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10分で胸キュン恋愛短編集

あざとカワイイ女子が恋愛最強説!

作者: ニコ・タケナカ

「おはよ」

「おはよう。いい天気だねっ♪」

オレが普通に挨拶すると、1、5倍増しに気持ちのいい返事が返ってきた。ワザとらしいくらいの笑顔を添えて。

(いつもながら、あざとい)

オレは気にしないよう彼女の隣の席へ着いた。


よく見ると、彼女の髪型が変わっている。

「あれ?その髪型・・・・・・」

「あ!分かる?ちょっとアレンジしてみたんだ!」

嬉しそうに彼女は髪の束を持ち上げて見せてきた。

(しまった・・・・・・前にもこんな事が、)

彼女はよく髪型を変えてくる。それは自分に注目させようという魂胆なのだろう。ネットの記事にそんなあざとい女子の心理が書いてあったのを読んだ事がある。


「ねえ、似合う?」

彼女は顔を近づけてきた。わざわざ側に来なくても見えるというのに。

近くで髪をかき上げると、シャンプーの香りだけではない肌から立ち上る何とも言えない甘い匂いがして、興奮を誘う。

そんな事されては、男としては似合うと言うより他にない。

「ああ、似合ってるからっ、座って!」

「フフッ、嬉しっ♪」


こういう事を、平然とやってくる子なのだ。

(あざとい・・・・・・)


席に着いた彼女は、机にノートを開いて朝から勉強しているようだった。

(これも、あざとい)

自分を良く見せようとでもしているのだろう。

「んー」

どこか問題につまづいているのか、悩ましげな声を漏らしている。


トン、トン、トン、・・・・・・


教科書の文字を目で追いながら、彼女は持っているペンをトントンと、唇に当てていた。

プックリとして、艶やかな唇にペンの先が当たるたび、まるでボールが弾むようにペンがはじき返される。


(ん?)

そのペンが気になり目を凝らすと、ヘッドの部分に何かついているようだった。

(んん~?)

どうやらアニメか何かのキャラクターものの小さな人形がペンにあしらわれている様だ。


彼女がペンを振るたび、そのキャラクターが唇にあてがわれる。

それはまるでキスをしている様に。

チュ、チュ、チュ、・・・・・・


(くそっ!かわいい・・・・・・!? いや!あざとい)

彼女の行動は異性に見られることを計算したうえでやっているように感じる。

これもオレに見られている事を意識しているのだろう。


チュ、チュ、チュ、・・・・・・ピタっ!


ペンが止まると不意に彼女がこちらを向いた。

「ねぇ、そんなに私の事、気になる?」

「はっ!?べっ、別にっ!」

オレは目をそらした。

「ウソ。だってずっとこっち見てたでしょ?」

「見てないし・・・・・・」

「ふーん」


オレは見ていたのをごまかすため、授業の準備にカバンを開けた。

「・・・・・・あ、しまった」

カバンを開けるといつも入っているはずの筆箱が見当たらない。家に忘れてきたようだ。

「どうしたの?」

隣の彼女がオレの様子がおかしいと声をかけてきた。


「いや、その、筆箱忘れたみたいで、」

「あ、だからこっち見てたの?書くもの貸してほしいならそう言ってよ。はい、どうぞ」

彼女は持っていたペンをオレに差し出した。

「いや、これは・・・・・・」

それは、彼女の唇に何度も触れていたあのキャラクターもののペンだ。


ペンを見つめるオレの事を不思議に思ったのか彼女が言う。

「かわいいでしょ?その頭を押すと芯が出るからね」

カチ、

言われて押すと、親指にはプラスチックの無機質な感触が伝わった。

カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ!

オレは何だかムキになって、そのキャラクターの頭を連打した。

(この、この、この、この、この、この、この、このっ!)

「あはは!何してるの?それ、お気に入りなんだから壊さないでよ」

彼女はまた、勉強に戻っていった。


「んー・・・・・・」

悩ましげな呟きがまた聞こえてくる。

目を向けるとタイミングを図ったように、彼女は白く細い指先で垂れる髪をかき上げ、耳にかけた。

その仕草までなんだか悩ましげだ。

(あざとい!)


見ているうちに彼女の唇が、小さく動き始めた。まるでウサギか何かの小動物が草を食むように。

「三角形 ABC 内に点 P があり・・・・・・ が成立するとき、三角形 ・・・・・・の面積の何倍になるか・・・・・・」

ブツブツと聞こえてくる悩ましげな呟きは、数学の問題の様だ。


彼女がまたこちらに振り向いた。

「ねえ、昨日の数学の課題やってきた?」

「え?ああ、とりあえずは」

「ほんと!?この問題なんだけど、どうしても分からなくて」

ノートを手にした彼女がオレの隣にずいっと体を寄せる。


「ちょ、ちょっと!」

「ねぇ、教えて!お願い!」

お願いしているつもりなのか、彼女は肩をグイグイ押し付けてくる。

(あざとい!あざといぞっ!)

