第86話 上級冒険者の人脈を舐めてはいけません
――――冒険者ギルドフェニクシア。
「っで、わたしのところへ来たと......?」
幽霊との戦闘から一晩明け、俺は睡眠を欲する体に鞭打ちながらオオミナトのペアであるフィオーレに会いに来ていた。
4徹の状態でなお仕事をこなす自分は、もう立派な社会の歯車となってしまったのだろう。
オオミナトには社畜と言われ、セリカからは「やっと国営ブラックの社員らしくなってきたッスね」とか好き放題言われてしまった。
まぁ、当のお二方はさすがに限界だったのか今日は朝からリビングでグッスリ寝ている。
なので、俺と少佐でなんとか打開策を見つけようということになったのだ。
「頼むフィオーレ! 冒険者のお前ならなんか幽霊専門業者みたいなの知ってるだろ?」
両手を合わせてお願いしてみる。
向かいに座る彼女はジュースを一口飲むと、困ったようにため息をつく。
「あのねーエルドくん、わたしはただの冒険者であって幽霊退治なんて全然わかんないのよ。まぁアイデアはあるっちゃあるけど、あまりオススメできないのよねー」
「なんでもいい! 教えてくれ、効率的に連中を排除できる方法が欲しいんだ!」
こちらで撃退できないわけではないが、さすがにあんな戦いを毎晩やってたらこっちがもたない。
画期的な打開策が必要なんだと、ギルドの賑やかさに負けないよう声を張る。
「教えたいのはやまやまなんだけど、後が面倒くさいのよね〜......」
「頼む! このままじゃマジで榴弾砲で広報本部ごと幽霊をふっ飛ばす案が採用されかねん!!」
それでも渋るフィオーレへ、俺は最後のカードを切った。
「お前、オオミナトのペアなんだろ? 彼女が寝不足でぶっ倒れても良いのか?」
フィオーレの眉がピクリと動く。
「アイツが夜中かなしばりにあって、幽霊に好き放題されてもいいのか?」
「よっ、良くないわよ!! あの子は大事なわたしのペアなんだから! ミサキがこの国に来たばかりの頃、色々教えたのはわたしなんだから!!」
「じゃあなおさらだな! 教えてくれなきゃまた彼女は馬小屋生活に戻ることになるぞ」
「......ッ!!」
やはりフィオーレにとって、オオミナトはだいぶ特別な存在らしい。
彼女は紙を取り出すと、凄まじい勢いでなにかを書き始めた。
やがてできあがったそれは"紹介状"。
その宛先は――――――
「中央通りを抜けてすぐのところに建っている『アルナ教会』へこれを持って行きなさい。この紙を渡せば、そこにいる【聖職者】が相談に乗ってくれるわ」
アルナ教会か......、確か女神アルナ様を信仰する宗教団体だったよな。
さすが上級冒険者。
そういったところにまでしっかり人脈づくりをしているらしい。
さっそく紹介状を受け取るが、フィオーレの顔は複雑そうなそれ。
「どうしたんだ? お礼ならちゃんとするつもりだが......」
「いや、そうじゃなくてね......。あなたたちって王国軍でしょ?」
「そうだが......」
「まぁ会ったらわかるわ、ミサキのことちゃんと守ってよね」
それだけ言い残すと、フィオーレは席を立った。
はて......、どういう意味だろうか。
寝不足による頭痛に耐えながら、俺はその日の内にアルナ教会へ広報本部への訪問を依頼した。