初めてのゲームオーバー。
「ふふっ、残念だったねぇ」
「なっ、ルッソ?!、お前はバラバラになってたはずじゃ?」
驚きの表情を浮かべる太郎さんをぼんやりと見ながら、起こった現実に頭が追いつかなかった。
確かにネルドがバラバラにしたはずの人間が、変わらない人を食ったような笑みで喋っている。
そんな事実に俺の頭は思考を停止するしかなかった。
『た、たかし!!逃げろ!』
身体のほとんどを黒に染めながら、フェリアは必死に俺へ呼びかける。
逃げろ?どこへ?
逃げられるのか?逃げたところでもう俺には何もないのに?
そんな思考が俺の脳を支配する。
もうすっかり、俺の心は折れてしまっていた。
『もう、無理だ、俺にはどうしようもない』
『なっ?!ぐっ、たろう!たかし連れて逃げろ!』
俺の役立たず振りに太郎さんに助けを求めるフェリア。
黒に侵食されながらも俺のことを必死に逃がそうとしているのか、フェリアの周りを魔力が吹き荒れる。
『っ…たかしさん!逃げますよ!』
「逃がすわけないじゃないかー」
『あぁああっ!!』
フェリアの咆哮とともに、無数の風がルッソへと吹き荒れる。
それは風の刃というのだろうか、ルッソの身体が先ほど同様、バラバラに、細切れになっていく。
そして、逆再生のようにルッソのバラバラな体が元通りに戻っていく。
『『『なっ?!』』』
思わず驚きの声が三人とも被る。
「無駄だよぉ
僕の能力は不死
みんな殺してきたから誰も知らないけど」
『…能力が不死らしいです』
『不死?!そんなのありかよ?!』
不死なんて能力もあるのか、だからバラバラにしても生きてるのか。
太郎さんとフェリアの会話からぼんやりとそんなことを考える。
『っ、なら、殺さねえっ!』
「へー?」
フェリアの叫びに呼応するように魔力がルッソの周りに集まっていく。
そしてそのまま魔力は水に変換されていき、少しずつ凍っていく。
『ったろう!長くは保たねえ!』
『わかりました!
たかしさん、いきますよ!』
太郎さんに引っ張られるままに黒に染まっていくフェリアをぼんやりと眺めながら、
起こった事象にまだ理解が追い付かず、夢の中にいるような、そんなふわふわした状態で。
『…いやだ』
『何言ってるんですか?!
フェリアさんの想いを無駄にするんですか?!』
『…もう、全部いやだ』
もうもん娘たちはいない。
こんな何も持っていない人間に未来はないわけで。
どうせなら一緒に散ってしまったほうが楽でいいなぁと。
どんどん黒に染まっていくフェリアを見ながら、そんなことを想う。
『俺、みんながいない世界で生きていける自信ないので、太郎さんだけで逃げてください』
『っ!!ばか!!』
フェリアには聞こえていたみたいで、
確かに必死になって俺を助けてくれているのはわかっているのだけど、一人で生きていけるほど強くはないわけで。
『逃げる気ない人間連れて行くのは一苦労だろうし、一人で行ってください』
フェリアの苦しそうな表情を見るに、あの拘束はもう保たないだろう。
完全に逃げるのを諦めた俺とフェリアを交互に見ながら、太郎さんは苦悶の表情を浮かべる。
『…せめてフェリアと一緒にいさせてください』
『フェリアさん、ごめんなさい』
もう声を出す余力もないのだろう。
フェリアは離れていく太郎さんを見ながら、表情を歪める。
『フェリア、ごめんよ』
こんな俺のために傷ついた彼女たちのすべてを無駄にしてでも、
一人で生きていくことに耐えられなかった俺の弱さを恨んでほしい。
せめて。
『…ありがとう』
『…っ!』
涙を流しながら俺を見つめるフェリアへと近づいて、その小さな身体を抱きしめる。
こんなに小さな体で、ボロボロの身体で、よくもまあルッソを閉じ込めていられるものだ。
「あーあ、感動の中にいるところ悪いけど、
そろそろタロー追わなきゃだからさぁ」
『…うるさい』
フェリアが動かなくなり、黒い何かに代わってしまってしばらく。
聞きたくない声が何かを宣う。
「んー?なんかむかつく」
何を言ってるかわからないけど、どうせろくでもないことだろう。
最後に黒い何かに代わってしまったみんなを集めて弔っていたところだけど、それももう終わりらしい。
「なんだっけ、ニホンゴで『じごくであおうぜばいびー』だっけか?」
そう言って最初に出会った時と同じように、リボルバー式の銃口を俺の眉間に向ける。
『それを言うなら、ベイビーだ、くそやろう』
『べいびー』
伝わったかは分からないけど、いつもの人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、その引き金は引かれた。
【ゲームオーバー
再走しますか?<はい いいえ>】
痛みも何もなく、気づいたらベッドに横たわっていて、
いきなり現れたゲーム画面に首を傾げる。
それは、よく見るソシャゲ、もんすたぁ娘のダンジョン攻略失敗時に何度も見た画面で、最初にこの世界に来た時に居た部屋。
ベッドから天井を見上げたらこんな感じなのか。
なるほど、ソシャゲのあのゲームオーバー画面はベッドから天井を見た時の背景だったのか。
そんなどうでもいいことを考えるほどには頭が回っているようだ。
『とりあえず、はいで』
時間制限でもあったらたまらないと、何も考えずに選択する。
『ますたー!』
聞き覚えのあるその声は、俺に希望を与えてくれた。