日本編:1
翌日。
私は、窓から差し込む陽光に照らされ目を覚ました。
朧げな視界の先には、赤い封筒。そういえば、学会長がソルバの父親を殺した抗魔の詳細を伝えると言っていたことを思い出した。
手を伸ばし、封筒を取る。
「しっかし、学会長も赤い封筒が好きとは物好きな人だ。」
封筒を開くとそこには、日本行きの航空券と抗魔についての報告書が入っていた。
携帯を取り出し、ソルバにかける。
プルルルル。プルルルル。ガチャ。
「どうしたの?」
「日本に行く準備、できてるのか?」
「あぁ、できてはいるけど」
「いくぞ」
慌てた声で聞いてくる。
「待って。飛行機のチケットはもってるのかい?」
「持ってる。ロンドン・ヒースロー空港を2時発だ」
「今10時だから、間に合うとは思う」
何かを書く音が聞こえる。
「どうした。何か用事があるのか?」
「あの。まだ仕事が残っていて……」
苦笑いが聞こえる。
「今どこにいる?手伝ってやろう」
「魔術学会の研究室Bにいる」
「今から行く」
電話を切り、荷物の準備をする。とは言っても、現地調達できるため必要最低限のものだけだ。
ドアを開け、廊下に出る。研究室Bは地下一階だ。今私がいる階が3階。歩くのすらめんどくさく感じる。
転移魔術を使う。それほど遠い距離ではないため、詠唱は最小限に留める。
“Move”
その瞬間三階の廊下から私は消え、地下一階に現れる。
というか、日本までも転移魔術の方が早いと思う。あとでソルバに聞こう。
コンコン
「ソルバ、きたぞ」
「今、開けるよ」
中は、『成』の実験施設だった。『成』は、物質を作り出す魔術だ。例えば、錬金術。古代では貴金属を作り出そうとしたらしいが、現代では物質を作り変えることに重きが置かれている。しかし、そこまで万能なものではない。生命活動を行う物体を作り変えることはできないし、作り変えるとは言っても、同等のレベルの物質しかできない。ただ、『青の魔術師』を除いては。
『青の魔術師』。それは、命の代替品を造ろうとした者。不死を目指し、詳細は不明だが、その最果てに辿り着いたとされる。現在は、居場所が不明だ。
「なんの仕事だ?」
「『成』と『撃』を合わせた魔術についての実験結果についてなんだけど……」
バツが悪そうな顔をする。
「まさか、その実験結果が取れていないとか、ないよな?」
「ははは。そのまさかだよ」
よく電話で間に合いそうとか言ったもんだよ。
「発想は悪くないんだけどな」
『撃』を使用するには、詠唱が必要だ。しかし、『成』を利用することで、あらかじめストックし、無詠唱で『撃』が使用できるということだ。
「私に任せろ」
「どうするつもりなの?」
「まぁ、見てろ」
“Fire”
と詠唱し、そこにあるダンボールを燃やす。
手のひらサイズの炎だが、着火するには十分だ。
そこで、すかさず
“Stock and keep”
目の前から炎が消え、ダンボールの燃えクズが残るだけだ。
「いくぞ?」
すると、さっきまで何もなかった所に火が現れた。
「こんなもんか」
ソルバの顔には驚きが見える。
「僕が、三日間徹夜で考えていたのに……」
「そう難しく考えるな」
「炎は、簡単につけれるだろ?」
「流石に…それは」
“Fire”
ソルバが唱えると、火がつく。
「そこで、だ。火を保つためには何がいる?」
「燃えるものと酸素と火」
「そうだ。酸素は空気にはある。火はさっきつけた。燃えるものはなんだろうな?」
「Cを含むものでは?」
「そうだ。それを錬成すればいいじゃないか。あくまで、私がさっきしたのは例だがな。ダンボールを使うことでCの代わりにし、しかし、それでは保てる時間が短いし、大掛かりな魔術はできない。そこが課題だな。」
「でもどうやって、火をストックするのかが分からない。」
「はぁ、『成』の特徴を生かせ。空間を造るんだよ。空間を。小さなポケットサイズなら簡単に出来るだろう?」
「空間を造る? なるほど!そういうことだったのか!」
「早く報告書にかけ。」
ソルバが、報告書を書き終わるのにそこまで時間はかからなかった。
「終わった~」
「どれどれ、いい出来じゃないか。文章を書く能力に長けているな。」
「そうかな」
苦笑いするソルバ。実際、文章を書く才能があるのかもしれない。
「提出しに行ってくる。ちょっと待っててくれ」
「あぁ、分かった。『暇つぶし』してていいか?」
「派手なことはしたらダメだよ」
「分かってる。分かってる」
「それじゃあ」
ソルバが部屋から出ていく。
暇つぶしとは言っても、ちゃんとした研究だ。
「んーっと。この銅鉱石を使うか」
一立方センチメートル位の銅を手のひらに置き、唱える。
“Change copper to bullet ”
すると、銅が銃弾の形に変形する。
そして、魔力を込める。
“Fire surround the bullet.”
