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第95話 守る手段を捨てた者の末路

 

「戦争反対! 魔王軍とは対話で解決しろー!!」


 商業区を穿うがつ大通りで、彼らは今日も叫び続ける。

 信じてやまない理想を追いかけるそのデモ団体はこれでもかというくらい見栄え重視の横断幕を掲げ、国防省を目指して突き進む。


 なぜか横断幕に連邦語が混ざっていること以外は、まぁありふれたデモであった。


「暇な連中よね〜、ロンドニアで戦った勇者パーティーとは大違い。ねぇリーリス」


 喫茶店の外席で、ミルクを口につけながら彼女は呟く。

 ローブで全身を覆っているので一見わかりにくいが桃色のセミロング、口元からは吸血鬼特有の牙が覗いていた。


「彼らにも理想があるのよ――――吸血鬼エルミナ、あんなバカな横断幕にリソースを割くくらいのね」


 リーリスはコーヒーをすすると、対面に座る魔王軍最高幹部たるエルミナを見つめた。


「わたしたちが対話に応じると思い込んでる時点でもうダメなのだけど、あの連邦語......あからさま過ぎるんじゃないかしら。裏で操ってる連中がよく見える」

「あ~アレね......わざわざ王都に潜入して最初に見る光景があれじゃ、やるせない気持ちになるわ。勇者や王国軍が必死に守ってるヤツらはこんななのかって」


 カップを置くエルミナ。


「それに――――――なんか腹立つ」

「どこら辺が?」

「わたしたちの理想や目的を、ヤツらは上辺の正義感と偽善を満たす行為のために利用してる......! あまりにも屈辱的だわ」


 リーリスも頷く。

 彼女たちは信念や理想のためにその身1つで戦い、叶えようとしている。

 それをあんなよくわからないデモのダシに使われるというのは、自分たちの想いへ対する冒涜にも等しい。


 最高幹部として、吸血鬼王の末裔として腹立たしい限りであった。


「――――それでリーリス、アーク第2級将軍から貰った物は?」

「ここにある」


 テーブルに置かれたのは、召喚魔法を具現化するための魔導結晶。


「これを混乱が起こせそうな場所で投げるよう言われた」

「ならちょうどいいじゃない、的ならあそこにいくらでもいるわ」


 エルミナが指差したのは、未だに叫び続けるデモ団体。


「......わかった」


 リーリスは座りながら魔導結晶を団体の先頭へ投げた。

 皮肉なものである、魔王軍と対話できると信じ込んでいた彼らは今――――魔王軍に襲われるのだから。


「うっ、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 先頭に立っていた主催者へ、突如空中から出現した狼タイプの亜人が襲い掛かる。


「やっ、やめろ!! 誰か助け――――――」


『対話で解決』と書かれた横断幕の目の前で、まず主催者が引き裂かれた。


「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 その瞬間、団体は蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。

 だが亜人の数は多く参加者らは次々に攻撃された。

 中には「話せばわかる」と語りかける猛者もいたが、5秒と経たず袋叩きにされたのは言うまでもない。


「なぜ......こんな......」


 目の前で繰り広げられる惨劇を見て、男は思わず漏らす。

 ここは安全な後方のはず、誰にも襲われない王都でなら好きなだけ物が言えると思っていた。


 そう――――思い込んでいた。

 だからこそ恋人まで誘ったのに。


「......待てッ! その人だけは!!!」


 血まみれの亜人が、彼の恋人を目の前で手に掛ける。

 守る力を持たない彼を一切気にかけず、亜人は将来を誓い合った2人を容赦なく引き裂いた。


「あぁ......っ、そんな!!!」


 勘違いしていた。

 平和と叫べば人を守れ、どんな頑固者でも横断幕を掲げれば説得できると思い込んでいた。


 しかしその理想はあまりにもアッサリ砕かれ、こうして殺意を向ける亜人を前に動けずにいる。


「守れなかった......」


 ナイフの1つでもあれば抵抗できただろうか、少なくとも恋人を逃がすことくらいできたのではないだろうか。

 今となってはもう遅いが、考えずにはいられなかった。


「クソッ......!! クソッ、クソぉ!!!」


 打ちひしがれる彼へ鋭い爪が向けられる。

 恋人はもういない、おとなしく死を受け入れようとしたその時――――――なにかが聞こえた。


 ――――ブオォォォォォォッ――――――!!


 いくつものエンジン音はものすごい勢いで接近、次の瞬間には眼前で死を自分へ落とそうとしていた亜人を轢き潰していた。


「......えっ?」


 現れた車列は機銃を亜人群へ斉射。

 避難の終わった大通りに銃弾の雨を降らせた。


「車両隊は負傷者を守れ! 大隊各員は降車後ただちに発砲! ただし誤射には気を付けろ!!」

「了解ッ!!」


 車両が盾になるよう停められ、中から軍人がゾロゾロと降りてくる。


「大丈夫ですか!?」


 声を掛けてきたのは若い軍人。

 その手には銃が握られていた。


「なぜ.....自分たちを助けるんだ? さっきまで散々アンタたちをこき下ろしていたのに......」

「なぜって......まぁ命令というのもありますが、あえて言うなら受け売りになっちゃうんですけど――――」


 若い軍人は銃のコッキングレバーを引きながら答えた。


「そういう人たちも守るのが――――――我々王国軍だからですよ」


 連邦語の横断幕を踏み潰し、エルドは襲い来る亜人へ正対した。


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