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公債国王と金貨の魔王 勝つのはどっち?

 いくらなろう世界ファンタジーが剣と鎧と魔法の中世世界でも、お金が貨幣、金属、物質というのは作者の頭が古すぎる。時代遅れ、時代錯誤を通り越して害悪レベル。作者の金銭感覚が400年前で止まっている上に、作品を読んだ読者にもお金=物質という400年前の間違った金銭意識を植え付けてしまう。お金は信頼で生まれる。通貨は債権と債務の記録。なろう世界の通貨は魔法で記録しろ。そうすれば偽金魔法という小説も書ける。


 ここは隣に魔王の国がある人間族の国ブリタニカ王国である。深夜10時の王宮で国王のドッキテ1世と外務大臣、財務大臣、軍総合司令官、中央銀行頭取が話し合っていた。

「国王様、外交交渉は極めて難航しております。魔王軍はすでに我が国より大量の金塊と金貨を所有していて、兵士を集めるのはとても簡単でしょう。遅くても3年後には魔王軍と戦争になると思っていただいたほうがよろしいかと」

と外務大臣が国王に言った。

「我が国の兵士になれる人口は魔王軍の3分の2分程度。残りの足りない分は他国の傭兵を雇う必要があるでしょう」

と軍統合司令官が提案した。

「取りあえず先立つ物はお金ですな。兵士を雇うにも武器をそろえるにもお金が入り用ですから」

と財務大臣。

「では足りない分の資金は公債(国の借金)で捻出すると言うことでよいな?頭取?」

と国王が中央銀行頭取に尋ねた。

「もちろんよろしゅうございます。今、我が国は年2%のデフレ(需要不足、供給過剰)ですから労働人口はあまっております」

と頭取。

「魔族は寿命が長い。戦争となれば私1代ではとうてい終わらないだろう。少なくても3代、100年は魔王軍と戦争が続くと考えていかないと我が国は確実に滅ぼされて、国民は全員奴隷か食料にされる。皆もそこをよく頭に入れておいてくれ」

とドッキテ1世が言った。


――3年後――

 人間族の外務大臣の予言通り、魔王軍がブリタニカ王国に戦争を仕掛けてきた。他国を侵略して得た金銀財宝以外に、領地内に多数の金山を所有しているのだ。

「兵士志願者はどんどん雇え。金はたっぷりある。これだけあればオーク族もコボルト族もケンタウロス族も我が軍に加わるだろう」

と魔王は余裕たっぷりに部下に命令した。今までも魔王軍が勝てたのは、長い寿命と魔力もあるが、何より金を大量に所有しているからだった。金貨を見せれば誰でも兵士になるのだ。


――30年後――

 ブリタニカ王国と魔王軍と戦争が始まってから30年が経過した。戦争を始めたドッキテ1世はすでに退位し、息子のドッキテ2世が現国王だ。2代目の財務大臣と2代目軍統合司令官と2代目の中央銀行頭取が王宮にいる。

「国内にインフレの気配はあるか?」

と国王が財務大臣に聞くと

「確かに兵士を雇うために大量の現金紙幣を発行いたしましたが、最前線には売春宿以外の店はほとんど無い上に、必要な物は全て国が公費で兵士に支給しているので、戦争に従事している兵士はもらった給料は銀行に預金しているだけで、国内にはほぼ健全な程度の現金紙幣しか流通しておりません。そもそも国が戦時体制なので買いたくても国内に物資も店もありません」

と財務大臣が答えた。

「国王様、ここ30年の戦争で我がブリタニカ王国は魔王軍の国土の10分の1の面積の領土を占領しました。ここに国民を移住させて産業を育て、子育て支援金を支給して国民の数を増やしましょう。戦争は数ですから」

