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第88話 魔王軍元最高幹部と王国軍元勇者

 

 自室で楽な格好に着替えながら、アルミナは癒着関係にある元勇者ジーク・ラインメタルと通信していた。

 魔都ネロスフィアから、魔王軍の元最高幹部が王都の元勇者と交信するなど誰も考えないことだろう。


《なるほど......新生魔王軍の被害はもう10万を超えていたか。そしてあのギランくんも4.8トン榴弾には耐えられなかったと――――僕の仲間を3人も殺した戦士なのにあっけないものだ......》

「ギラン将軍はよくやった、ただ敵に悪魔がいただけ」

《おや、その悪魔はどこの誰だろうか? 戦士の誇りを踏みにじるなんて酷いヤツだ》


 アルミナは上着と一緒に、スカートも無造作にベッドの上へ脱ぎ散らかす。


「相変わらず嘘が光るな、お前なんかと手を組んだ自分を刺してやりたい」

《なにをいまさら――――君がそう決断したんじゃないか、僕らには絶対勝てない......とね。だから君は妹だけでも救おうと僕の手駒になった、違うかい?》

「......違わない」

《なら良いだろう? じゃああらためて報告を聞こう。投入の予想される部隊はわかったか?》


 引き出しから穿き古したショートパンツを取り出し、アルミナは華奢きゃしゃな足を通す。


「アーク第2級将軍率いる第2軍団だ――――亜人を中心に構成されていて、亜人国ウォストピアの防衛を担当する部隊と聞いている」

《クッハッハ! 亜人にまで頼るとは彼らしくない、彼は5年前まで魔族しか信用していなかった偏見くんだ。相当追い詰められてると見える》

「実際そうだろうな」


 シャツを着て楽な格好になったところで、アルミナは机の上へ地図を広げた。

 そこには魔王軍の部隊の展開状況が細かく記されており、どこに何がいるかが一目でわかった。


 最高幹部の権限を使い、魔王軍参謀から拝借したものだ。

 それら部隊の位置を余すことなく少佐へ伝える。


《なるほど、この湿原に戦車部隊を誘い出して上位爆裂魔法でまとめて吹き飛すつもりだったか。知らなければ少なからず被害が出ただろうな......》


 いくら文明レベルに差があれど、黒魔導士部隊による爆裂魔法は脅威だ。

 しかしわかってしまえばどうにでもなる、魔王軍の決戦プランはこの瞬間に破綻してしまったと言って良い。


《さて、大方は写し終えたな。敵が丸見えというのはなんとも気持ちいい》

「その地図をミハイル連邦にも渡すのか?」

《アカ共に? フッハッハッハ! 君も冗談がうまいな、連中なんかに渡すわけないだろう》

「なぜだ......お前たちは味方同士じゃないのか?」


 共同で魔王軍に挑んでいるのに、有利な情報を共有しないなんてありえない。

 そうアルミナは思っていた。


《覚えておきたまえアルミナくん、国家間に個人同士のような友情は存在し得ない。あるのはただ利益と利害。自国にとって都合の良い時だけ初めてその国を"友人"と呼ぶんだ》


 ラインメタル少佐は続けた。


《この情報は我々が犠牲を払って手に入れた物だ。未だに国境線で日和見をしている連邦が手に入れたいというなら、肉壁でも作って突っ込めばいい。そうすれば敵の所在地なぞいくらでもわかるだろ》

「国家とは.....嫌なものだな」

《たとえ嫌でもそれが国家だ。なぁに、ミハイル連邦では兵士が畑から生えてくると聞く。10個師団や20個師団、連邦にとっては小銭を払うようなものだ》


 魔王軍参謀いわく、ミハイル連邦は未だに国境を超えずに引きこもっているらしい。

 なので、本来北の連邦に割く戦力はアルト・ストラトスに向けられていた。


 なるほど......これではアルト・ストラトスが怒るのも無理はない。


《まぁ今はこっちも幽霊騒動でてんやわんやしててね......、ちょうどエルドくんが明日プロを呼んでくるんだ》

「幽霊退治のプロ......?」

《名を『アルナ教会』。女神アルナを信仰するアルナ教を王国中に布教した宗教団体だが、そこのプリーストの腕は確からしい》

「女神アルナか......ジーク、お前はそれでいいのか?」

《"※※"を殺す話か......、もちろんアルナ教会に頼るのは遺憾極まる。だがアレルギーのように拒否していてはかえって遠回りになってしまうからね。使えるものは使うだけだよ》


 割り切りは良いらしい勇者は、最後に一言呟いた。


《まずは幽霊退治、その次は亜人国ウォストピアだ。引き続きスパイをよろしく頼むよ。くれぐれもバレないように》

「......わかった」


 通信を切ると、アルミナは思わずベッドに身を任せた。


「はぅ......疲れた......」


 それだけ言い、沼へ沈むように彼女は眠りに落ちた。


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