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第81話 奇妙な噂は魔王軍より関心が高いようです

 

 席に座った俺たちは、とりあえず空腹を満たそうということで一致した。


「さて、じゃあ話す前にメニュー決めちゃいましょっか。どれにする?」

「強襲揚陸艦レッド・フォートレスの野菜カレー......、巡洋戦艦ダイヤモンドのビーフカレー......。どれも絶対おいしいに決まってるじゃないッスか〜! 悩むぅ」


 メニュー表には様々な料理が並んでいるが、俺はなんとなく最後のページに載っていたメニューが気になった。


「なんだこれ、夏期限定大盛り&激辛メニュー?」

「おぉー、わたし辛いの好きなのでそれにしましょうエルドさん!」

「わたしもそれでいいや」

「あっ、じゃあみんなが選ぶならわたしもそれで」


 セリカとフィオーレ、そしてみんな頼むならと流される形でオオミナトも決定。

 俺は店員に声を掛けた。


「お決まりですか?」

「はい、じゃあこの――――"夏季限定の激辛大盛り海軍カレー"を4つお願いします」

「......はい、かしこまりました......オーダー!! 46センチ主砲4基! 建造ちょうり始めッ!!」


 厨房に向かって大声で叫ぶ店員さん。

 いやいや雰囲気変わりすぎだろ! しかもなんなんだよ46センチって。


 凄まじい調理音が響いた後、店員2人が俺たちの席へ皿を持ってきた。

 そう――――特大のサイズで。


「おまたせしました、夏季限定メニュー【46センチ3連装砲カレー・激辛スペシャル】です。喉と胃の艦隊けんこうを粉砕すると評判でございます」


 ドカンっと机に乗せられたのは、ごはん部分に国旗と海軍旗、王都の都旗が砲身のように連なった海軍カレー。

 圧倒的な巨砲と激辛スパイスの香りに、思わず退きかける。


「なんという大艦巨砲主義ッ! しかもスパイス入れすぎて黒くなってるッス......!」


 あまりのインパクトにドン引くセリカ。

 とりあえずスプーンを取るが、なんだこれ......戦艦をモチーフにしてるのか?


「フッフッフッ、どうですお客様。これを見た陰謀好きの方が『実は海軍は46センチ砲を積んだ戦艦を極秘に造ってるんじゃないか』とか面白いことを言うくらいなんですよ」

「はぁ......確かにそう思うくらいの迫力ですね」


 愉快な店員さんが再び仕事へ戻った頃、俺たちはその46センチ主砲カレーとやらを口に運び始めた。


「激辛ってわりには案外マイルドね、これならいけそう」


 フィオーレが笑顔でカレーを頬張る。


「で、その噂とやらはなんなんだ?」


 入店時に聞いた王都で話題とやらの噂。

 こないだ王国軍が魔王軍の司令部を粉砕し、一気に旧エルフの森まで追い込んだことですっかり国民は安心している。


 戦争よりも噂話とは......現在進行形でボコボコにされている魔王軍が可哀想になってくるな。


「――――エルドくんは"幽霊"って知ってる?」


 フィオーレが身を乗り出してくる。


「幽霊だと......? 知ってるが見たことはないな」

「あぁーアレですか、例の噂ってそのことだったんッスね」


 横にいたセリカがカレーを食べながらつぶやく。


「なんだよ幽霊がどうのって?」

「知らないんスか? 第2次魔王戦争が始まってから王都で頻繁に出るようになったんですよ」

「そりゃ不気味な話だな......」

「むっふっふ、教えてほしいスか? なら情弱のエルドさんにもわかりやすく話してあげますよ」


 正直1発ぶん殴ってやっても良いんだが、帰ったら楽しみにしているらしいデザートを奪ってやると誓うことで平常を保つ。


「ある時はトイレ、またある時は寝室で。神出鬼没のそれは火の玉だったり人形の姿だったり、とにかく正体不明の迷惑者だそうです」


 見れば、もうセリカのカレーは半分以上消えていた。

 その食欲に感心していると、フィオーレも口開く。


「冒険者ギルドの方にも何件か依頼が来ててね、幽霊相手じゃどうしようもないから正直困ってるのよ」

「そりゃお気の毒様、でもあれだろ? そいつがただの不審者っていう可能性もあるだろ」

「そうなら良いんだけどね......、もしあんたの家に出たらどうする?」


 広報本部だって曲がりなりにも軍事施設だ。もしそれが不審者の類いだとして、まさかそんなところに来はしまい。

 俺もロンドニアの戦いでレベルは既に"77"に到達している、そこら辺の上位を名乗る冒険者くらいなら素手で対処できるだろう。


 セリカや魔導士のオオミナトはもちろん、元勇者のラインメタル少佐だっているんだ。

 出たとして脅威にはならない。


「こりゃ教会行って、女神アルナ様にお祈りでもするしかないかなー」

「神頼みか......、まぁ気休めにはなるんじゃないか?」

「エルドくんは神様信じてないの?」

「俺だって神様くらいいると思ってるよ、ミハイル連邦の共産主義者コミュニストじゃあるまいし」


 別に幽霊なんて来るわけない、来たとしてもどうせ不審者というのがオチで速攻とっ捕まえられるだろうと思っていた。


 その晩、セリカの部屋から聞こえてきた叫び声を聞くまでは......。


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