と軍統合司令官が提案した。

「では我がブリタニカ王国は、インフレ率を無視しない程度に新たに公債(国の借金)を発行して中央銀行に買い取らせて戦費を調達する。よいな?頭取?」

と国王が頭取に聞くと

「通貨の発行権を持っている中央銀行は王国の子会社ですから問題はありません。中央銀行は公債を買い取ってどんどん紙幣を印刷するだけです。ブリタニカ王国を親会社と見なすと、親会社の負債を子会社が買い取るように見えるのですが、子会社が現金紙幣を印刷できる権利を持っているので、子会社が買い取った時点で借金は相殺されてしまいますから。印刷したお金でどんどん外国からも兵士を雇って、食料など戦争に必要な物を外国から買い取って戦争に勝利して下さい」

と2代目頭取が言った。


――10年後――


 魔族の宮殿に魔王と財務大臣、将軍が集まっていた。

「魔王様、兵士を雇うのに必要な金が不足し始めました。人間族が思っていた以上に粘り強く戦うので。43年も戦えるお金を人間族はどこから手に入れているのでしょうか?」

と魔族の財務大臣が魔王に報告した。

「仕方ない。いったん魔王命令で今魔族国内に流通している金貨を全部回収して、金の純度を4分の1に下げて金貨を作り直そう。そうすれば金が確保できて兵士を雇う金貨が作れるぞ」

と魔王が言った。

「幸い巨人のサイクロプス族、ギガンテス族は力は強くても頭は悪いです。これが現在の魔王国の新しい金貨だと言えば金の純度は低い金貨でも兵士になるでしょう」

と将軍が魔王に提案した。


――30年後――


 ブリタニカ王国国王は3代目のドッキテ3世が新しい国王になっていた。財務大臣、中央銀行頭取、軍統合司令官、産業大臣も3代目だ。

「我が国の負債(国の借金)はどの程度になっている?」

と国王が財務大臣に聞くと

「国内で1年間に生産できる物(野菜、穀物、鉱山で採掘した金属から作った金属製品、肉製品、乳製品、魚、服)、サービスなど(GNP 国内総生産)の300%を超えております」

と財務大臣が答えた。

「国王様、国の借金はあまり気にしなくてよろしいのです。確かに国内に流通している通貨の量は増えましたが、今我が国の目標は魔王軍との戦争に勝利することです。なにしろ、魔王との戦争に負ければ国民全員が奴隷か食料にされてしまうのですから」

と軍統合司令官。

「ならばどんどん公債を発行して、中央銀行に買い取らせて戦費を調達する。軍統合司令官、我が国は現在どの程度勝っていて、魔王の領土はどの程度占領している?」

「現在、正規軍と傭兵の混成軍で勝利し続け、魔王の領土の4分の1は我がブリタニカ王国の領土となっております。戦費さえあればもっと大量の傭兵を雇えるのですが」

と軍統合司令官がドッキテ3世に言った。

「国王様、中央銀行は公債(国の借金)が無いと現金紙幣を印刷できません。さらに公債(国の借金)を発行していただかないと」

と中央銀行頭取がドッキテ3世に意見をした。


――30年後――

魔王、大臣、部下。

「魔王様、金貨を作るための魔族の金が底を付きました。金を掘る金山も戦争で人間族に占領されました。新しく兵士を雇いたくても金貨を作る金がありません」

と財務大臣が魔王に言った。

「金貨をやめて銅貨にするか?」

と魔王が言うと

「ダメです。兵士やオーク族、コボルト族は金貨でしかお金と認めてくれませんし、戦いません。銅貨には価値が無いと見なしています」

と魔王軍将軍が答えた。

「いったい、人間族はこれだけの莫大な戦費をどこから調達しているのだ?」

と魔王は苦しげにうめいた。

――30年後――

 時代は4代目国王ドッキテ4世の時代になっていた。4代目産業大臣、4代目軍統合司令官、4代目財務大臣、4代目中央銀行頭取を王宮に呼んで私的な会議をしている所だ。

「国王様の代でようやく魔族との戦争にブリタニカ王国が勝って魔王を処刑できましたな。133年かかりました」

と軍統合司令官。

「戦争が終わっても国王様は中央銀行の公債残高(国の借金)を返さなくてもよろしいのです。そもそも中央銀行は現金紙幣を印刷できる国の直営である子会社だから、親会社に返せと言う必要が無いのです」

