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第6話 同盟結成



 千堂稀色の襲撃により、新海疾風を失った。

 ボロボロのまま、階の移動さえできずに一室にこもって回復を待つしかない。

 じりじりと時間を過ごして……眠れないにしても、うずくまって体力の回復を待つ。

 そして、夜が明けた。

 あいかわらず窓の外は泥が蠢いている。スマホの時間を見ると、始まってからすでに10時間が経っていた。

「――何たる体たらくだ」

 いきなり、緒方が吐き捨てた。

「なんだと?」

 灰原がいきり立つ。千堂を殺したことが心に傷を残していて、逆に他者に対して攻撃的になっていた。

「お前がしっかりしていないせいで、あのガキは死んだ」

 侮蔑する瞳が灰原を射抜く。

 緒方はコミュニケーションにおいて、強者にへりくだるか、弱者に攻撃するかしか知らない。相手の正しくないことを突いて、悪かったと認めさせることが会話なのだと信じている。

「震えあがって何もできなかった奴が大口を叩くものだな? 役立たず」

 しかし、今度ばかりは灰原も攻撃的に返す。

 ぎすぎすとした空気は一瞬で激発寸前になった。

「……っ! ……っ!」

 亜優には大人たちの喧嘩の仲裁などできない。

 あちらこちらに視線をさまよわせて、震えている。

「もういい。お前に任せてもどうにもならん。俺の命令に従え」

「は! 勝手にやってろ。何もできない癖に」

 ストッパーがいない。

 大人二人もタガが外れて冷静になれていない。

「――なんだと、恩を忘れやがって!」

「――あれだけ迷惑をかけたくせに、まだ恩など言うかよ!」

 そして、これはデスゲーム。

 ゆえに”それ”に結実するのは当然と言えた。

「『潰せ』!」

「『砕け』!」

 大の大人二人が掴みあう。

 とてつもなく無様な光景なのだろうが、交錯は一瞬で終わる。

「「――」」

 互いの指が触れて、一方的に緒方のほうが砕け散った。

 ……血の雨が降る。

「……馬鹿が。何も考えてない脳無しめ。怪力の力と、触れたら壊す能力が単純にぶつかり合ったら勝つのは壊す方に決まっている」

 吐き捨てた。

 何も、怪力の能力が劣っているというわけではない。怪力ならば遠くから物を投げるなり、何も掴みかからずとも突進して吹き飛ばすなり戦術はいくらでもあった。

 緒方は、掴みかかるという、①相手をとらえる、②掴んで潰すという二動作を必要とするやりかたをしたのが失敗だった。

「……おじさん」

 泣きそうな亜優がシャツの裾を引っ張った。

「……」

 血の付いたままの手で不安そうな亜優の頭を撫でてやる。うるさく鼓動を刻む自らの心臓が落ち着くのを待つ。

 ーー二人目、だった。人を殺すのは二度目だが、まったくもって慣れやしなかった。



 10分、ぐずぐずと思い悩んだ。

 だが、目の前の少女を守るためには気分悪く鬱々と沈み込んでもいられない。最上階は隠れるには向かないのだ。そして、頭数は半分にまで減ってしまった。

「ここはもう駄目だ。どこかに隠れよう」

 ゆえに、危険を承知で移動する以外にない。

「……どこに?」

「エントランスには烏丸がいた。鉢合わせが恐いが、部屋に行こう。移動中さえ見つからなければ、ある程度は紛れられるはず」

 全滅が目的なら烏丸は動いているはずだが、全部の部屋を開けるのは多少は手間だろう。

 完璧には程遠くても、この階よりはマシだ。

「……ん」

 スマホを見て生存者を確認する。

 脱落者は、緒方、新海、千堂の3人。DEADの文字が踊っている。残り8人

「――おじさん!」

 悲鳴のような声を上げた。エレベーターを指さす。光がついている。誰かが移動を開始した証だ。

「上がってきているか……!」

「だれか、来るよ! どうするの!」

 どこで止まるかはわからない。だが、このまま最上階に留まるのは論外だ。上がってくるのなら、上からくまなくというのはあり得る話だし、何よりも部屋の数が少ない。二つの宴会場、そして裏の調理場しかない。

