第7話 極東の少女......?
穏やかな天気の日というのは、なにかと屋外で読書がしたくなるものだ。
噴水を中心に飾った公園で、俺とセリカはベンチに座りながら買ったばかりの写真集を睨みつけていた。
「実に美しいディティールだ…….、これこそアイアンゴーレムすら倒せる戦車の威容そのものと言って良い」
「こっちの列車砲もまさしくロマンッス! これなら魔王城だって10回は破壊できそうですよ」
傍から聞けばさぞ物騒な会話だろう。
しかし、カッコイイものはカッコイイのだ。こうして軍に身を置くことになっても、それは俺もセリカも変わらない。
「ふぅ……、素晴らしい出来だった」
「新型のサブマシンガンもなかなか良きでした、いつか撃ってみたいッスねー」
「同意、やはりお前とは気が合うようだ」
「そりゃあミリオタですから」
写真集を買いに行く手前であった嫌なことも、今となってはどうでもよくなってしまった。
やはり、人間好きなことに没頭するのが精神衛生上一番なのだ。
「そういや、次に取るスキルはどれが良いと思う?」
「スキルですか、うーん……無難に命中精度アップとかどうです?」
「それも良いんだが、なんというかもうちょっと何かありそうな気もして」
「レベル20じゃ全然足りないですよ、あと少しレベル上げしてからならいけるかと」
アーチャースキルの今発動している効果は『命中精度向上』と『遠距離武器の扱い上達』。
正直なところエンチャントで【誘導】を着けれるので、これ以上の精度アップは狙撃手でもないので優先順位は低い。
なにを強化しようかベンチで悩んでいると、太陽を遮るように人影が俺たちを覆った。
「あのー、ちょっとお聞きしたいんですが」
話し掛けてきたのは、黒髪をセミロングにした15歳くらいの少女。
だが格好が妙だった、見たことない素材でできた紺色の上着とクォーターパンツを着ており、この国ではあまり見ない風貌をしていた。
「良いッスよ、どうしましたか?」
「いやですね……、ここってどこなのかなーと思いまして」
「どこもなにも、ここはアルト・ストラトス王国の首都ですよ」
「アルト……? やっぱりわたし––––」
どうも様子がおかしい。
俺は席を立った。
「君、名前は?」
「あ、遅れました。わたし名前をオオミナト ミサキといいます。訳あってこの国に来たんですが、右も左も分からなくって」
アハハと笑うオオミナトと名乗る少女。
服や外見もそうだが、こんな名前初めて聞いた。
そもそも大陸内の外国に、こんな名前を使う国はなかったはず。
「もし行くあてが無かったら、王国軍の広報協力本部へ来ないか? 力になれるかもしれない」
「軍……ですか?」
一瞬怪訝そうな顔をしたオオミナトは、しかしすぐに肯定の意を示してくれた。
「ありがとう、じゃあちょっと待っててくれる?」
少しだけ彼女から離れ、俺とセリカは離れに行く。
「セリカ、どう思う?」
「わたしもオオミナトなんて名前初めて聞きました、黒髪黒目ってだけで珍しいのに……」
やはり、セリカでもわからないようだった。
「ひょっとして、神様が別の世界から連れてきたとかッスかね?」
「んな小説みたいなことあるわけないだろ、とにかく連れて行こう。あの様子じゃ本当に何も知らないみたいだ」
俺は再びオオミナトの傍へ戻り、改めて話し掛ける。
「おまたせ––––じゃあ行こうか、俺のことは気軽にエルドと読んでくれ。オオミナトさんはどこからこの国へ来たの?」
「ええっと……わかりやすく言うなら、極東の島国からです」
リラックスしてもらうついでの質問だったが、彼女の口にした言葉はさらに俺を混乱に導いた。
なぜなら、このアルト・ストラトスこそ最も東に位置する国であり、これ以上東に島国など存在しないからだ。