と中央銀行頭取。

「それに魔王の領土を占領して、そこで牧畜、農業、鉱山採掘、漁業、新技術開発などの産業を生み出し、国民が働くので、国が経済成長をして公債対GNP(国内で生産できる物の量)残高の比率を下げましたからな」

と産業大臣。

「戦争に勝利して、国内に投資して、国内で生産できる物(国内総生産GNP)を増やしたので、国土は魔王の領土の分だけ増えて、133年前とは比べものにならないほど国民も増えて国が豊かになりました。しかし、これだけ増やしてもまだ国内経済は年0.3%のインフレ(物が不足気味)ですから国王様は公債を新たに発行してさらに銀行からお金を借りる必要がございます」

と財務大臣。

「金に固執したのが魔王の敗因だ。金こそ価値があるという金本位制主義では手持ちの金の量以上の通貨を発行できないから景気がコントロールできない。金崇拝が魔族を滅ぼした。公債の発行限界はインフレ率で決まる。いくら国の借金が増えてもそれより早く国民に投資して国内で生産できる物、サービス(国内総生産GNP)を増やせばいいだけだ」

とドッキテ4世が言った。

「しかし、これだけ公債(国の借金)を発行して現金紙幣を作ると、必ず無税国家が作れると言い出す愚か者が出るでしょうな」

と財務大臣。

「税金は必要だ。税金には3つの役割がある。1つ目は埋め込まれた景気の安定装置だ。2つ目は格差の縮小を目的にした所得の再分配。3つ目は「財源」だ。国に税金を納めるには中央銀行が印刷した自国通貨のみでしか認めないということで、国内に流通する通貨を1種類にできるし、現金に価値がある裏付けになる。それに集めた税金は「財源」として所得の再分配に使う。どこの国でも金持ちと貧乏人は絶対生まれる。金持ちと貧乏人の所得の格差が大きすぎると、国民が不満を抱いて反乱を起こす。それを防ぐために母子家庭に給付金を出し、働けないけが人や病人には年金を払い、手持ち資金が少なすぎて店員を雇えない商店に補助金を国が出す。それに食は何より大事だ。農業、牧畜、漁業には国が金を出して、大不作の年でも国がある一定の金の保証はしないといけない」

とドッキテ4世がつぶやいた。


 この話のモデルになったのは、1815年の「第2次英仏100年戦争」です。

 イングランド王国は中央銀行を持っていたが、フランスは無かった。通貨発行権を持つ中央銀行に自国の公債(国の借金)を買い取らせることでイングランド王国は(インフレ率を無視する限り)無限の資金調達力を手に入れた。最終的にイングランド王国は最大288%まで公債対GNP比率を引き上げた(国民が1年間に生産できる物とサービスの価値の約3倍の借金を国がした)が財政破綻はしなかった。それどころか、国が借金をすることで大英帝国の基礎を作った。この話は現在の日本経済にも当てはまる。


1 自国通貨を持つ政府は、財政的な予算制約に直面することは無い。


2 全ての経済は、生産と需要について実物的あるいは環境的な限界がある。


3 政府の赤字は、その他の経済主体の黒字。


以上3項目はMMT(現代貨幣理論)の基本理念。このお話の元ネタ。


だから、YouTubeでMMTで検索すると、財政出動、消費税廃止という話になる。でも、財務省は緊縮財政、消費税増税、法人税減税。プライマリーバランス黒字化という狂気の経済政策を現在行っている。


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[良い点] 文章が読みやすく、難しい理論を例えを使ってもらえたので、楽しめて、勉強になりました。
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