唱えると、銃弾に光が灯り、消える。
火の魔力を付与する。これで着弾時に燃えるはずだ。
ここまでは、並みの魔術師は出来る。
そう、ここまでは。これだと結界や魔術障壁に阻まれてしまう。貫通力を上げないといけない。
風の魔力を付与するか。いや、それでは速度を上げることは出来るが、貫通とまではいかないだろう。
悩んでいると、
ガチャ
扉が開く、
「何してるんだい?」
「あぁ、ソルバか。この銃弾を結界とか魔術障壁に貫通させたいんだ。
」
「流石に無理なのでは?」
そう言いながら、ソルバは転移魔術についての本を読んでいる。
「転移魔術。それだっ」
「どういうことかな?」
「転移魔術の応用さ」
なんか二回目だな。この話。
気を取り直して魔術陣を刻む。
魔術陣は、ギリシア語やヘブライ語、アラビア語などで言葉が書かれ、神や自然を表す記号を交えることで、固有の能力や現象、結界などを造るものだ。
今回の場合は、動いてある物体を転移させるため、遠くにいる場合でも、魔術の効果が現れる魔術陣を刻む。
ソルバは興味津々に見ている。
「よしっ。刻み終わった。ソルバ、試し打ちできるところないか?」
「それなら、こっちの部屋はどうかな?」
ソルバは研究室の奥へと向かい、扉を開く。
すると、そこには広い実験場があった。奥には、実験用のドールがあった。
「いい場所じゃないか。」
「そうかな」
「それでは、させてもらうよ」
弾を打つには、風魔術を応用して、飛ばす。銃から出るスピードと同じくらいの速さで撃つ。
“Wind of atmosphere. Gather here. Go through the doll. ”
唱え始めると、薄い緑色の魔術陣が手の上に現れる。銃弾はその円の中心に浮き、唱え終わるのと同時に発射される。
すぐさま二つ目の詠唱をする。
“Disappear and move in front of the doll ”
すると、その銃弾が途中で消え、ドールの目の前に現れた。そして、ドールの心臓部分を貫こうとするとき、火を纏い、ドールを内側から燃やす。その一瞬の出来事にソルバは唖然としている。
「こんなもんか」
銃弾を取りに行きながら言う。
「ソルバ、今何時だ?」
「・・・」
「おいっ」
「あ、はい。どうしたの?」
「話聞いとけよ」
「うん。ごめんよ」
「今、何時だ?」
「あぁ、12時45分だよ」
「そろそろ行かないとまずいな」
「そうだね」
銃弾は焦がれているが、まだ使えそうだ。ポケットに入れておく。
「それじゃあ、五分後私の部屋の前で落ち合おう」
「分かった」
私が研究室を出ると、ソルバも出ていく。ソルバの部屋の場所は研究室に近いのですぐに別れた。
ここら辺は、別の魔術師や研究者も多いので歩いていく。
私の部屋に入ると、そこには特に変化はない。封筒をカバンに入れ、持つ。これで準備完了だ。
あとはソルバが来るまで待つだけだ。
ソルバが来るのに、そこまで時間はかからなかった。しかし、ソルバはスーツケースとボストンバッグを持っていて、移住するつもりなのかと思うほどだ。
「どうしてそんなに荷物が多いんだ?」
「いやぁ、初めて日本に行くので。いろいろと準備をね」
「まぁいいが。転移魔術は使っていいのか?」
「駄目だろうね」
「はぁ、タクシー拾うぞ」
そこから空港までは何もなく、しいて言うのなら、晴天で旅行日和だ。
税関まではすんなりと行ったのだ。税関までは。
ピピーピピー
“Excuse me? Do you haveany metal?”
