第75話 魔王軍最強の戦士、遂に動くッ!!
2つの島に牽引されるように、移動要塞スカーは空中を巡航していた。
その本島を成す地の上に築かれた城で、ギラン第1将軍は魔導モニターに移る光の矢、爆炎の海と化す旧エルフの森を見て歯ぎしりしていた。
ここまで一方的なのかと、魔王領本土への爆撃を許してしまうなど、本来絶対にあってはならないことであった。
当初の予想とは180度違う展開、まさか王都攻略に使うはずだったこの移動要塞スカーを動かすなど、想像もつかなかった。
もう後には退けない、魔王軍最大最強と呼ばれるこの魔導兵器で、王国軍を焼き払う以外に道はなし。
「『高出力魔導砲』発射用意! これ以上好きにさせることはできん、敵の陣地ごと焼き払え!!」
「しかしギラン様......これは終盤で王城を吹き飛ばすための決戦兵器です、今ここで使うにはあまりにも......!!」
「構わぬ! このまま黙っていれば被害はさらに拡大するのだ! これで敵飛行船団を撃墜し、さらには地上軍に一泡吹かせる!!」
ギランは羽織っていたマントを脱ぐと、竜人族なら誰しもが持つ翼を広げた。
「そして、『高出力魔導砲』発射後は私も打って出るッ!! 我の最上位魔法を持ってすれば後退の時間くらいはできよう」
「おぉ......! あの伝説の勇者パーティーを3人も殺したというギラン第1級将軍が自ら......ッ!?」
「そのとおりだ、竜人族のトップ――――そして次期最高幹部となるのであれば、部下を救うこともまた責務である!!」
移動要塞スカーは空中で静止。
2つの小島から中央の本島へ、膨大な魔力が送られていく。
山すら消し去る破壊魔法が起動しようとしていたのだ。
「目標、後退中の敵飛行船団! および地上の野戦軍! 絶対に生きて返すなッ!!!」
ギランの両手に漆黒の炎が燃え盛る。
全てを燃やし尽くす竜の火が、やがて彼の全身へ行き渡る。
「ギラン様が本気を出そうとしておられる......ッ! これならば勝機も!」
興奮した部下は、かつて聞いた噂話を思い出す。
ギランはその圧倒的な竜の力によって騎士団をまるごと壊滅させ、計11個の冒険者ギルドを潰した。
何者も彼の前では無力、どんな城壁だろうと彼は止められない。
この移動要塞スカーとギラン将軍の組み合わせなら、負ける未来など考え付きもしない。
「『高出力魔導砲』を発射せよ!! 発射後、我が先陣を切る!!!」
火の粉を撒き散らすギランに、誰もが勝利を確信した。
そう、勝利が待っているはずだった。
「......えっ?」
装飾豊かな天井をまるごと突き破ってきたのは、巨大な鉄の塊だった。
それはあまりに突然で、あまりにも理不尽に襲いかかる。
「――――――バカな」
力を解放したギランが最後に見たのは、4.8トンと書かれた砲弾。
ギラン第1級将軍は、それに押し潰されると同時に痛みを感じる暇もなく絶命......。
第1軍団の司令部であり、『高出力魔導砲』を放とうとしていたスカーは、最強の戦士と共に爆発四散。
80センチ列車砲の直撃を受けて、新生魔王軍第1軍団は司令部と指揮官全てを失って潰走。
ナパーム弾によって焼き焦げ、枯葉剤に汚染された旧エルフの森へと残存部隊は撤退を余儀なくされた。