第97話 亜人の策略
――――アルナ教会王都支部。
「なんでしょう......、外がやかましいですね......」
食事をしようとしていたルシアは、外の異常な騒ぎに気がついた。
大勢の人間の悲鳴が教会にまで届き、ただごとでないと彼女は席を立つ。
そういえばデモ団体が近くを通っていたなとルシアは考えたが、そんな穏やかなものではないと知ることになる。
「銃声!? なんで街中で戦闘が......!」
扉を開ければいくつもの炸裂音、機関銃の発砲音が王都にこだましていた。
それもかなり近い。
急いでマルドー支部長に連絡しようとしたルシアは、視界の端に1人の少年を見つける。
「あなた! こんなところでなにをしてるんですか!?」
男児は民家の壁へもたれるように座り込んでおり、ボロボロの衣服を身に纏っていた。
表情もやつれた様子で、顔に生気がない。
おそらく孤児だろうとルシアは検討をつけた。
「お姉ちゃん......誰?」
「わたしはこの教会のプリーストです、今外は危険です! とりあえず中に入ってください!!」
男児を慌てて引き入れ、扉の鍵を閉める。
街中で発砲するなんて全くもって信じられない、マルドー支部長の言うとおり王国軍は野蛮なんだと自分へ言い聞かせた。
「ふぅ......、でもこれでひとまず安心ですね。怪我はないですか?」
「うん、ないよ」
「それは良かったです、流れ弾が当たったら大変でした」
ホッと息をつく。
ここなら頑丈な石造りなので、万一弾丸が飛んできても大丈夫だろう。
教会は攻撃魔法にだって耐えられる特別仕様なので、それがルシアの心に緩みをもたらしていた。
「怖がらなくて大丈夫ですよ、幽霊だろうと軍だろうと、わたしが守りますから」
「......ホント?」
「ホントです、女神アルナ様は子供をいたわり守るよう言葉を残しているので」
ソッと手を握る。
だが温かいはずの少年の手は、ゾッとするほどに冷たかった。
「うん、ありがとうお姉ちゃん――――――"アッサリ引っかかってくれて"」
「なッ!?」
小柄な体躯からは想像できない力で、ルシアはそのまま投げ飛ばされた。
「あぐっ......!!」
礼拝用の長イスに叩きつけられ、木の破片が周囲へ散らばる。
「ッ......!?」
痛みに喘ぎながら身を起こしたルシアは、少年の姿が変貌していくことに気づく。
「聞いたとおりのお花畑女で助かったぜ、話し合いが好きなら喜んでしてやるよ」
ムクムクと少年の体が膨れ上がり、やがて全身が筋肉と体毛に覆われる。
それは、おおよそ人間の姿とは似ても似つかなかった。
「亜人流の暴力でなぁッ!!!」
子供に化けていた亜人は獰猛な戦闘スタイルへと変身し、ルシアを睨みつけた。