贅沢な夢くらい
どれだけ共感したんだろうか
持たざる者の物語として
いま君がうたっているそれは
餓死寸前の子供からパンを取りあげて
ひとくち齧って地面に投げつけ
「自分は美味しいものが手に入らない運命だ」と踏みつける
昨日も今日もおなかいっぱいごはんを食べて
あたたかい寝床でぐっすり眠れる者のうた
目の前に出されたご馳走を
何度も勧められてもイヤイヤしては
すっかり冷めたあとに食べてがっかりする
青春はそんなものなのだと煮しめないでくれ
どれだけ共感したんだろうか
そんな悩みを誰もが持っているのだと思ったんだろうか
奪うべきか否かを悩む物語は過去になってしまった
それは強者のことだったから
奪っていることにすら気付かずに
手に入らないことを嘆くそれは弱者のふりをして
そう、弱者なのだろう、いまや
強者は自力で手に入れるもの
弱者は与えてもらうもの、ならば
すべてを与えてもらうためには弱者でいなければ
すべてを手に入れるための地位はそこ
どれだけ共感したんだろうか?
今日も足りないことばかりを指折り数えるんだろうか?
それでも強者は与えなければならない
圧倒的な弱者であることに違いはないのだから
その道を選ぶ者はたしかに
決定的に精神が脆弱なのだから
目が見えぬ者より強烈に
耳の聞こえぬ者より鮮明に
どこにも届かないままで壊れそうな世界に取り残されている
どれだけ共感したんだろうか
たくさんの死体を踏みながら
贅沢な夢くらい見させてほしいだなんて
ささやかな願いのつもりで踵をあの子の眼窩に振りおろして