☆第91話 ある勇者の回想ⅱ
――――魔王が倒される1年と10ヶ月前。
その勇者はエルフの森へやって来ていた。
魔王軍により蹂躪され管理人であるエルフ族が全滅して久しいこの森で、彼は剣を振っていた。
「これでほぼラストか......、全くギルドも人使いが荒い。いまさらこんな下っ端連中の掃討に駆り出されるとは――――」
快晴の下、勇者のみが着れる防具と最強の剣を持ってモンスター退治に来ていた彼は、そこで妙な気配を感じた。
「向こうから人の気配......しかも多いな、こんなところでどういうことだ?」
ここが魔王軍に占拠されてから人間はほとんど寄り付かないはずであった。
それだけに、林を縫って広場へ出た勇者は思わず驚嘆する。
「なんだこれは......」
あたり一帯を見たことのない装備の男たちが埋め尽くしており、周囲には交戦したのかゴブリンの死体が複数あった。
しばらくして、集団の長であろう人物が勇者の下へ歩いてくる。
「君は現地住民かね? 英語はわかるかい?」
「英語......は知りませんが、言葉はわかります。自分はギルドの冒険者です――――あなた方は?」
「我々は大英帝国陸軍、ノフォーク連隊であります。キッチナー将軍の下ガリポリ攻略戦に参加していたところ、気がついたら連隊ごとここへ飛ばされていたのであります」
大英帝国......? ガリポリ攻略戦?
はてさてこの隊長さんは何を言っているんだと思ったが、装備を見れば正体はすぐにわかった。
「なるほど、ハンクと同じ世界から来た者達ですか......」
「ハンク? 誰だそれは」
「自分の知人です、あなた方は地球という世界の人間では?」
「あぁ......そうだ」
予想通りと勇者はほくそ笑む。
故に、彼は男たちが持つ"細い筒のような武器"に目をつけていた。
「ここはあなた方のいた世界とは全く違う世界です。どうです? その装備をいくつか提供してくれるなら帰還までの衣食住はこちらで約束しますよ」
「違う世界......だと? そんな非現実的なことがあってたまるか! 銃も得体のしれん者には渡せん」
「残念ながら事実です、そこに転がっているゴブリンを見てホントはもう薄々感じていたんじゃないですか? 食料だってこの人数では1週間ともたないでしょう」
勇者の言葉に、男は若干の動揺を見せた。
無論、彼はそこを見逃さない。
「ほんの少しで良いのです、2〜3人分の装備を貸していただければ寝床も食料も用意できます」
「ッ!! ......しかし!」
「隊を守るのがあなたの責務では? ここで全滅してしまっては本国にとっても大損害でしょうに」
もっともだった。
この身も含めて女王陛下の軍隊、ここで全滅すれば装備だって必然相手の物になる。
ノーフォーク連隊はようやく決断した。
「......わかった、2人分までなら貸してやる。だが帰還の目処がつくまでだ」
「ありがとうございます、ではさっそく町へ向かいましょう」
ぞろぞろと歩く連隊の先頭で、勇者は誰にも見られないよう頬を吊り上げた。
――――大英帝国軍......。ハンクのドイツ第3帝国の装備と比べれば少し劣るようだが、"ボルトアクションライフル"は非常に興味深い。
これなら量産も容易だろう。
魔王はもちろん、※※を殺す日も一気に近くなったな。