ボディータッチが多いのは計算高い女性の特徴だ。これもネットの情報だが、そう書いてあった。


例え肩であっても、女の子に触れられるというのは意識してしまう。

「いや、あ、ちょ、」

「ペン貸してあげたでしょ?お願い」

今度はオレの机の前に回った彼女が、床に膝をついた。そして両手を机の上にちょこんと揃えて乗せ、首をかしげてお願いする。

「ね?」

男がどういう仕草にグッとくるのか知っているのだ。女の子から上目遣いでお願いされては断りようがないじゃないか!


渋々、オレは彼女のノートに数式を書いてあげた。

「この問題はベクトルと面積比の公式があるから、それに当てはめるだけだよ」

式を書いている間、彼女はずっと上目遣いでこちらを見てくる。

(やりにくい・・・・・・)

自分がどう見られているのか分かっているのだ、彼女は。


「ほら、簡単だろ?」

「ホントだ!すごい!すごい!」

ちょっと教えてあげたぐらいで、彼女は大げさなくらいに喜んでみせた。

「これくらい・・・・・・」

「私、数学苦手だから、全然分かんなくて。やっぱり頼りになるなぁ」

頼りにされて嫌な訳じゃない。喜んでもらえて嬉しくない訳じゃない。でも、

「ありがとう!また、分からない所があったら教えてね」

(ほら!そうやって男を手玉に取るつもりなんだろ?)


彼女はとても人当たりがいい。

ポジティブな性格で誰かの嫌味を言ったりせず、いつも笑顔でいるから男子ウケする。かと言って女子から妬まれるような子でもない。笑顔を絶やさない子というのは誰にでも好かれるのだろう。

しかし、自分が集団の中心になろうという気は無いようだ。群れず自立した面を持っていて、特定のグループに属していないから、かえって女子同士も接しやすいのかもしれない。普通の女子と違い他人と適度な距離をとっている様に見える。

そこがオレにはあざとく見えるのだ。八方美人で計算高い女。


彼女は課題が終わった為、一息つこうと思ったのかカバンからペットボトルのお茶を取り出した。

「ん~っ!」

「何してるの?」

「このフタ固くって、開けられないよ~」

(こういうところだ・・・・・・)

ペットボトルくらい開けられない訳がない。か弱い女子をアピールしているのか?

「ねえ、開けて♪」

(こういうところも・・・・・・)

人に媚びるのがとても上手い。


キュ、

「ほら。」

フタを開けてあげると、またあのスマイルを見せた。

「ありがとっ♪」

(くそっ)

なんだかんだ言って、オレはいつも彼女に乗せられている気がする。


「なに、またやってるの?」

彼女の友達がやって来て、オレに言う。

「ダメだよ、引っ掛かっちゃ。この子、こういうキャラ作ってるんだから」

「え~っ、キャラってなに?なんかひどーい!」

怒った彼女はほっぺたをプックリと膨らませた。


「ほら、そういう所だよ」

友達が膨らんだほっぺを押す。

ブッ!

「怒って頬っぺた膨らますとか、子供でもやらないよ?」

「フフフッ」

やはり全ては演技なのか?彼女は否定せず笑っただけだった。


「まあ、これだけ分かりやすいと、嫌みなんて通り越して可愛く思えるけど」

「キャラなんて作ってないよ、もーっ!」

「ハイ、ハイ。課題終わったんでしょ?ノート貸してくんない?」

「うん、いいよ。」

怒っていたのか、いないのか・・・・・・やはり他人とは一定の距離を保っていて、サバサバしている。

こういう所が愛されキャラなのだろうか?


ゴクゴク、

お茶を飲む彼女を見ていたら視線が合い、その目がニッコリ笑った。

「飲む?」

(やっぱり、ワザとやっているんだ!そんなの間接キスじゃないかっ!あざとい!)

「フフフッ」

どうしていいのか戸惑うオレに彼女が不敵に笑う。

「冗談だよ?」

そうやって男心をもてあそぶのが楽しいのだろうか?


「でも・・・・・・さっきのは冗談じゃないよ」

「は?何が?」

「キャラ作ってるって話」

「そんなの・・・・・・」

いくら男が単純だといっても、こんな近くで見ていれば分かる。彼女は計算してやっているのだろう。


オレが言葉を濁すと、ニッコリ笑っていた彼女が真顔になった。

「私・・・・・・キミの前では素だから」

「え?」

彼女はオレの耳に顔を近づけて言った。

「キミは特別だよ?」


!?


(あざとい!あざとい!あざとい!でもっ!・・・・・・やっぱり、カワイイ!!)

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