第73話 人類国家の総力戦
「なんという......ことだッ......!!」
大理石でできた空間、使い魔から報告を聞いたギラン第1級将軍は腰を抜かしそうになっていた。
「嘘ではないのだな......!?」
「事実ですギラン将軍......、最高幹部であるエーデルワイス姉妹は敗北。アルミナ様が敵に捕らえられ、ロンドニア奇襲を突いて攻撃に出た第3梯団も撃退されたとのことです」
激情が頂点に達したギランは、さっきまで座っていた椅子を粉々に蹴り砕いた。
恐怖に怯える使い魔ヘ、ギランは赤い目を向ける。
「予想される被害は......?」
「は......はっ! 第3次攻撃で3万以上が死傷......。敵は"トーチカ"と呼ばれる陣地群を形成し、あの魔導具を撃ち放ってきました......」
「敵の損害は......?」
「――――ゼロに等しいかと」
「......ッ!」
ギラン将軍の第1軍団は壊滅状態となっていた。
山岳地帯を迂回しようとした第3梯団は、迂闊にも要塞化された道に突っ込むこととなり、敵の山岳師団によって撃滅されたという。
――――乾いた音が鳴るたび、軍勢が文字通り数千単位で薙ぎ倒されていく。
――――山に轟音が響くたび、噴火のような爆発が指揮官ごと吹っ飛ばす。
人間はもう剣で突っ込んでこない、見えない位置から一方的に攻撃を浴びせてくるのだ。
戦いの情熱も、戦士の誇りも消え去った総力戦が、ギランを襲っていた。
「このままではマズい......、生き残りの軍勢を後方――――旧エルフの森で待機している第4梯団と合流させるべきか」
撤退という苦渋の決断を下そうとした矢先、トビラが勢いよく開けられた。
「失礼します!! ギラン将軍! 緊急の報告がございます!!!」
ひれ伏した部下である竜人に、「なにが起きた!!」と怒鳴る。
その余裕ない仕草は、最悪の知らせが待つ証拠だった。
「全戦線で王国軍が一斉に前進しました!! 敵は我らが領土に侵入、正体不明の"光の矢"による攻撃を受けています!!」
「光の矢......!? 新手の魔法か!?」
「不明です! ただ......その数が尋常ではありません!!」
「一体いくつだというのだ! 100か! それとも1000か!?」
部下は思わず首を振った。
「光の矢は1万を超えています!! 防衛線を飛び越えて魔王軍の主要交通路、ならびにガルム・ワイバーン兵舎が破壊されました!!」
「ッ......!! バカな!?」
ありえない、ガルム・ワイバーンの兵舎は前線のずっと後方のはず。
そんな長距離からこちらの拠点を攻撃など......。
「失礼します! 第4梯団からギラン第1級将軍へ! 緊急のご報告です!!」
「えぇい今度はなんだ!! 第4梯団には待機を命じたはずだぞ!!! まさか命令に背いたわけではあるまいな!?」
さらに飛び込んできた伝令に、ギランは声を荒らげた。
だが悲しきかな、伝令の持つそれは吉報とはほど遠いものだった。
「違います将軍! 我々第4梯団は、現在敵による大規模空襲を受けています!! 敵は旧エルフの森まで飛行船部隊を進めています!!」
「ありえん! あそこにはガルム・ワイバーンの兵舎が......」
ギラン将軍は思い出す。
光の矢によって主要交通路、そして"ガルム・ワイバーン兵舎"が吹き飛ばされたことを。
「敵は旧エルフの森ごと我々を焼き払うつもりです!! 地獄の業火を発生させる魔法を次々に投下し、なにやら粉のようなものも大量にバラまいています!」
「粉だと!?」
「はっ! 成分こそ不明ですが、現状において誰かが倒れたという事はありません」
「ならば構わん! 第4梯団は防空戦闘に努めよ! 前線部隊の後退先である旧エルフの森を渡すわけにはいかん!!」
そして、ギラン第1級将軍は最終手段の発動を決定する。
「黒魔道士部隊に連絡、我々も出るぞ。この第1軍団司令部である『移動要塞スカー』を起動させ、前線部隊の後退を支援する!」
ギランは勇者パーティーと戦った誇り高き戦士として、追い詰められつつあるこの状況でこそ自分が前に出て戦わねばならないと確信していた。
「人間共を魔王様の領地から叩き出すぞ!!『移動要塞スカー』発進せよ!!!」
だが彼は知らない。
これから赴く先に、防壁に守られた魔王城すら粉砕する兵器が展開していることを......。