第90話 自称平和主義者とはなんとも度し難いです
「わたしたちが嫌いって......どういうことですか?」
手を払われたセリカが弱々しく言った。
「戦争の種になるからですよ、軍隊は侵略の道具で銃や兵器を使う恐ろしい集団です」
なんということでしょう、まさか依頼相手のプリーストが筋金入りの自称平和主義者だったとは......。
フィオーレが紹介前に一瞬ためらってたのはそういうことかよ。
「ずいぶんと極論だな......冒険者はどうなんだよ? 彼らだって剣や魔法を使って戦うだろ?」
「剣や魔法は感情がこもってるし神聖なので銃とは違います、あんな引き金をひくだけで人を殺せるなんて恐ろしいです......! まして国が戦争をやりたがった時に軍隊がいたら危ないじゃないですか」
あっ、これはダメだ......。
この子は純粋というか、感情論ばかりで全く線引きができていない。
王都が平和なのだって、前線で塹壕に籠もる兵士がいるからこそ豊受できているのだ。
平和はただで手に入ると思い込んでいる典型である。
「失礼ながら、軍がいなければロンドニアは今ごろ占領されていましたよ。敵意をもって襲ってくる敵を相手にどうしろと?」
「魔族とだって話し合えばきっとわかり合えます、最高幹部級ならこちらの言葉もわかるんですよね? こういう時こそ外務省が外交で解決しないと!」
落ち着け俺〜......! 外交が平和的手段と勘違いしている子にブチ切れてはいけない。
っていうか魔王軍と話し合いってなんだよ......、前線の兵士をこうも後ろから刺したがる偽善者には毎度虫酸が走る。
「失礼ながら、現場で戦った者の1人として言わせていただきます。話し合いはまず不可能でしょう」
「なんでです?」
「外務省の応答に答えるどころか、魔王軍の方から越境してきたんです。それに我々が武装してはいけないなら、ミハイル連邦や魔王軍の軍備はどう説明するので?」
「彼らはきっと侵略されないように備えてるだけですよ、防衛のための軍備です」
落ち着くんだ俺......! もう言動に矛盾しか見当たらんがここでぶちギレたら問題になる。
とりあえず、とりあえずだ。仕事の話に戻そう!
「えールシアさん......、幽霊退治の件なんですが。解決できそうでしょうか?」
額の汗を拭きながら切り出すと、ルシアはおもむろに立ち上がった。
「幽霊の件なら大丈夫ですよ、今手を打ちますので」
彼女は持っていた杖に魔力を込めると、いきなり聖属性魔法を発動した。
「闇を払え!!『セイクリッド・シールド』!!!」
まばゆい光が広報本部を包む。
反射で身構えてしまったが、特に周りに変化はない。
「この周囲に結界を張りました、とりあえずの応急処置はこれで終わりです。幽霊の出どころはこちらで調べておきます」
それだけ言い、ルシアはそそくさと扉へ向かった。
「――――――今回はフィオーレさんのお願いだったので来ましたが、もう今後は呼ばないでください。人殺しの組織とは仕事なんてしたくないので」
バタンと閉じられる扉。
――――この時俺の中でなにかが切れた。