思い出した。銃弾をポケットに入れていたことを。
ここで。選択がある。銃弾を出して、適当に理由をつけるか、連れていかれて無理矢理通してもらうかだ。
そんなことを考えていると。
“Are you ok? Please follow me”
連れていかれるわけだ。ソルバには先に行っといてと言っておいた。
“OK”
職員用の扉を抜け、奥の部屋へと通される。
“Show me metals ”
諦めて見せることにした。
“Ok”
“What's it?”
ここからはアドリブ能力だ。
“It is artifact”
職員は怪しんでいる。
“Really?”
“Yes”
“Ok,but I check it.”
そう言うと、銃弾を機械に通して検査しようとしたその時、
ゴゴォ
物凄い爆発音が鳴った。
“What's!”
職員さんは驚いたが、すぐに冷静を取り戻した。そして現場へと向かったらしい。
しかし、弾丸を忘れていった。
「この騒動に合わせて抜け出すことにしよう。」
部屋を出ると、煙が入ってきた。そして少し鼻に来る火薬の匂い。
「ちっ」
火事かテロかなどで考えながら現場へ向かう。
「おーい、七夜月 」
ソルバが名前を呼びながら走ってくる。
「はぁはぁ、大丈夫かい?」
「そっちこそどうしたんだ。私は何にも問題ないぞ」
ソルバ息を整えて、
「さっきそこで爆発があったんだよ」
指を指したその先には、何か袋のようなものが爆発した跡。奇跡的に死者はいないとのこと。重症はいるが。
「どうする?」
「まぁいい。警察に任せて、私たちは日本に行こう」
「あぁ、わかった」
事故現場と言っていいのかわからないが、そこを後にする。
空港はあわただしくなっており、警備も例外ではない。
「飛行機の時間は間に合うのか?」
「問題ない。さっきの爆発で30分程遅れるらしい」
「先に乗ろう」
「あぁ」
飛行機の中は、何があったのだろうと人々が話している。
「一眠りする。出発するときに起こしてくれ。これは抗魔の資料だ。読んでおけ」
座席を後ろに倒し、アイマスクをつける。睡眠に入るのにそこまで時間はかからなかった。
「七夜月。起きて」
「んぁ、出発か?」
アイマスクを外し、猫のように背伸びをする。
「あぁ。だが、少しだけ状況が違う」
周りを見渡すと、前方に武装した男が一名。後方にも一名いた。
「どういうことだ?」
「さっき乗客の中から出てきた。銃を上に上げ、何か言いながら乱射したんだ」
「テロリストか?」
「わからないけど、多分そうだと思う」
「それで、出発するのか?」
「分からない」
“اخرس”
銃で威嚇する。残念ながら言葉が分からない。だが、敵意があることはわかる。
そして、私に近づき腕を掴む。
“تعال هنا”
ソルバは冷静だが、怒っているに違いない。
そして、男は銃口を私の頭へ突きつけてくる。
乗客の叫ぶ声。ソルバは、黙ったままこちらを見ている。
“سأطلق النار عليك”
その発言と同時に、飛行機が動き始めた。
奥からもう一人の男が出てきて、拙い英語で話す。
“You will die.So you become sacrifice of god. ”
どこかの宗教団体らしい。
そんなことはどうでもよい。
飛行機が上昇し、傾く。
男が揺らめく、その瞬間ソルバが男を殴った。だが、そんなことをしているのを放って置くほど奴らも馬鹿ではないらしい。
すぐさま、ソルバに標準を合わせる。
だが、ソルバはさっきの男とがんじがらめになっており、そこまで注意が向いていない。
「面倒くさい」
“The blast.Become wall which guard him.”
