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第68話 その男、勇者というにはあまりにも総力戦脳すぎた

 

「あっちはずいぶんと激しくやり合っているようだね、街中で景気のいいことじゃないか」


 エルドが戦っているであろう方角を見ていたラインメタル少佐は、その半長靴ブーツで石畳を踏む。

 隣では、「なにを呑気なこと」をとセリカがエンピ片手にため息をついていた。


 2人の吐く息は白く、周囲の気温がドンドン下がっていることを表していた。


「勇者ジーク・ラインメタル、お前のことは魔王様から聞いている。魔族への容赦のなさは徹底的に底なしとも......」


 水色の髪を揺らし、周囲の空気を凍り付かせるほどの魔力を放つ少女は呆れながら言った。

 ついに相見える勇者は、なんとも不気味で言い知れぬ恐ろしさを彼女に感じさせていた。


「心外だねアルミナくん、君は氷魔法のように冷たい吸血鬼だ......。人情にんじょうに溢れた人格者と訂正してもらいたい」

「嘘をつけ、既に新生魔王軍は5万近い被害を出しているのだぞ。その人格者とやらが育てた組織によってな」

「当たり前だろう? 魔族が死ぬぶんだけ明日の飯が良くなるんだ。人間として当然の思考に従ったまでのこと」

「ッ......!」


 氷の剣が何本も浮かび上がり、その先端が少佐に向けられる。


「勇者がこれほどまでのクズだとは思わなかった、もういい......ここで消えて」


 近代軍隊を育て上げたこの男さえ殺せば、一気に形勢は逆転する。

 だが放たれた一縷いちるの望みは、決して相手に届くことはない。


「はあぁッ!!!」


 隣にいたセリカが、元近接職として遺憾なくエンピさばきを披露したのだ。

 矢継ぎ早に撃ち込まれた氷剣は、勇者を守るように前に出たセリカによって全てが防がれる。


「たかがスコップで......わたしの魔法を!?」

「たかが? 人類の英知ッスよこれ、わたしにとっては勇者の剣以上の武器です!」


 盾くらいなら造作もなく貫通できる攻撃が、あんなふざけた武器と兵士によって破られたことにアルミナはショックを隠せない。


「せっかくペンデュラムを退けたというのに、ホントに君たち魔族は戦争が好きなようだ。負けてもくじけないその精神は評価したいがね」

「仲間や他の種族を全て見殺したゆえの勝利だろう!? 実に人間らしいな!」

「知っている。僕は人間の中でも特に人間らしいと自負していてね。善良で他の生物を思いやり、口先だけの平和を唱えるつもりなんてない」


 ニッコリと優しく少佐は頬を吊り上げた。


「僕は自身の――――――いや、国家の利益しか考えていない。そのためにいくら魔族や他種族が死のうと、それは弾き出された数字でしかないんだよ」

「傲慢だな、本当にエゴに満ちている......」

「それが人間だ。他種族への配慮は覇権動物がゆえの義務にすぎん。だが魔族だけは配慮の対象外と言っておこう――――――」


 とんでもない魔力が、アルミナの冷気を押し返した。

 トロイメライ以来となる勇者モードを、少佐が発動したのだ。


「魔族は我々人間に歯向かった。その代償は必要だろう?」

「その減らず口を今たたいてやる、永遠に黙れ! 滅軍戦技――――『グングニル』!!!」


 アルミナは右手に氷槍を形成、砲弾のような速度で少佐に投擲した。

 だが――――――


「えっ......」


 身じろぎ1つせず、少佐は右手を払う動作だけ見せた。

 まして、そんな技でもなんでもない動きだけで、必殺の『滅軍戦技グングニル』が吹き飛ばされたのは彼女にとって床にマウントを取られたのと同じだった。


 氷の破片がキラキラと大通りに降り注ぐ。


「レンジャー教官よりも鬼ッスね......、もうちょっと遠慮とかしたらどうです?」

「言っただろう? 魔族に遠慮や配慮は無用。ネーデル陸戦条約が保護するのは人類国家に属する者だけだ」

「では殺しますか?」

「うーん......それはかわいそうだ。エルミナとやらはエルドくんがやってくれるだろうし、僕らはこのに教育でもしよう」

「了解ッ」


 元勇者とレンジャー兵士は、凍り付くアルミナに"優しい教育者"として微笑んだ。


少佐って、たぶん本作で1番思想が過激な方ですね

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