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第64話 泥臭さなんて上等! わたしが主役だッ!!

 

「――――わたしを倒すって? どこの人間か知らないけど大した度胸じゃない! 気に入ったわ!!」


 渾身の一撃を放ったオオミナトは、心中で舌打ちしていた。

 一撃必殺で放った奇襲を防がれたことが、眼前の吸血鬼の強さを証明していたからだ。


 目の前の最高幹部はやる気満々、だがそれは彼女だって負けてはいない。


 コイツをこれ以上暴れさせるわけにはいかない、モンスターを追いかけて鳴り響く銃声を背に、巨大な魔力がぶつかり合う。


「お姉ちゃん....コイツのことはしばらく任せてくれる? このおかしな格好した黒髪女は――――」


 風を振り払い、エルミナは一気に肉薄した。


「わたしが殺すから」


 殺意に満ちた笑顔がジッと見つめていた。

 かかと落としが地面を砕く、後方に飛び跳ねながら回避したオオミナトは再び魔法を詠唱。


 両手に風を握り、前へ突き出した。


「風よ穿てッ!『ツイン・トルネードランス』!!!」


 鋭い竜巻のような2本の魔法が発現。石畳をえぐり切った。

 オオミナトがこの世界に来て習得した中でも最高クラスの上位風属性魔法だが、まるで手応えを感じない。


「外したっ!? ――――――って嘘ッ!!」


 一瞬疑った可能性は、直後に否定されていた。


「人間の魔導士にしては異常な魔力量ね......! さてはその妙な服が媒体かしらッ?」


『ツイン・トルネードランス』はなんとエルミナの両手にガッチリ掴まれており、効いたどころの話ではなかった。


「やっぱラスボス級じゃんこんなの......! でも、今はこの唯一もらった転生特典を信じるしかない! そしてわたしにはあれがあると信じて――――」

「戯言を! そのまま死ねッ!!!」


 瞬きの間にまた距離を詰められるが、オオミナトは動じず迎撃。

 風の剣を作り出した。


「異世界テンプレ主人公補正!! これに賭ける!!!」


 激突する魔法と拳。

 吹き荒れる暴風がオオミナトの半袖を揺らし、腰に巻いた上着が飛んでいきそうになる。

 それでも引かない、崩れた時計塔が脳裏をよぎる度に彼女の怒りは魔法の出力を上げた。


「だあああああぁぁぁぁ――――――――――――ッッッ!!!」


 地面を踏みしめ、エルミナ相手に猛烈な連撃を仕掛ける。

 ――――まだ足りない! もっと速くッ!! 動けッ動けッ動けッ!!

 その身を焦がしてでも剣を振るうんだ!!


 激しい応酬、剣舞のような打ち合いがロンドニアにこだます。

 エルミナのガードが崩れた瞬間、オオミナトは左手に魔力を集中させた。


「『ウインド・インパクト』!」


 だが、直前でかわしたエルミナは猫のように機敏な動きで後退。

 両者の距離は再び空いた。


「どこの国の人間か知らないけど! わたしたちの邪魔は許さない! 日の目を浴びる人間共に一泡吹かせるまではッ!!!」


 大量の炎が具現化され、それらは槍の形に姿を変える。


「「あまねく光焔を甘受せん! 主は灼熱の槍を授けられよ!『イグニス・フレシェットランス』!!!」


 放たれた大量の炎の槍がオオミナトを追撃。

 彼女は広場を走りながらそれらを回避していくと、そのままエルミナに突進。

 鼻が当たりそうなほどの距離で互いの魔法がせめぎ合う。


「なぜこんなことをするのっ!?」

「なぜ? わたしたちを迫害した人間に思い知らせてやる以外にあるか!! 民族を迫害し、一方的に狩り尽くした悪魔同然の人間どもにッ!!!」


 魔力が弾け、再びつばぜり合いに移行した。


「わたしたちは、この地に眠る古代王国の戦略兵器を復活させる!! 迫害主義者どもを震え上がらせてやるんだ!!」


 エルミナの拳が、感情に呼応するように一層燃え上がった。


日向ひなたで身を振れない民族もこの世にはいるッ! 1000人の他人が幸せになって、大切な1人が涙を呑むのなら! わたしはその1000人から幸せを奪うッ!!」

「あなたの正義は理解できる! でもわたしはそれを受け入れられないッ!!」

「なぜだ!! 肝心の人が幸せになれないなら意味がないじゃないッ!! お前ら人間は......そうやって少数の者たちを常に切り捨てる!!!」


 風の剣が弾かれ、オオミナトは瞬間的に無防備へと陥った。


「しまッ......!」

「日向の人間が――――――わたしたちの苦しみと痛みを知れッ!!」


 魔力でコーティングされた拳が、オオミナトの腹部にめり込んだ。


「がッはっ!?」


 風の剣が消え、彼女の口から吐き出された血がエルミナの腕に掛かる。


「わたしは人間が嫌いよ、でもあんたの勇気は認めてあげる。この吸血鬼王の末裔に正面切って挑んできたんだから」


 腹部を叩き潰した確かな感覚に、エルミナは勝利を確信していた。

 この拳を抜けば、目の前の女はそのまま崩れ落ちるだろう。ひょっとしたらもう気絶しているかもしれない。

 それだけに......。


「なッ――――――!?」


 引き抜こうとした右腕が動かなかった。

 慌てて見てみれば、明らかに仕留めたであろう人間の手がエルミナの腕を逃すまいと掴んでいたのだ。


「げほっ......! ずいぶんと重いの......くれたじゃん」

「ありえない......!! なんで効いてないのよっ!? 確かに手応えはあったのに」

「効いたに決まってるじゃない、痛すぎて意識保つので精一杯なのよ......。でもね」


 オオミナトは左手で掴んだ吸血鬼の腕を引っ張ると、右手に全魔力を集中させた。


「こちとら......根性だけはある民族なのよッ!!」


 暴風が彼女の右腕に集まる。

 こんな痛み、かつてご先祖さまが受けた恐怖や苦痛に比べれば屁のようなもの。

 こんな試練に屈してたら、戦後復興を成し遂げた先輩方に笑われる!


「日本人を――――――舐めんなぁッッ!!!!!」


 渾身の『ウインド・インパクト』が炸裂。

 吹っ飛んだエルミナが民家に突っ込んだ。


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