 ……ここでは隠れられない。

「亜優、行くぞっ!」

「うん!」

 階段をかけ降りる。

 足音が響くが、仕方ない。待ち伏せの可能性も考えたが、迎え撃つのは無理だ。

「……何階に出る?」

 灰原は自問自答する。

 階段はあくまで非常階段だ。薄暗くて、扉が閉まっていれば音も漏れない。

 しかし、待ち伏せの可能性がある。

「おじさん。あれ!」

 光が見えた。

 扉が開いている。2階降りたところ、6階だ。

「こっち!」

 女の子の声が聞こえてきた。

 氷の槍の少女、来栖氷夜の声だった。

「――」

 言われるがままに扉の向こうに飛び込んだ。

 彼女は即座に扉を閉める。

「ついてきて」

 部屋の一室に案内される。

 敵意はなさそうだと判断する。あのときであれば、二人まとめて串刺しにできた。わざわざ罠にはめる意味は薄い。

「よく生きていてくれた。灰原雅暦、月宮亜優」

 彼は枢木怒流、最初の会合でリーダーのようなことをしていた。そして、灰原、来栖とともに”外”を見た。

 部屋を見渡せば、もう一人少女がいた。いかにも委員長と言った風貌の神崎火乃は今や疲れ切った表情をして、面影すらもなくなって病人同然の蒼白な顔色をしていた。

 ……無理もない。三人とも、服が薄汚れている。こちらも、戦闘があったのだろう。

「そちらは三人か」

「ああ、状況を整理しよう」

 枢木が率直に言った。あまり回りくどいことはできない性質の様だ。とはいえ、灰原の方御世間話などしている余裕はない。

「少しは休ませてほしいな」

「……む。そうか、悪いな。だが、時間はあまり取れないが」

「冗談だ。座らせてもらうぞ」

 改めて、向き直る。

 狭いシングルルームに5人、彼は椅子に座って、こっちは亜優と一緒にベッドに座っている。

 残りの少女二名は扉の近くで外を警戒している。

「登場人物は出そろったな」

「ああ、役割も大体決まってきた」

 3名の不審な眼が灰原に向けられる。

 穏健派、この場に集まった5人。襲撃者、烏丸と黒崎。そして死者4名の全11名。しかし、そんなことは誰もが分かっているから省いていい。

「いや、ここがどこかとか全くわからんが、用意した運営側がいるはずだ。小学生が居て、それも女子なのは悪趣味が透けて見えるだろう? 何も知らずに無残に殺されるのが見たいんだろうさ」

