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初めまして失敗。

別視点です。

「なに?あれ」


自身に大きな影がかかり、自然と上を向くととんでもない大きさの何かが空を飛んでいた。

真っ赤な、まるでドラゴンのような。

立派な黒い角に猛々しい表情である。そこらのモンスターではないだろう。圧が違う。


「隊長!ドラゴンです!」


「それは見てわかるんだけども」


報告はもう少し早くしてほしかった。

なんで目の前まで来るのを許したのだろうか。


「それが、突然、気付いたらあの位置に居まして」


「あんなでかいのがいきなりあそこに生まれたと」


ふざけているのか。

そう問おうとしたものの、よく考えたら自分自身があの位置にいるドラゴンを今の今まで認識できていないのである。

自分ができないことを他人に求めるのは間違っているだろう。

そんなどうでもいい反省をしつつも、空に浮いているドラゴンらしきものへの注意を怠らない。


「タロー隊長!どうしましょうか!?」


「んー、ちょっとキャパオーバーですね

今のところ空を飛んでるだけですし、このまま何処かへ行ってしまうようお祈りでもしましょうか」


見ただけでわかる、あれには逆立ちしても届かない。

であれば有り得ない選択肢だとしてもこちらから刺激せずに通り過ぎるのを待つのが最善である。

いざとなれば死に物狂いで相手する気ではいるものの、今はその時ではないだろう。


「伝達を、手を出されるまで手を出すな、と」


「はっ!」


これは何も現実を逃避したわけではない。

気付いたらそこに居たのだ。見上げるほどのドラゴンが。向こうからしてみればこちらに気付かれるまで空中で待機しているわけである。

それだけでも重畳である。タローにしてみれば、こちらには戦う意思がありませんよ、そちらが気付くのを待っていましたよ、と言われたような気さえしている。

戦いにおいて先手必勝とは言うものの、相手が明らかに待ちの姿勢の中叩き込むのは悪手に思えた。そこに悪意があろうとなかろうと。


「とはいっても、いつまで睨めっこするつもりなのか」


内心焦りでいっぱいである。

ここまできて問答無用で攻撃されることはないと思いたい。

思いたいが、相手はモンスターである。何か気に触ることがあれば次の瞬間には街が火の海に沈むかもしれない。

そんなことが起こらないように自分たちがいるのではあるが。


「心臓に悪いですね。

こちらから打って出ますか」


命を握られている現状に耐えられなかったタローは動いた。

なるべく相手を刺激しないように、徒歩で、ドラゴンの目の前へ。最悪自分を敵と認識させて街から遠ざけることも視野に入れる。勝てないにしても街から意識を逸らすことくらいなら可能だろうと。


「あのー、言葉通じますかー?」


『なんて言ってるんだろー?ますたー?』


『ん?俺もよくわかんないなあ、どうしようか

誰か翻訳の魔法とかいける?』


どうやらドラゴンは単体だけではないらしい。

よくみればドラゴンの背中に複数の気配を感じる。

というか、


『日本語!?おーい!これでどうですかー!?』


『おわ!急に話通じた!』


『いや、今は驚いてる場合じゃ、

あ、はーい!通じてます!』


ファーストコンタクト成功である。

話してみた感じ悪意は感じない。

というより、日本語で意思疎通できたのが大きい。

よっぽど例に漏れさえしなければ同郷の温厚さは承知している。


『状況がわからないんですが、そのドラゴンをなんとかできませんかー?!みんな怖がってしまって!』


『あはは!みんな私が怖いんだって!』


『喜ぶとこじゃないだろ。。

いいから人型に戻ってくれ』


ふっ、とあれほどの威圧感を醸し出していたドラゴンが消え去る。

それと共にその真下、ドラゴンがいたであろう場所に6人の人影が確認できた。

どれもこれもとんでもない気配を感じる。

いや、1人だけ場違いな、消えてしまいそうなほど弱々しい気配も確認できた。


『すみません。この街に如何様でしょうか?」


『あー、いや、用はないんですけど、飛んでたら街があったってだけでして』


どうやらこの集団がここに現れたのは偶然らしい。

ドラゴンのような特徴を持った背の高い美人。

それより大きな真っ白なアラクネ。

薄水色で半透明の美女。

楽しそうに空を飛び回る薄緑色の妖精。

一見してこの中では普通の見た目の男装の美少女。

そして中性的で特徴のない男性。


なんとも不思議な面子であるものの、彼女らから敵意は感じない。もしも先程のドラゴンが確認できていなければ、モンスターとして速やかに討伐していただろう。特にアラクネ。

それほどにこの集団は異常であった。


『この街に入ることは可能でしょうか?』


『んー、私では判断しかねますね。

少々お待ちください』


いくら自由の都であると言ってもモンスター相手に入場を許可することは魔都の外壁、2番隊隊長のタローを持ってしても厳しいものがあった。


「いいんじゃないのぉ?

