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第85話 幽霊とは大変に厄介な相手のようです

 

 かつて、これほどまでに朝を待ちわびたことがあっただろうか。

 深夜の広報本部で、俺と少佐は慌てて2階へ駆け上がっていた。


「くそ、鍵が掛かってる!」

「構わんエルドくん、蹴破れ!!」

「了解ッ!!」


 悲鳴の上がったセリカの部屋のドアを思い切り蹴破る。

 ......が、中の光景は想像の遥か上だった。


「ッ......!? セリカ!!!」


 拳銃のサイト越しに見えたのは"真っ黒い影"。

 大きな影はいくつもの腕を体から生やし、セリカを拘束して首を締めていたのだ。


「セリカさんから離れてください!! このっ! だあぁッ!!」


 首を締める影を、オオミナトが背中から風の剣で攻撃している。

 しかし剣撃は空気を斬るようにすり抜けており、影は全く動じていなかった。


 なぜセリカは発砲していない......? やられるにしても抵抗くらいしなかったのか?

 そんな俺の問答は、セリカの足元に転がるトレンチガンを見ることによって終わる。


「まさか......ジャムったのか!?」


 薬室チャンバー内では薬莢やっきょうまで詰まっていた。

 おそらく何らかのアクシデントで発砲がうまくいかず、初弾を排莢はいきょうしようとスライドを引いたは良いものの、排莢すらうまくいかなかったのだろう。


 どうりでなんの音も聞こえないわけだ。

 発砲すらできていなかったのだから。


「エルドくん!!」

「了解ッ!!」


 少佐と共に9ミリ拳銃の照準を影へ合わせる。


「オオミナト! どけっ!!」


 警告を聞いた彼女は察しが良くすぐさま待避。

 サイレンサーによる独特の発砲音が部屋を駆け巡った。

 だが......。


「くそ当たんねぇッ! ってかすり抜けやがる!!」

「構うな! 撃ち続けろ!!」


 首を締められているセリカを開放しようと撃ちまくるが、黒い影にはまるで当たらない。

 弾は影を突き抜けて後ろの壁に当たるばかり。


「っ......んあ、ぐぅ」


 セリカの口端から唾液がこぼれ落ち、涙目でこちらを見ている。

 マズい......端から見ても彼女が限界なのは明白だ。


 焦りの中で次弾を装填したその時だった。

 発砲で俺たちに意識が向いたのか、影はセリカの首から手を離すと彼女を乱暴に投げ捨てたのだ。


「あぐっ!?」


 放り投げられたセリカは本棚に激突し、崩れ落ちた大量の本の下敷きになる。


「これ以上好きにはさせれんな......、やるぞ!」


 勇者モードを発動した少佐が一気に肉薄、金色の魔力をまとった渾身の蹴りを放った。

 少佐が攻撃した部位はセリカを掴んでいた"手"だった。


 さっきまで剣や銃弾が効かなかった影が大きくのけぞる。


「セリカくんを掴んでいた手ならもしやと思ったが当たりらしい、畳みかけろッ!!」

「なるほどそういうことですか、『身体能力強化オリオン』!!」


 床を蹴り接近、少佐に続いて影の腕へ渾身の回し蹴りを繰り出す。

 手応えはあり、俺は落ちていたセリカのトレンチガンを拾うとジャムっていた弾を素早く排莢。


 窓際へ下がった影へアイアンサイトを向けた。


「終わりだ」


 深夜の王都にけたたましい銃声が鳴り響く。

 影の腕は吹き飛び、幽霊はガラスと共に2階から落ちていった。

 すぐに下を覗き込むがそこに影の姿はなし、跡形もなく消えていた。


 すっかり散らかった室内に沈黙が降り立つ。


「......ひとまずやったね」

「はい、結構危なかったです......。セリカ、大丈夫か?」


 本の山から顔を出したセリカが、咳込みながらも「だっ、大丈夫ッス」と立ち上がる。

 どうやら間一髪で窒息は免れたようだ。


「しかし厄介な敵が来たものだ......。撃退はかろうじてできたが、その度セリカくんの部屋でこんな本土決戦をしていたら本末転倒じゃないか」


 穴だらけの室内を見渡す少佐。


「ほんっとたまったもんじゃないッス、どうにかなりませんかね」

「セリカさん、体は大丈夫ですか?」

「これくらいじゃ死なないんで大丈夫ッスよ、オオミナトさん。それより本棚の片付けのほうが億劫です......」


 実体化した時には一応銃が効く。

 それでも解決はできないだろう、生き物なら我々の本分なんだがな。


「――――専門業者を探す必要がありそうだね」


 月明かりに照らされる室内で、俺たちは敵の撃退と4回目の徹夜に成功した。


【ジャム】

いわゆる弾詰まりのことで、大抵はコッキングすることで解消できるがヒドいとそのままぶっ壊れてメーカー送りになる。


余談※英国のL85A1自動小銃は、これがあまりにも多発しすぎて全然発砲できないもんだから『鈍器』なんて呼ばれたりした(A2に改良後はマシになったらしい)

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