第65話 王の末裔と日の本の人間
「どう......だッ!!!」
魔力と気力を振り絞った一撃を当てたオオミナトは、煙を上げる民家へ向かって叫んでいた。
身体を犠牲にしただけあって手応えは十分、エルミナに小さくないダメージを与えることに成功したのだ。
それだけに、代償も大きかった......。
「ゲッホッ......! やば......もう動けないや、さすがに無茶しすぎちゃったかな」
血の欠片を吐き出したオオミナトは、荒んだ石畳へ膝を落とす。
朦朧とするほどの痛みに、表情を歪めながらも、彼女はうつむかない。
その視線の先で、敵も同じだけのダメージを負っていたからだ。
「ッ......!! ホントやるじゃない黒髪女――――いや、日本人! 名前と出身を聞かせてくれるかしら?」
瓦礫をどかして起き上がったエルミナが、口元の血を拭いながらオオミナトを見る。
初めてだった......。自分を最初にぶん殴ったのは一見か弱そうな少女、エルミナからすれば興味でいっぱいだった。
ダメージこそ無視できないが、この少女のことを知りたくてしょうがなかったのだ。
「オオミナトよ......、大湊 美咲。日本国 神奈川県横須賀市出身」
「オオミナトね......この胸に刻んでおくわ、あなたはこのわたしを初めて殴った。王の末裔として敬意を払うに値するわ」
「そりゃどうも、ってかやっと主人公らしい展開になってきたわね......。全然チート無双じゃないけどさ」
歯を食いしばりながら立つ。
戦いはまだ終わっていない、エルミナを倒すまでオオミナトも倒れるわけにはいかなかった。
「あと少し......、動いて!」
風を纏ったオオミナトは地面を蹴ろうとする――――――が、その足は動かなかった。
「えっ!?」
見れば、靴が凍りついた地面に張り付いており、身動きが取れなくなっていたのだ。
エルミナではない、傍観していたもう1人の吸血鬼が動いたのだと知る。
「あなたはどうやら危険すぎる。よって遺憾ながら手を出させてもらう」
水色のショートヘアをした少女が、オオミナトの眼前にいつのまにか出現。
凍るような瞳に照らされた瞬間、既にボロボロの腹部に衝撃が走った。
「あがッ!?」
強烈な膝蹴りで宙に浮いたオオミナトは、形成されゆく氷の槍を視界に入れる。
――――ヤバいッ――――!
だが、もう抵抗の手段などなかった。
「これでトドメ」
横薙に振られた槍がオオミナトのみぞおちを直撃。
吹っ飛んだ彼女は果物屋の屋台に叩きつけられた。
砕けたスイカがぶちまけられ、音を立てて屋台が崩れ去る。
「アルミナ!! 手を出さないでって言ったでしょ!?」
「これ以上あの魔導士を自由にさせるのは危険、エルミナ、約束は破るけどこれはあなたのため。アイツは未知数の力を持っている可能性が高い」
「ッ......!!!」
オオミナトの意識が徐々に薄れる。
それでも負けたくない、屈するわけにはいかないという信念が彼女に可能性を与えていた。
故に――――だろうか、オオミナトの言った主人公補正という名の奇跡は、一発逆転の一手として訪れる。
――――ブオオォォォォォォォッ――――――!!!
「なに? この音......」
不思議がるエルミナは、直後にもっとも嫌な相手の気配を感じ取った。
「この魔力、勇者......!?」
こだますエンジン音は、崩壊したロンドニア中央駅を踏み越えると、無骨な装甲車として姿を現した。
分厚いタイヤで着地、車はオオミナトとエルミナたちの間に割って入った。
「最高幹部発見!!!」
「エルドさん! 撃ちまくっちゃってくださいッ!!」
「言われなくともなっ!!!」
7.62ミリ機銃が火を吹き、怒涛の制圧射撃が行われる。
乱入してきた新戦力に対応すべく、アルミナはオオミナトを殴り飛ばした氷槍を具現化。
距離を詰めようとするが、装甲車のドアが開け放たれ、ショットガンの銃口が突き付けられた。
「なっ......!!」
「よくもやってくれたッスね、これは――――――オオミナトさんの分です!!!」
アルミナに直撃したのは、散弾タイプとは全く違う暴力。
対害獣用に作られた大型弾種、スラグ弾であった。
【スラグ弾】
散弾と異なり1発限りだが、小粒な弾とは比べ物にならない威力を誇る。
日本においては熊などによく使用される。