いれちゃえいれちゃえ!」


「...確認しますので」


面倒なやつが現れた。

そんな感情を隠しもせずに、むしろ全面に押し出すように冷たい眼を向ける。

楽しそうに笑っているのは玖のルッソである。

どこから嗅ぎつけたのか、なんともぶん殴りたくなる笑顔であった。


「いいよぉ!いいよぉ!

僕が許可しよう!」


「あなたに許可する権利はありません」


意地でもルッソのテンポに乗ってやるものか。

表情にはいつもの冷静さを張り付かせ、なんでもないようにルッソの言を流す。


「もー、硬いなぁ

てか、婆さん言ってたじゃんね、5人の女の子を誑かした軟派な男がやってくるって!」


「誑かしたとも軟派なとも言ってません

言葉がわからないからって適当なこと言わないでください」


言葉が伝わらない現状だからこそよかったものだが、もし今のを聞かれて不興を買ったら目も当てられない。

少なくともあのドラゴンだけでもこの隊を総動員しても少なくない被害が出るのは必至。

それと似たような雰囲気が5体。なぜこいつはこんなに飄々としているんだ。


ルッソの一挙手一投足に苛立ちを見せるタローを含めた2番隊のメンバー。

言葉はわからないものの、野生の勘でたかしを馬鹿にされたと察した5人。

当の本人はなんかわからないけどみんなピリピリしてるなー、くらいの認識であったのだが。

その場にいるだけで周りを不快にさせる男ルッソであった。


「あっれぇ?

