第79話 ある勇者の回想Ⅰ
「※※を殺したい?」
魔王が倒される2年前のこと――――、ある男から放たれた一言に王国騎士団の団長は目を丸くしていた。
「※※を殺したいなどそんなことが教団の耳に入れば面倒くさいですぞ"勇者殿"、我々はまず魔王ペンデュラムを倒さねばなりません。またぞろジョークだとは思いますがね」
だが、勇者は首を横に振った。
「いいえ騎士団長殿、我々は魔王を退けた後のことを考えるべきところまで来ています。剣や魔法はこの先、一部を除いて時代遅れになるでしょう」
「どういうことだ......?」
「こういうことです」
勇者は後ろから鉄でできた物体を取り出す。
剣とはまるで違う、先端に穴の空いたそれを勇者はゆっくりと団長室に飾ってあった鎧へ向けた。
――――その一瞬は時間にして1秒、耳を潰さんばかりの破裂音が団長室に響いたのだ。
「ゆっ、勇者殿! いきなりなにを......!!」
「驚かせてすまないね、だがあれを見てほしい」
団長は呼吸を落ち着かせながら、指差された鎧の頭部を凝視する。
「こっ、これは......!?」
ありえなかった。
魔剣すら弾き返す付与魔法付き上位防具が文字通りぶち抜かれていたのだ。
「いったいどんな炸裂魔法を使ったので......?」
「騎士団長殿、これは魔法ではありません。"銃"という武器です」
「武器だと!?」
「はい、剣や魔杖と同じ武器なので使用者を選びません。これらを量産し、戦術を習熟すればまず魔王軍程度なら叩き潰せるでしょう」
夢のような話。
だが、騎士団長は目の前の勇者へまず素朴な疑問からぶつけることにした。
「それは......どこで手に入れたものなので?」
「残念ながらまだ答えられません、数が揃ってない現状では前線での運用にも耐えられないでしょう。ただこれを再現し、量産すれば※※を殺すことも可能だと確信します」
「......魔王はどうするので?」
「ヤツとは僕のパーティーで決着をつけます。さすがに、これ1挺で戦うなど無謀ですので。――――失礼します」
勇者は踵を返すと、焦げ臭くなった騎士団長室を後にした。
「反応は上々だったよ"ハンク"。君がもたらしてくれた奇跡はこの世界を大きく変えるだろう」
部屋を出てすぐ、勇者は柱の影にいた男へ近寄る。
黒が基調となった王国ではまず見ない服を纏い、鉄でできた十字をぶら下げていた。
「それは何より。じゃあ約束も守ってくれるわけだ」
「あぁ......衣食住の確約と、君が祖国へ帰るまでの手伝いをしよう。君の国の武器は実に素晴らしい。よほど1度目の大戦とやらに負けたのが悔しいと見える」
「勇者とやらは随分と遠慮がないな、だがまぁ......俺の祖国は今もまたピンチになっている。早く戻りたい」
「僕も早期の帰還を願うよ、せっかく装備を我々にくれたことだしね。えーと確かハンク君の国の名は――――――」
『MP40』と書かれた鉄の武器を持ち、勇者はメガネの奥から碧眼をその軍人へ向けた。
「"ドイツ第3帝国"だったね。魔王を倒す正義のための武器支援――――感謝するよ」