第8話 迷子の対処と厄介事は大抵セットだと気づく
「よく覚えてない?」
喫茶店のような広報本部の受付室で、俺はオオミナトがどうやってこの国に来たかを聞いていた。
だが思ったより進展はなし、それは彼女が王都へどうのようにして来たかを全く記憶していなかったからだ。
「いやー、なんか気がついたらここにいたんですよね。買い物してたらいきなり来ちゃってたみたいで」
温かい飲み物でリラックスしたのか、オオミナトの口調は出会った時よりかなり崩れていた。
「その服はなんなんスか? 素材的に見たことないんですけど」
「ああこれですか? 体操服って言うんですよー、動きやすいから授業以外でもよく着てるんです」
「へー、ちょっと触っても大丈夫ッスか?」
「どーぞどーぞ」
おもむろにオオミナトの袖とかを触り出すセリカ。
なんだろう……嫌な予感しかしない。
「柔らかくて結構良いッスね! 相当な技術力がないと作れませんよこんなの」
「そうなんですか? まーもう年単位で着込んじゃってるんであちこちほつれてますが––––ヒャアッ!?」
オオミナトがいきなり叫ぶ。
何ごとかと思えば、しゃがみ込んだセリカに答えはあった。
「ズボンも柔らかいッスねー、このロゴとか良いデザインしてますよ!」
「いやっ……、足は敏感なんで––––ひゃうっ!!」
珍しい素材を前に自制心のブレーキがぶっ壊れたセリカが、オオミナトの穿いているクォーターパンツの裾まで調べていた。
ふとももへ直に手が当たっているらしく、軍の広報本部で響いてはならない声が出ていた。
「フンッ!!」
「いったあっ!?」
セリカの脳天へチョップを叩き落として速やかに阻止。
「ウチのバカがすみません」
「あはは……、ぜっ、全然大丈夫ですので」
もだえ転がるセリカはひとまず置いておき、もう一度イスに座る。
「あの、この国って冒険者ギルドとかそういうのってあるんですか?」
「冒険者ギルド? そんなのいくらでもあるが……」
どこがスイッチだったのだろう。
冒険者ギルドと聞いた彼女の瞳は、ランランと輝いていた。
「じゃ、じゃあわたしでも入れるんですよね!?」
「一応誰でも入れるけど、いきなり大丈夫なのか?」
「大丈夫です! もしこういう世界へ来てしまった時のためにラノベとか読み漁ってたんで!」
よくわからない単語が出てくるが、本人がこう言うなら俺にできることはもうない。
彼女へ近場のギルドへの道を教え、このことはひとまず一件落着となった。
陽はもう沈み、外には夜の帳が広がっていた。
「なんか、あの人とはまた近いうちに会いそうな気がするッス」
「だな、うまく手続きできるといいけど」
おもむろに踵を返す。
「あれ、エルドさん部屋に戻らないんスか?」
「軽く夜の散歩でもしてくる、風呂は先に済ませといてくれ」
「ではお先に、夜道なんで気をつけてくださいよー」
「了解ー」
大通りを歩き出す。
夜の王都はそこまで暗くない、商業区などは昼夜関係なく人で賑わっており、明かりで満ちていた。
たまには普段通らない裏路地でも通るかと思い、薄暗い細道を抜けて家に囲まれた広場に出る。
これが今夜の厄介事に繋がるとは知らずに––––
「やっと見つけたわよ、セリカといた連れの魔導士。昼はよくもまあ調子に乗ってくれたじゃないか」
路地の影から、セリカに絡んできたあのローブ姿の女が出てくる。
「お前かよ、こんな夜分遅くに俺へ用でも?」
「えぇ、たっぷりあるわ」
暗闇でよく見えなかったが、どうやら女の後ろには20人近い人間がいたらしい。
風貌からして魔導士だ。
「アンタは上級者パーティーに喧嘩を売ったのよ、あの荷物持ちを庇ったことでね。今から後悔させてあげる!!」
上級魔導士たちが、一斉に杖を構えた。
やれやれ、今回は逃げられそうにないな。