発射された銃弾はソルバに当たる瞬間に落ちていく。
ソルバが戦ってる男を除いて、二人。飛行機の中、しかも飛行中だ。
炎を使うわけにはいかない。かと言って、殺すのも混乱がひどくなるだけだろう。
「眠らせるか」
“Sleep”
ついでに乗客も眠らせる。
ソルバはまだ男と殴り合っている。これ以上は見苦しいので二人とも眠らせる。
“Sleep”
縛る紐がほしいが、そんな都合よくあるわけではない。錬成することにした。
乗客のバッグを拝借する。返すことはできなさそうだが。
“Change bag to rope.”
バッグが分解され、合わさる。
布製の紐ができた。
眠っている間に男たちを縛る。
そして、ソルバを起こす。
「起きろ」
「あぁ、おはよう」
眠たげに右目をこすりながら返事をする。
「手伝え」
男たちを見て、ソルバは思い出す。テロリストと思われる男たちがいたことを。
「殺したのかい?」
「まさか、そんなめんどくさいこと、するわけないだろ?眠らせただけだ」
「そっか」
「機長に、日本に直行するように伝えてくれ。テロリストがいたら眠らせろ。そのくらいできるだろ?」
「分かった。七夜月はなにをするんだい?」
「男たちの持ち物を漁っとく」
「分かった。また」
ソルバは機長の方へ歩いていく。
その後ろ姿を見送り、男たちの持ち物を見る。
リュックサックが三つ。銃に爆弾。空港での爆発は、こいつらが犯人だろう。
そして、コーランが入っていた。アラビア語で書かれたイスラム教の聖典だ。
イスラム過激派と考えればおかしくないのだろうが、もし普通のイスラム教の人間だったら、なぜ生贄を大人数必要とするのか分からない。この飛行機には、乗客だけで100名を超える。
確かにイスラム教には、生贄を捧げる「イル・アル=アドハー」という祭りみたいなのがある。
それでも、多すぎる気がする。
「まぁ、考えすぎだろう」
コーランだけ貰っとこう。
そして、その場を後にして、ソルバのところへ向かう。
機長室の扉を開ける。
ソルバがいた。話を聞くと、ちょうど機長と話し終わったところらしい。
今回の事件の大体のあらすじを話したらしい。あの男たちから、サウジアラビアへ向かうように脅迫されたらしい。今は日本に向かっている最中だそうだ。
その後、機長と話をつけ機長室を出ていった。
CAにも今回の事件について、説明しておく。日本につくまで乗客を眠らせることも。
「日本につくまで眠らせるのかい?」
「あぁ、起きたら面倒くさいだろう?」
面倒くさいが口癖になってきている。大丈夫なのか。
「それもそうだが」
ソルバは反論する気をなくし、席に座った。続いて、私も座る。
「私はつくまで寝るよ」
「僕もそうするよ」
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地上につく衝撃に起こされる。ソルバもだ。
日本についた。羽田空港だ。
投稿が遅くなってしまいすみません!!
日本要素がこれでもかと無いのは許してください(笑)
次はもうちょっと早く投稿出来るようにがんばります!
※注意
イスラム教について。
イスラム教を軽蔑するつもりはありません。もし不愉快になった方がいましたら、謝罪申し上げます。