ありません、と今にも切腹しそうな表情を見せるネルドにイムルナ。

難しい顔をして虚空を見つめるリリィ。

それぞれ違った反応を浮かべているみんなを確かめてさっきの出来事は夢なんじゃないかと頬を抓る。


「…痛い」


「何をやっておるのだ…」


「いや、夢じゃないんだなあって」


怒涛の展開に頭がしっかりと働いてくれないけど、またみんなに会えた。

それだけで俺はもう。


「…次はぶっころす」


「不甲斐ないところをお見せしましたが次こそはっ」


フェリアにネルドの二人は次を見据えて拳を握っている。



もんすたあ娘。

最大で五人のもん娘を一パーティとして、ダンジョンを攻略するというありきたりなゲーム内容でありながら、大人気を博したこのソシャゲの最大の要素として、無限コンテというものが存在する。

そもそも、このゲームにはソシャゲのダンジョン攻略においてよくあるスタミナという要素が存在せず、時間の許す限り何周でもできるのである。


もんすたあ娘の公式にて明言されている中に、ストレスフリーなソシャゲという謳い文句がよく使われている。

スタミナという概念もなく、もん娘を所持できる数に制限はなく、もん娘を強化する際に必要なものは素材のみであり同キャラを合成させて限界突破、なんてソシャゲ御用達な課金要素も存在しない。

何度でも挑戦できるダンジョン内で落ちる素材をもとに強化していくその在り方故に時間さえかければ絶対に強くすることができる。

ダンジョン攻略をする上での課金要素はガチャのみという画期的な内容。

…まあ、ダンジョン攻略というものは課金者にとってチュートリアルであるのだが、それは今は置いておこう。


確かに俺は殺されたはずであり、闇色のナイフが俺を貫き、身体を侵食していくあの嫌な感覚も鮮明に記憶している。

その後に現れたゲームでよく見た再走の文字。

はい、を選択して見上げた天井は確かにもんすたあ娘で何度も目にしたこのゲームのホーム画面だった。

つまり、俺がこの世界にやってきて手に入れたものはもん娘というわけではなく、この部屋、いや、もんすたあ娘と言われるソシャゲのシステムそのものなのだろうか。

とすれば、強化、合成、もしかしてガチャやコールなんてことも?


「今回の敗因はおそらくフェリアさんです」


静かにそう溢したのはネルド。

その言葉に言い返すこともなく静かに拳を握り続けるフェリア。

フェリアがなぜ原因なのだろうか?

いまいちよくわからない。相手が悪かった。それがすべてな気がするが。


「…ネルドちゃん言葉が足りませんわ、先手を取られフェリアちゃんの魔力感知を無効化されていたことでしょう?」


「たぶんあのサムって髭だるまの能力だ

初手で魔力の反応くらいは察知できるはずだった

…あいつが死んだ後もラナがやられるまで正常に魔法を使えなかった」


「故に先手を取られてイムルナ殿を失ったと」


そういうことらしい。

確かに、空間魔法使いの黒ずくめを最初から補足できていれば状況は全く変わっていたかもしれない。

最初からフェリアを封じられ、背後から回復要員のイムルナを潰され、リリィを複数で潰され、持ち直したラナとネルドも結局黒ずくめに潰された。


「あとはルッソだけなんだ、ぶっ殺そうぜ」


「…ルッソ?私がバラバラにしたはずですが?」


そうだ、みんなと状況を共有しないと。


「…不死、だと?」


「ああ、あいつは最初っから死んだふりしてた姑息な野郎だったわけだ

そらあんなふざけたツラで笑ってられるわけだ」


「待って!じゃあ今話してる間にもたろうさんが!」


「いえ、この部屋は時間が進まないはずです

じっくりと考えるにはうってつけかと」


ラナの言葉に太郎さんを思い出して焦った俺だったがネルドの言葉で正気に戻った。

そうだった、この部屋にいる間は時間が経たない、もしくは非常にゆっくりと流れることがわかっているんだった。


「とは言ってもよ、話すこともねえぞ?