「……それが真実であるなら、決して許すことはできない」

 枢木は灰原の推理に、瞳の奥で赫怒を燃やす。人として好感が持てるが、他人に自分と同レベルを求める関わりたくない類の正論狂いの人間である。

「やめとけ。影も形も見えない相手に起こったところで無駄だ。自然災害のようなものだな。どう生き残るかを考えるのが優先だろう」

「それもそうだな」

 彼は亜優をじっと見る。小学生組の最後の一人だ。

 女子、そして子供を守ろうと言うのだろう。人として、まっとうに。そして、守り抜いた暁には真犯人に裁きを与えるとぶれることのない瞳が物語っていた。

「それを考えると、烏丸は明らかに運営側だ」

「なんで、そう断言できんの?」

 来栖から質問が飛んできた。

「彼は明らかに我々を誘導していた形跡がある。……違うか?」

 枢木が答えた。彼もそこは分かっていたらしい。

「ああ、お前は皆を引っ張っていくが、烏丸は首を突っ込むタイプには見えなかった。僕は議長をやっていたからな、強引さがよくわかった」

「結局は私とあなたで話していただけだったがな。しかし、変なところで首を突っ込む烏丸は……実際、運営側としてデスゲームを望む方向に誘導していたのだろうな」

「ああ。つまり、本来なら烏丸への対処を真っ先にすべきだった。デスゲームとか、それ以前の問題だ。内通者が居ては、まとまるはずがないからな」

「それは同感だ。だが、制限時間があるのなら結局は殺しあわなくてはいけない。……生き残れるのは、結局一人だけだ」

 デスゲームの残酷な事実。

 結局、日常に戻れるのはたったの一人きりなのだ。だとするならば、仲間や友愛の終着は茶番。どうせ、最期は殺すのだ。

「……そうとは限らないかもな」

 灰原がさらりと言った。

「「「……ッ!」」」

 驚愕の視線が来た。

「試してみた。普通のスマホにはロック画面で写真を撮れる機能があるからな。このスマホには3つのアプリ以外は入っていない様に見えるが……こうして、ほら」

 起動したスマホにはなんの変哲もない床の写真が映っていた。

「……写真?」

 誰かがつぶやいた。

「まさか、あのメモは自作自演……ッ!?」

 さすがに枢木は頭の回転が速い。特殊な操作でカメラが使用できるなら、メモを偽造するのも可能。

「そういうこと。カウンターには紙とペンがあった。僕たちは互いを監視していたわけじゃなかったから、いくらでも偽造の機会はあったろうさ」

「……では、本当の勝利条件はなんだと?」

 そして、それで疑問になるのが真の勝利条件だ。

 なぜなら、全員にくばられた手紙にはデスゲームとしか書かれていない。本当に死人が出ている以上はデスゲームに違いないが、それで一人になるまで殺し尽くせは結論を急ぎすぎているだろう。

「それは分からない。だが、小学生をゲームに参加させるあたり、運営側は相当に性根がねじ曲がっている。そういう類の人種の思考は読みやすい。あいつらは簡単にクリアできたのにと指差して嘲笑うのが大好きで、ヒントは灯台元暗しを地で行くものだ。そのほうが笑えるからな。その思惑を考えると見えてくるものがある」

「灯台下暗し……烏丸か!」

 スマホのメモが虚偽ならば、本物がある。そこに決定的なヒントが隠されている可能性が高い。

「僕もそう思う。奴のスマホの中にクリア方法、あるいはそれにつながるヒントが書かれているはず」

「よし、では全員で奴を倒す」

 即断即決、それでこそ枢木らしいと言うものだ。

「……だが、奴の居場所が分かるのか?」

「エントランスだ」

「エレベーターが動いていたぞ。移動していないのか?」

 灰原はいぶかしんだ。

「黒崎涼風に聞いた。奴はゲーム感覚でこのデスゲームに参加している。べらべらとしゃべっていたぞ。烏丸に挑んで逃げたことを」

「黒崎ならこちらでも会った。あの状態なら何を話しても不思議ではないが」

「彼女はエントラスにいる烏丸に挑んで、そして命からがら逃げ出したらしい。そして、追ってこなかったと話していた」

「それはおかしいな。警戒した? だが、罠ごと食い破ろうとするような男に見えたが」

「だから、エントランスを離れられない理由があるのだろう。おそらく、最初の脱出時に犠牲者が出なかったのもエントランスを離れられなかったからと考える」

「なるほどね。それなら確かに納得できる理由だ。……だが、黒崎の方はどうする?」

「彼女の性格から言って、エレベーターには乗っていないだろうな。エントランスを離れられないなら、1階でもエレベーターは安全地帯だ。ボタンだけ操作したのだろう」

「……更に下階まで下っていたら、待ち伏せされていた危険性があったのか」

 彼女の現在位置は不明だ。エレベーターを操作した時点では一階に居たということしか分かっていない。

「そうだな。だが、彼女をどうにかする手段はない」

「エントランスを避けて捜索、先に黒崎を対処する手もあると思うが?」

 灰原が多少強引な手を提案する。

「怪我をさせずに取り押さえることなどできん。最悪、殺してしまう可能性がある。烏丸を倒して、本当のクリア条件を彼女にも伝えるほかない」

 枢木はため息をついて返答した。

「――ま、確かにな」

 話は終了した。

 即座に烏丸のところまで行き、倒す。


 


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