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第78話 誰だって異世界には恋い焦がれるものなのです

 

「行ったな......」


 広報本部の2階。

 出かける一行を見送ったアルミナは、そのカーテンをソッと閉め、背後に座るラインメタル少佐へ歩み寄った。


「いいのか? お前の部下にわたしのことを教えなくても」


 80センチ列車砲の攻撃により、魔王軍の誇る『移動要塞スカー』は空中で木っ端微塵となった。

 ギラン将軍も死に、司令部がなくなった魔王軍の前衛は完璧に敗走してしまったことだろう。


 そんな焼きつくような光景を見せてきた勇者は、なにを思ったのかわたしをこの広報本部とかいう王都の拠点へ連れてきていた。


「君はロンドニアで結構派手に暴れてしまったし、しばらくはナイショにしておくよ」

「わたしとお前の間に"癒着"ができたこともか?」

「あぁ、君は妹の命を助けたい。僕は君を駒として使いたい。素晴らしい利害一致じゃないか」


 よく言うと、アルミナは唾を吐きたくなった。

 圧倒的な力を見せつけ、魔王軍にいても未来はないと悟らせたこのクソ野郎は付けている鉄仮面も見事なものである。


 ――――人間は本当に嘘が得意だ。


「君は魔法の達人だが、せっかくだし銃でも使ってみないか?」

「ほざけ勇者、あんなゲスな武器をなぜわたしが使わねばならん」

「それは残念......、ゴブリン4000体を一瞬で葬った汎用機関銃の良さを、君にもぜひ味わってほしかったんだが」

「ッ......!!」


 ゴブリン4000体を一瞬で倒すなど、最上位魔法ですら難しい。

 アルミナにはまるで「自分たちを倒した兵器を知らなくて良いのかい?」と、嘲笑っているようにすら聞こえた。


「つくづく解せない、お前の抱く目的が......。なぜ元最高幹部のわたしに銃を持たせようとする、そもそもあんなのをどうやって造ったんだ」

「なぜと言われてもねぇ......君たちは違和感を持たなかったのかい? 我々がここまで急激に発展したことに」

「......どういうことだ」


 少佐は分解していた9ミリ拳銃を組み立て始める。


「少し歴史のお話をしよう。今隣りにあるミハイル連邦は、かつてミハイル帝国だった。だが、突如現れたある男によって起こされた革命運動で帝政はものの見事に滅び去った」


 淡々と、歴史の授業を子供に聞かせるように少佐は言い放つ。


「王国で調べたその男の名は――――"レーニン"。本名ではないらしいが、ともかくそいつはいきなり現れ、魔王軍との戦争に疲弊していた民衆を奮起させ、革命を起こした」

「突如だと?」

「あぁ、突如奇妙な知識と思想を持った人間がこの大陸に降り立ち、数百年続いた帝国をぶち壊して臣民は共産主義者コミーとなった。意味がわかるかい?」


 アルミナの額に汗が浮かぶ。

 もしそれが事実ならば、この王国の現状も理解できる......いや、できてしまうのだ。


 異質な存在が、ありえないような知識を持ってこの世界にやってくる。

 もしそいつが、"この世界になかった武器の知識"を持っていたとしたら......!!


「とんだズルをしてくれたな......勇者!」

「君たち魔王軍のやりたがっていた『異世界侵攻計画』とやらも似たようなものだろう? 誰だって異世界には恋い焦がれるものさ」

「お前の目的はなんなんだ勇者......! 今さら魔王を倒すことではないのだろう、答えろ!」


 氷の槍を形成し、今にも襲いかからん勢いで問い詰めるアルミナ。

 王国は、この勇者は......魔王軍以上にヤバいことをやろうとしている。


 魔王を倒すことすら通過点でしかないような。


「良いよアルミナくん、では特別に教えよう......単純明快さ。僕は※※を――――――」


 少佐が呟いたのはたった一言。


「殺したいだけだ」


 その一言は晴れ渡り、今日も賑わう王都の空気と逆行するように冷たく――――――恐ろしいものだった。


「狂っている......」


 吸血鬼であり、元魔王軍最高幹部のアルミナでさえ反射的に後ずさりしてしまう。


「お前は......本当に勇者なのか?」

「あぁ、王国に英雄として見られ、世のため人のために尽くすれっきとした――――――」


 9ミリ拳銃のスライドを組み込み、内部のハンマーを下ろした少佐は頬を吊り上げた。


「......勇者だよ」


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