今度こそあのルッソを潰す

死んだほうがマシな目に遭わせてやる

そして残りの三人も潰す」


「異論はないのだが、まずは太郎殿を救出するべきだろう

残り三人について知るためにも、同郷として貴重な情報源でもある故な」


「そうですわね、ルッソよりも早く太郎さんを見つけるのが先決かしら」


「それなら問題ねえ、あいつはなかなかの魔力を持ってたからな

一瞬で居場所はわかる」


もん娘たちの会話に入り込めずただ聞くことに専念するしかない俺の不甲斐なさといったら。


「…その前に、私たちは気づいたらこの部屋にいましたよね?」


静かに語るネルドに対して白熱していたみんなの会話は止まり、視線が集中する。


「私たちはみんな死んでしまい、復活した

これに関しては普段通りではあるのですが、この世界では初めての経験です

現にこの部屋のことなど知りませんでした」


普段通り、確かにゲーム中では何度もゲームオーバーになってやり直したものだが、死は俺にとって初体験である。

それにこの部屋を知らない?そんな馬鹿な。

この部屋の天井はゲームで何度も見たはずだが。

若干の認識のずれはあるものの、黙って聞いておく。


「果たして、あの扉はどこに繋がっているのでしょうか?

あの草原?死んでしまった位置?それともまた別のどこか?

それに死んでからどのくらい時間が経っているのでしょうか?

死んだ直後?時間が経ってからの復活ということも考えられます」


「…んなもん扉開けりゃ一発だろ」


「そうです

扉を開けばすべてわかります

ですが、どんな時間、場所に繋がっているか不明であることを認識しておくべきかと」


「まあまあ、そうね

ネルドちゃんのおっしゃる通り、いきなり戦闘が始まる可能性、扉の向こう側の状況がどうなっていても対応できるようにするべきですわね

もしかしたら太郎さんを救うことができない、そんな可能性も覚悟しておくべきですわ」


もん娘たちが頼もしすぎて俺置物になってる。

そうか、ゲームとは違うんだからなんだってあり得るのか。

もん娘たちとまた出会えた嬉しさに、みんなが元気に議論しているその姿に一人で満足していたけど気を引き締めないと。


「…そんときゃそんときだ

一に太郎を救う、二にルッソを潰す、三にそれ以外の玖を潰す

それで今は十分だろ?」


「ええ、一先ずは皆さんと考えを共有しておきたかっただけですので」


「おっけー、じゃ草原に出た場合は一気に町まで飛ぶってことで!」


やる気満々に尻尾を振るラナ。

草原、ってことはあの死体の山にもう一度ご対面する可能性が。。

…開幕一番吐いてる未来が見えた。


「じゃ、行こうぜー」


「まあまあ、少しお待ちくださいな」


行く気満々のラナにフェリアを窘め、イムルナは全体にバフを行使する。

イムルナなりに思うことがあったのだろう。

バフを掛け終わった後には、もはや目を開けるのが難しいほどに光り輝くみんなが完成した。

…部屋が光源のよう。


「…みんな、ボロボロになってまで戦ってくれてありがとう」


今更だったけど、どうしても言いたかった言葉だった。

みんなの会話に割り込めずになあなあになってしまったけど、あんなに必死に、それこそ死にながらも俺を守ってくれたみんなにしっかりと礼を言いたかった。


「ますたーのために戦うなんて当たり前だよ!」


「そうだぜ!たかしにはもう指一本触れさせねえ」


「力及ばず朽ちた身であったが、この身は我が主に捧げたもの故」


「恥ずかしいところをお見せ致しましたわ」


「たかし様にはもう二度とあんな想いはさせません」


「…ほんと、ありがとう」


わけもわからず目が覚めたらこんな部屋にいた俺の前に居てくれたのがこの娘たちでよかった。

俺に何ができるかわからないけど、みんなのために俺のできる範囲で応えたいと、そう思った。


「じゃ、開けるよ?」


「ああ!」


ラナが扉に手を掛ける。

ゆっくりと開いたその先の光景に考えていたすべてが消失した。

そこには青々と輝く草原、太陽は真上にあり、大量の魔物の死骸は"存在しなかった"。


「あぁ?」


「…なるほど、こういうパターンですか」


「ふふふ、これはいい!」


「なになにー?どういうことー?」


フェリアをラナの二人は頭にはてなを浮かべ、ネルド、リリィ、イムルナの三人はわかった風な顔をしている。


「あらあら、さきちゃんを救えますわね」


さきちゃん?ああ、あの料理屋の幼女か。なんでさきちゃん?


「たかし様、どうやら魔物を殺す前まで

つまり、初めてこの扉を開けた時まで時間が巻き戻っているようです」


その言葉に俺の脳は考えるのをやめた。


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