☆第94話 オオミナトの記憶
「っで、結局何も言わず戻ってきたんですか......?」
広報本部のリビングでくつろいでいたオオミナトが、帰って早々に痛いところを突いてくる。
俺たちは結局、あの後アルナ教会へ入れる予定だったクレームをやめたのだ。
アイス屋のおじさんからあんなことを言われてしまうと、たぎっていた怒りもどこえやら。
一気にどうでもよくなってしまったという感じである。
「考えてみれば個人の意見だ、腹は立つが俺からとやかく言うことじゃないと思ってな」
「エルドさんは甘いですね〜。もしわたしだったらー......、わたし......だったら......」
「なんだよ」
「考えてみたらわたし、軍施設に住んでますが軍人じゃありませんでしたね」
「......おい」
ぶっちゃけ外装も内装もすごくゆるい感じなので、確かに軍施設のイメージなんて湧かないが......。
「お前は休日を満喫してるな......オオミナト」
「宿なしから開放された喜びがもう凄いんですよ〜、RPGでセーブ禁止縛りさせられてたところを、今は自由にいつでもセーブできる感覚です」
「ロールプレ......? うん、わからん」
ソファーへ寝っ転がるオオミナトの隣に座る。
「っつーかお前まだ寝間着だったのかよ、だらしないぞ」
「エルドさんなんかわたしのお母さんっぽいです......、どうせ今日は外に出る予定ないですし。魔法使う用事もありませんので大丈夫ですよ」
「そういえばあの服着てないと魔法使えないんだったな」
「はい、あの体操着じゃないとなぜか魔法を発動できないんです。不便も不便ですよ」
寝返りをうつオオミナト。
「どうせならもっとオシャレな服が良かったです」
「もしオシャレしてたとして、ドレスとかだったら動きにくくて最悪じゃないか?」
「そりゃそうですけど......、まぁ"コンビニ行くだけのつもりだったんで楽な格好してたんですよ"」
ふと違和感を感じる。
最初会ったとき、彼女はこの国へ来る直前の記憶がないと言っていた。
コンビニとやらはわからんが、言動からして少なくともアルト・ストラトスに来る当日の記憶であるのは間違いない。
「なんですエルドさん? 固まっちゃって」
「いやお前......無意識の内に記憶が少し戻って――――――」
その瞬間、部屋にノックの音が響いた。
「諸君、お休みのところ悪いが緊急出動だ」
扉を開けて、完全武装のラインメタル少佐が入ってきた。
見ればサブマシンガンに最新型の"リフレックスサイト"を装着しており、弾倉も8本くらいぶら下げている。
擲弾発射機まで持っており、1番装備が優遇されていると言われる近衛師団と同等の充実ぶりだ。
「少佐、なにか起きたのですか?」
「起きた......というより、これから起きるというべきかな。参謀本部の計らいで中央近衛と同じレベルの装備が支給されてね、そのテストも兼ねる」
「では展開場所はどこです?」
「すぐそこさ、ちょうど大通りで平和主義のデモ団体が行進していただろう? そこだ」
ニッコリと、完全武装した元勇者は微笑んだ。