言葉わかんないと思ってたけど、なんで睨まれてるんだろうね?」


「顔がむかつ、

人の悪意というものは言葉の壁程度では遮断できないということですかね」


お前の顔がムカつくからだとストレートに伝えようとしたタローだったが、ぐっと堪えた自分を誰かに褒めてもらいたかった。


『すみません。この男は普段から人の癪に触る態度と顔でして、居ないものとして扱っていただけると助かります』


『は、はあ』


なんとも散々な言われようだなあと、たかしは気の毒そうな目を向ける。


「あー、今のは僕でもわかったよぉ

なんかよくないこと伝えたでしょぉ!」


「むしろあなたにいいところがないでしょう」


きっぱりと言い切られたルッソは落ち込んだ。


しばらくして大柄な、ラナと同じほどの大きさの男性が現れた。

男性、と表現したものの見た目は二足歩行の狼であり、タカシの頭には狼男の文字が浮かんだ。


それに続いてフルフェイスのしっかりした甲冑を着込んだ女性、ルキナが現れた。


『この御二方がこの街の治安を維持している代表と言ってもいい、

私の所属している“魔都の外壁”団長のラウゴルフさん、

別団体ではあるものの“隣人の友”隊長を務めているルキナさんです』


『お、おお、どうぞよろしくお願いします』


言葉は通じないと知りながらも思わず頭を下げてしまったたかしは悪くないだろう。

歴戦の、と名付きそうな狼男の眼光は鋭く、口から覗く牙はその辺の鎧であれば易々と貫けそうである。

同じくフルフェイスの鎧に身を隠している彼女、一体鎧の素材はなんなのだろうか、重厚感があり、所々傷の入った年季を感じさせるその鎧に強者の風格を感じる。


『あと、あれが問題児集団の一人、玖のルッソ』


『お、おぅ』


なんとも雑な紹介をされたものの、なんらかのメンバーらしいことはわかった。


「ふむ、彼らは言葉が通じないと」


「はい、ですが私と同郷でしたので通訳でしたら可能です」


「...後ろの女どもがやべえな」


「ねー、かわいいこ揃いだよぉ!」


ルキナは6人の通訳が必要であることをタローに確認。

ラウゴルフは弱そうな男から早々に目を離し、後ろに控える5人のモンスター然りとした強者の雰囲気に顔色を変えずに内心冷や汗を流していた。

ルッソは見当違いなことを宣っている。


「それで、街にいれますか?」


「その女どもは人を襲わねえか、見た感じその男になついてるようだが手綱はしっかり握れるのか、その辺が問題なけりゃ後は普段の手続きで構わねえ」


「そうだな、人に無用な危害を加えなければ、私も問題ない」


「えーっとね、一発芸して僕が笑ったらいいよぉ!」


一人を除いて安全性さえクリアできれば、という意見であった。


『後ろの5人が人を不用意に襲わないこと、

正当防衛以外で人に危害を加えないことを約束できれば問題ないです

多少の暴力は…物騒な街ですからね

それさえ約束できれば一先ずは許可できます』


『問題ないです。

人に危害を加えさせません』


物騒な街?と小首を傾げたたかしだったが、まあ大丈夫だろうと頭を振る。


『では、ここからは一般の方と同じようにこの街に入る手続きをさせて頂きます

同郷の話も聞きたいでしょうしね』


『あ、よろしくお願いします』


話は終わったとばかりにラウゴルフ、ルキナの二人は踵を返して街中へ戻っていく。

一人、納得のいってない表情の非常識人が残っていたが。


「もー、僕の条件も付け加えてくれたのかい?

いつ見せてくれるんだい?」


『では、こちらです』


タロー渾身の無視である。

あの人何か言ってるけどいいの?とたかしを含む6人はタローの後ろに続く。


それがいけなかった。


「ふーん?

じゃあ僕がお手本に一発芸見せてあげる」


何を馬鹿なことを。

そう言おうと振り返ったタローの目にはリボルバー式の銃口をたかしに向けるルッソの姿が。


「ばか!」


普段温厚なタローを持ってしても口から出た言葉は暴言であった。


5人のもん娘にとって銃とは未知の道具であり、それが人を殺すに値するものという認識がなかったものの、タローの慌てように何かを察し各々が考え動いた。

その結果、なまじ取れる手段が多く、強者である彼女たち5人はそれぞれがそれぞれに規格外の働きをすることとなる。


ラナは純粋にルッソを潰せば丸く収まると、ただ殺しはダメだろうと先程の会話を思い出したため、見たことない銃を構えた右腕もろともを拳一つで“消し飛ばした”。


似たようなものでフェリアも同じことを考えたのだろう、肉体の反射で動いたラナと比べて一瞬遅れたものの、魔法を発動させた結果、吹き飛んでしまったために右腕を凍らせることに失敗し、ルッソの肩から先に氷の義手を生み出すこととなった。


二人ほど直情的ではないにしろ、比較的前衛的な思考を持っていたリリィは見たことのない銃をレイピアでバラバラに切り裂いた。ラナの一発と同タイミングだったためその瞬間には何もかもが消し飛んでしまったが。


イムルナは3人が動いたのを確認後、万が一を想定してたかしの全身を自分で覆いながら、あらゆるバフを重ねていった。光るスライム人間の誕生である。


ネルドはその様をある程度俯瞰して捉えながら、ルッソの次の一手を封じるべく糸でぐるぐる巻きに拘束した。


5人が5人とも最善を尽くした結果、人一人分の繭と不気味な色に光るスライム人間が誕生してしまったのである。


「え!?なに!?なにがあった!?」


普段の冷静さをかけらも感じさせないほどの取り乱しを見せるタロー。

もはや日本語で話しかけることも忘れてしまっている。


『えーっと、俺何も見えなかったんだけど、あの繭みたいなのがルッソさんで合ってる?』


『はい、たかし様』


糸でぐるぐる巻きにした張本人ネルドはさも当然のように答える。自分の主に危害を加えようとしたのだから当然であると5人が5人ともなぜか満足気であった。


『...ごめんなさい。

過剰防衛は不要な危害に入るでしょうか?』


『...まず、ルッソの状態を確認させてもらってもいいでしょうか?』


なんとも言えない不思議な空気の中、たかしは街に入るのを拒否されないか、タローはルッソの仲間と認識されて同じ状態にされないかとお互いがお互いを牽制しあっていた。

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