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第99話 虚構を信じたプリーストは死の間際に救いを見る

到底同じレベルじゃない相手に対話を仕掛けたらどうなるかという感じのお話です

 

「覚悟はできたか? お花畑のプリーストさんよぉ、その可愛らしい面を悲痛に歪ましてやるぜ」


 教会内で変身した狼男ライカンスロープが、ギラつくような殺意をルシアへ向けた。

 殺される――――本能で危険を感じたルシアは、すぐさま逃走経路を確認する。


「......争いは好みません、言葉が通じるなら話し合いませんか?」


 ――――扉は後ろ......、全力疾走すれば逃げられるかもしれない。

 でも......。


「ッ......!」


 先ほど投げ飛ばされたダメージか、足に力がうまく入らない。

 ならば、取れる手段は1つだった。


「クッハッハッハ!! この期に及んで"話し合い"とはおめでたいなお嬢ちゃん! 問答無用って言葉を知ってるかい?」


 2メートルは優に超える亜人が、ルシアを見て嘲笑う。


「亜人族は女神アルナ様を信仰していると聞きます、同じ信者として争いなんてしたくありません」

「......女神アルナだ?」

「えぇ――――平和を尊び、愛を人々に教えたという素晴らしき......」


 言おうとしたルシアは、直後に亜人から放たれた膨大な魔力によって黙らされた。


「俺は神など信じない! 傍観しかしないていたらくな存在がなにを救ってくれる!? ヤツらを崇めるくらいなら俺は栄光ある亜人の戦士を信仰する!!」


 背中に冷や汗をかいたルシアは、恐怖から半分パニックに陥った。

 言葉が通じるのに通じない、それ故に向けられた暴力を本気で怖がったのだ。


「闇を散らせ!!『セイクリッド・バースト』!!!」


 聖属性攻撃魔法を亜人へ撃ち込む。

 これが恐怖から取った、ルシアの初めて出す危害攻撃だった......。

 しかし――――


「がッ......!?」


 ルシアは腹部に感じたことのない衝撃と激痛に目を見開いた。

 亜人の発達しきった筋肉から伸びる拳が、彼女のお腹を容赦なく叩き潰したのだ。


「オイオイ話し合うんじゃなかったのか? 随分軽い口先だこってッ!!」


 続いて膝蹴りが直撃。パンチを受けた場所と同じ部分に打ち込まれた。


「ガハッ......、げふっ......!!」


 攻撃はあまりに重く、無防備な服装――――華奢きゃしゃな体格の彼女に耐えられるものではなかった。

 口元から血を垂らし、ルシアは膝をつきながらも意識を必死でつなぎとめる。


「言っただろプリーストさんよぉ、その顔悲痛に歪ましてやるってな」

「ッゥ......!!」


 勝てない......、レベルも体格差もありすぎる。

 膝を震わせてなんとか立ち上がったルシアへ、亜人が近寄った。


「それとなプリーストちゃん、君は知らなくていい部分まで踏み込んじゃったんだよ。わかるかい?」

「なっ.....なんのこと、です......?」

「幽霊の発生源のことに決まってるだろ? まだとぼける余裕があるらしいなッ!!」

「あがッ!?」


 亜人が再びルシアへ攻撃。今度は左脇腹へ回し蹴りを打ち込んだ。


「がはっ......あっ!!?」


 教会の石壁へ背中から激突、全身を蜘蛛の巣のようにヒビ割れた壁へめり込ませた。


「いいかお嬢ちゃん、お前の理想は結果的に人を――――そして今みたいに自分を殺すんだよ」


 飛び散った瓦礫を踏み砕いた亜人がルシアの前に立つ。


「確かに言葉の持つ力は確侮れん、だがな―――――――」


 身動きのできない彼女を追い打つように、鋭く太い拳がルシアの腹を三度打ち抜く。


「ッッ!?」

「その言葉だって万能じゃねぇ、それで解決できるならなにも苦労はしない。俺たち亜人は暴力でその生存競争を勝ち抜いてきた!!」


 膨れ上がった筋肉から放たれるバカみたいな一撃が、ルシアをさらに壁の奥へめり込ませた。


「そうして訪れるのが現実と理想の乖離かいり! お前を襲う圧倒的な暴力だよ!!」

「やめ......て、もう言わないで......ガッ!?」


 5度、10度と重すぎるパンチが叩き込まれる。

 攻撃の中で何度も祈ったが、救いの手は一向に降りず――――もはや無抵抗のまま暴力に晒され続けた。

 やがて15回目のパンチが腹から引き抜かれた時、ルシアは体の中から込み上げてくるものを吐き出した。


「くはっ......、あうッ......」


 吐き出された胃液が床を濡らす。

 口元を拭う気力すら無くなった彼女は、ただ虚ろに亜人を見つめていた。


「さて、このまま壁のシミになるまでなぶるのも良いんだが......マルドーからは殺すよう指示されてるもんでね。お別れだ」


 亜人のつぶやいた最後の一言が、ルシアの心を貫いた。

 自身の上司、平和と愛を唱えるアルナ様の教えを教示してくれた人が自分を殺すようこの亜人を仕向けた......!?


 あまりに耐え難い現実を前に、ルシアはようやく自分の考えが虚構――――全く無意味なことだと悟った。


「こんな......ことなら、こないだ仕事で会った軍人さんに......、ちゃんと謝っとけば良かったですね......我ながらひどいことを言ってしまいました」


 "安定"のため訪れた広報本部――――そこでの非礼な言動を遅まきながら反省、後悔した。

 亜人がトドメの一撃を振りかぶる。


 これが定めというなら甘受しよう、理想を謳って人を傷つけた自分には相応の末路だとばかりに。

 そう受け入れようとした彼女は、直後に響いたガラスの破砕音によって意識を上へ向けた。

 屋根に付いたいくつものガラス、それらを割って黒い軍服を着た兵士が飛び込んできたのだ。


「目標と庇護対象を確認!! 各個に撃ち方!!」

「了解ッス!!」


 こだましたのは軽快な発砲音。

 亜人の強靭な両肩へ9ミリ拳銃弾が雨のように降り注ぎ、血を撒き散らした。


「ぐおあぁッ......!!?」


 のけぞる亜人の目の前へ、体操服の少女が舞い降りた。


「やれ! オオミナト!!!」

「風よ穿て――――『ウインド・インパクト』!!!」


 放たれた暴風は亜人を吹き飛ばし、反対側の柱まで吹き飛ばした。


「風属性魔法......、それに――――銃?」


 現れた救いの手は、紛れもなく今日まで罵倒していた組織。

 "アルト・ストラトス王国軍"だった。


「おまたせ、国営パーティーの到着だ」


 ルシアを守るように、エルドとセリカは亜人の前に立ちはだかった。


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