第83話 幽霊VS国営パーティー
「さて諸君、寝不足の中出席ご苦労、それでは今より広報本部奪回作戦について話し合いたいと思う」
リビングに集結した俺たちは、机の上に広報本部の間取り図を広げていた。
議題はもちろん――――――
「連日の幽霊騒動で、我々は現在3日連続で徹夜状態だ......。なんでもいい、案を出してくれたまえ」
目の下にくまを作った少佐がコーヒーを啜る。
そう、あの日以来この広報本部は毎日のように幽霊騒ぎに苛まれていた。
出現場所は主にセリカの部屋と廊下、必ず深夜に発生する。
そのおかげか......。
「なんでもですね......? あの怪奇現象撃滅のためならどんな案だってやっちゃいましょうってことッスよね!?」
毎晩真っ先に被害をくらっているセリカの精神状態がそろそろ危ない。
よって、軍事機構として全力で敵とやり合うということになった。
「大丈夫ですかセリカさん、SAN値チェックいっときます?」
オオミナトいわく、そのSAN値とやらがゼロになるとヤバいらしい。
まぁ相変わらず彼女らしい言葉であるが、どの道このままではセリカの発狂は間違いなし。
俺たちも安眠できないので、なんとしても打開せねば。
まず俺が手を挙げる。
「少佐、サイレンサー付き9ミリ拳銃を装備しての夜間撃滅戦はどうでしょう。あれなら室内戦向きですし、騒音も最小限です」
物理で倒す、これこそが絶対正義であり我々の持ちうる最大の攻撃だ。
「良い案だエルドくん、では仮にそれをA案と名付けよう。他にはあるかい?」
「少佐!」
「ではセリカくん」
「9ミリなんて生ぬるいッス! "トレンチガン"で天井ごとふっ飛ばしましょう!!」
あまりの脳筋案に、俺はセリカの脳天へチョップを落とした。
「痛いッスよエルドさん!」
「アホかお前は、自分の部屋の天井ふっ飛ばしてどうする」
「コラテラル・ダメージです、問題ありません」
「大アリだ! もう少し穏便にやれ」
こいつマジで発狂寸前だな......。
っと、ここでオオミナトが手を挙げた。
「オオミナトくんか、どんな案だい?」
「えーっと、銃とかそんなんじゃないんですけど、"話し合う"......なんてどうでしょう」
「話し合う?」
「はい、もしかしたら寂しくてあんなイタズラしてるのかもしれませんし」
幽霊と話し合いか......、なんという平和的手段だろう。
だが――――――
「不採用」
「ふえぇ......やっぱりダメですか?」
「ダメとまでは言わないが、毎晩人の家で危害を加えてくるやつに話が通じるとも思えん。とりあえず現段階において優先順位は低い」
「っということだ、他に案は?」
しばらくの沈黙。
そんな空気を破るように、先ほどまで進行をしていた少佐が手を挙げた。
「少佐?」
「この際だ、やるなら徹底的にやろうと思う。どんな過激な案でも出すだけだしてみようじゃないか」
少佐は続ける。
「これは我々の寝床を取り返す戦いだ、手段は問わない」
「っというと......?」
「全員にアサルトライフル、サブマシンガンの装備を許可する」
「本気ですか?」
「本気だエルドくん、相手の能力は未知数。火力が多いに越したことはない」
その後の議論は激しく燃え上がった、それはもうトレンチガンをぶっ放す案が可愛く思えるくらいに。
「就寝時間後の廊下に"対人地雷"を仕掛け、目標を消し飛ばそう。幽霊といえどあれには耐えられまい」
っと少佐。
「各自室に"汎用機関銃"を設置しましょう、あれなら敵を確実に粉砕できるッス」
とセリカ。
「わたしの風魔法『ツイン・トルネードランス』で対抗するのはどうでしょう、この建物半分くらいなくなっちゃいますけど」
っとオオミナト。
正体不明の敵というのは、ここまで人から理性というものを奪うらしい。
最終的には『155ミリ榴弾砲の直接射撃で、広報本部ごと幽霊を冥土に送ってやろう(少佐案)』まで出てきた。
もちろん案として出すだけなので採用するかは別だが、それにしても寝床を取り返すために家ごと爆発させるとはこれいかに......。
「だいぶまとまってきたね、では本日よりさっそくエルドくんのA案を筆頭に作戦を開始する。我々の安眠を取り返すぞッ!!」
不安しかない、だがやるしかないのだ。
幽霊よ、国営パーティーにケンカを売ったこと――――――後悔させてやる。




