第74話 この戦争は、あまりにも無謀すぎた
王国軍はプランXこと、魔王領侵攻計画『ミカエル作戦』を発動した。
多くの冒険者を葬った魔王領の玄関たる【猛獣の平原】、そこに響くは凄まじい数のエンジン音だった。
《タイガー14から大隊長車へ、敵影目視、10時方向丘の上! スケルトンメイジの大軍です》
《了解、タイガー全車全速前進! 射撃タイミングは各小隊長車に任せる》
最初に魔王軍の前線陣地へ姿を現したのは、王国陸軍が誇る陸戦兵器『戦車』。
平原を突っ走るそれは、さながら鉄のゾウのようであった。
「カカカカカカカッ!!!」
スケルトンメイジ群による集団火炎魔法が次々繰り出されるも、110ミリを誇る装甲の前にもはや魔法は弾かれるだけの花火と化す。
それどころか、どうぞ攻撃してくださいと言わんばかりに無防備の姿に、戦車乗員はニヤリと笑った。
《目標正面スケルトンメイジ! 対榴、小隊集中――――――撃てッ!!!》
75ミリ戦車砲が唸り、稜線ごとスケルトンメイジを粉砕した。
《命中――――ッ!! 続いて撃て!!》
これに対し、魔王軍も負けじと切り札級のモンスターを投入。
巨大な盾を構え、横一列に並んだジャイアント・オーガが戦車大隊の前に立ちはだかったのだ。
《奴さん俺らをぶっ飛ばしたいようです!!》
《ハッハッハ!! 良いじゃねーか大変結構!! ご自慢の盾と筋肉をぶち抜いてやれッ!!》
《11時方向! 敵ジャイアント・オーガ! 弾種変更徹甲!! 小隊集中行進射――――――撃ッ!!!》
芸術的とも言える一斉砲撃が、発砲炎から吹き出た徹甲弾を撃ち放つ。
攻城兵器すらものともしないジャイアント・オーガ×魔導盾のコンボは、徹甲弾によって呆気なく盾ごと肉塊に変えられた。
壁役を失ったゴブリン部隊は、生身のまま戦車に立ち向かう。
意気軒昂に投石し、中には接近して剣を振るう者もいたが、そのどれもが車載機関銃の餌食となった。
大量の戦車によって前線を食い破られ、魔王軍はさらに後退。
王国軍は迫る飛行船部隊による空爆作戦を成功させるため、蹂躪しきった元魔王軍の前線基地に大量のトラックを集結させた。
そのトラックこそ――――――
「いや〜さすが、"自走ロケット連隊"の一斉砲撃は凄まじい。まさか前線よりちょっと後方のここからでも見えるとは......」
高台から闇夜を切り裂き飛んでいく地対地ロケットを見ていたジーク・ラインメタル少佐が、感嘆の声を出す。
「......一体どういうつもりだ勇者? わたしをこのような場所へ連れてきて」
――――始まりの町ソフィア。
多くの駆け出し冒険者が滞在し、初級クエストを受けて生計を立てるこの町の郊外で、1人の軍人と1人の少女が日も沈んだ西を見つめていた。
ラインメタル少佐の隣に立つのは、先のロンドニア奇襲で戦った吸血鬼。アルミナ・ロード・エーデルワイスだった。
彼女は空へと伸びるロケット砲の光跡を見てつぶやく。
「まるで"光の矢"だな......あれ1つ1つに爆裂魔法が付いているのか?」
「まぁそんなところだ、今頃は敵の主要交通路とワイバーン基地が、地獄のような鉄の雨にさらされていることだろうね」
涼しい表情で言い放つ少佐に、アルミナはさらに問う。
「恐ろしい力だ......、これも全部お前の謀略か?」
「さあね、そんなことより君に見せたいものが今日はあるんだ」
「見せたいものだと? わたしは敵なんだぞ? 安易に手の内をバラしても良いのか?」
戦いが終わってアルミナは拘束されていたが、突然現れたラインメタル少佐によって拘束はいきなり解除。
問い詰める間もなく、彼女はここまで連れてこられたのだ。
「敵だからこそだよ、君にはぜひとも見せておきたかったんだ......最近、ここ【始まりの町ソフィア】の郊外に列車用のレールが敷設されてね。今日はその準備が生かされる日というわけだ」
やがて現れた"それ"に、アルミナは驚愕を隠せなかった。
「なんだ......あれは!?」
展開されたのは、2門の大砲。
だが、そのたった2門の大砲が規格外のサイズだったのだ。
王国軍が魔王城を今度こそ攻略するべく開発した究極の砲。名を――――――
《"80センチ列車砲"、展開完了!! 現在、仰角調整中!》
始まりの町に姿を現したのは、大陸でもっとも大きな対魔王決戦兵器。
列車砲と呼ばれる規格外の大砲だった。
《少佐殿、敵司令部に異変あり。『移動要塞スカー』が起動したものと思われます》
「向こうから来てくれるとは都合がいい、お出迎えに熱いお茶を用意してくれたまえ」
アルミナは思い知る。
これは手の内をむざむざバラすのではない、最高幹部である自分に見せつけようとしているのだ。
《移動要塞スカー、【猛獣の平原】にて停止。攻撃態勢に移行しつつあるとのこと》
この戦争はきっと負ける。
そう彼女へ知らしめるには、十分過ぎるメッセージだった。
《80センチ列車砲、一番砲! 二番砲! 発射準備完了ッ!!》
《仰角よし! 3――――、2――――、1......発射ッ!!!!》
町の住民全てを叩き起こすほどの爆音が、ソフィア中に響いた。
発射された2発の4.8トン榴弾が、魔王軍の移動要塞目掛けて飛翔した。
【80センチ列車砲】
その名のとおり列車ごと大砲にしてしまった規格外の兵器。
男のロマンであり、コンクリートで造られた巨大要塞すらブチ抜ける。
※運用人数がめちゃ必要で、人数や指揮系統も旅団級だとか。