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第87話 ペンデュラム様、あなたの部下はとても忠実です

 

 ――――魔都ネロスフィア。


 ここは巨大な面積を誇る魔王軍の首都たる地、その中心にそびえる新生魔王城へ1人の吸血鬼が戻ってきていた。


「魔王ペンデュラム様。最高幹部アルミナ、ただいま帰還いたしました」


 装飾豊かな王の間で、水色の髪を下げた吸血鬼アルミナは膝をついて眼前の魔王へこうべを垂れる。


「よくぞ戻ったアルミナ、リーリスより敵軍に捕まったと聞いていたが無事で何よりだ」

「申し訳ありません魔王様、人間共の進化は我々の想像を超えていました。ロンドニアでの失態......お許しください」

「構わん、人間共の都市にダメージを与えただけでも戦果として十分と言えよう」


 ペンデュラムの表情は相変わらず鎧に隠されているが、その声は重々しかった。

 最高幹部を2人投入して結果がダメージだけ、当初の"占拠"という目的からはかけ離れていた。


「魔王様、敵軍と交戦した第1軍団の被害をお聞かせ願えますでしょうか......」


 しばしの沈黙が降りる。

 だが、ペンデュラムは眼前の最高幹部へ隠さず打ち明けた。


「我が軍は今も敗走を続けている......。軍団司令のギラン第1級将軍は移動要塞ごと消し飛ばされ、第1、第2、第3梯団ていだんは文字通り溶けたと聞いた」


 ペンデュラムは淡々と、だが怒りに震えながら続けた。


 鉄の像の砲撃でジャイアント・オーガが薙ぎ倒され、後方で指揮していた司令官は黒魔道士ごと爆裂魔法のような何かで消し飛んだ......。


 後方にいた第4梯団も、炸裂魔法付きの光の矢によって重要拠点を潰され、森ごと燃やす勢いの爆撃によって被害を受けたと......。


「つい昨日死傷者は10万を超えた......、第1軍団の戦闘力はもはや皆無に等しい。急ぎ援軍を当てなければ蹂躪されてしまう」


 既に蹂躪状態じゃないか.....とアルミナは漏らしかけたが、その言葉は唾液と一緒に飲み込む。


「我が領土に人間共の軍が侵入など、なんとも不愉快極まりない......! 北のミハイル連邦はまだ国境を超えてはいない。まずはアルト・ストラトスを魔王領より追い払わねばならん」

「ではギラン第1級将軍の後任は......どなたに?」

「第2軍団司令のアーク第2級将軍に任せるつもりだ......、ギランほどの腕っぷしはないがヤツも信頼は置ける」


 豪華な装飾品が、今日ほど虚しく思えた日はない。

 もはや、今となっては芸術品よりも軍団の方が大事となっていた。


「アーク将軍は言わずもがなですが、第2軍団は亜人が中心だったと記憶しています。連中は信用できるのでしょうか?」

「今必要なのは1体でも多い兵力だ。亜人の国はかつて人間との戦争に敗れた過去もある、現にその第2軍団は亜人国ウォストピアの首都を拠点としている。完全にこちら側だ」


 アルミナは再び顔を床に向け「失礼しました」と一言いう。


「お前にもまた近々任務を与えるが、今は休養に徹しろ。お前のことを心配していた妹のエルミナにも会ってやることだな」

「ありがとうございます魔王様、それでは失礼します」


 彼女は王の間を出ると、エルミナに会わず真っ先に居室へ戻った。


 アルミナは自室へ入ると一息つき、ポケットから1つの道具を取り出した。

 無骨なそれは"アルト・ストラトス王国軍の魔導通信機"。

 彼女はそれを教えられたとおりに起動した。


「ストレイドッグからレーヴァテイン01へ、先ほど魔王ペンデュラムと接触、魔王城への侵入にも成功した」


 通信の相手は他でもない、魔王ペンデュラムが地上で最も嫌がると言っていい最悪の人間だった。


《ご苦労アルミナくん。こちらレーヴァテイン01――――ラインメタル少佐だ。ペンデュラムくんの様子はどうだった?》

「ギラン将軍と、第1軍団の被害を重く見ているようだった」

《なるほど、でも君はそのギラン将軍が吹き飛ぶさまを発射地点から僕と見ていただろうに。演技の上手いことだ――――ではあらためて報告を聞こうか、元最高幹部アルミナくん》


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