第61話 お留守番部隊、決死の防衛戦
「ん? なんだろうあの騒ぎ」
頂いたアイスを食べ終え、街をブラブラしていたオオミナトは駅前の喧騒に出くわしていた。
見れば、軍服の兵士たちが鉄条網などを敷き、ロンドニア中央駅を封鎖しているようだった。
「ここは危険です!! 直ちに離れてください!!!」
「駅周辺は現在立ち入り禁止です! 指示に従ってください!!」
なにやらただごとではない様子に、オオミナトは汗をかく。
「嘘っ......、あれって大砲?」
オオミナトが見た光景は街中ではありえないそれ。
駅を睨むようにして、76ミリ対戦車砲が展開していたのだ。
間違いなく異常事態が発生していると確信する。
ここは平和だった故郷とは全く違う、軍が目に見えて行動する時は戦闘が発生する合図なのだ。
「すみません! 何があったんです!?」
「ここは軍関係者以外は立ち入り禁止となっています! 離れてください」
当然、銃を持った兵士に阻まれるが想定内。
ちゃんと言い訳は用意していた。
「いえ、わたしはジーク・ラインメタル少佐の部下で、レーヴァテイン大隊の者です。モンスターが接近しているのであれば助力できるかと!」
「レーヴァテイン!? あの勇者率いる部隊か。......わかった、案内しよう。見たところ魔導士だな? こっちも展開が間に合わず人手不足だったんだ」
レーヴァテインという名は、まだ一般にほとんど浸透していない。
そこに少佐から事前に貰っていた部隊章を見せれば、上級魔導士ということもあり封鎖区域内へ入れた。
もっとも、平時であればこんな手は使えなかっただろう。
それだけ現場が焦っている証左でもあった。
運河に掛かる鉄橋の手前まで来たオオミナトは、その物々しい景色に再び動揺してしまう。
「ちょちょちょっ! やっぱり大砲じゃないですかあれ! なんで街中で!?」
「現在魔王軍の最高幹部クラスが列車を奪ってロンドニアへ向かってきているんだ、我々も手は選んでられん」
最高幹部......。
このあいだ森で遭遇した男をオオミナトは想像するが、悠長に考える時間など敵はくれなかった。
「列車を確認! 正面からまっすぐ突っ込んでくるッ!!」
「砲撃用意――――――ッ!!」
兵士たちも銃を構え、迎え撃つ体勢をとる。
「撃てッ!!!」
4門の対戦車砲が火を噴き、列車に3発が命中。
車両がレールから弾き飛び、先頭車両は火花を散らしながら橋上で停止した。
「やったかッ!!」
兵士の1人が叫ぶ。
だがオオミナト的にその言葉はとってもマズい、嫌な予感しかしなかった。
「おい......、なんか橋が凍っていってないか?」
「橋だけじゃない! 運河ごと凍っていってるぞ!!」
破壊した列車を中心に、巨大な冷気が広がっていた。
巻き込まれた船が氷に乗り上げ、中の船員が退避している。
その恐ろしい情景を見て、魔導士であるオオミナトが叫んだ。
「上位魔法です!! 敵はまだ生きています!!」
冷気のドームが駅に陣取るこちらにも来る。
彼女は右手に暴風を纏い、積んであった土嚢を飛び越えた。
「『ウインド・インパクト』!!!」
横にした竜巻のような魔法が、迫っていた冷気を一気に吹き飛ばす。
これで終わればなんと楽だっただろう、オオミナトは相手の打った次に手に目を丸くした。
「ちょっ! なんか列車が突っ込んできてるんですけどぉ!!」
線路に転がっていた列車が、橋を擦りながらこちら目掛けて移動を開始。
なんと敵は車両を盾にしてそのまま突撃してきたのだ。
「撃て! 撃てッ!!」
砲の装填は間に合わない。
ボルトアクションライフルで必死に抵抗するが、鉄の塊を相手に勢いは全く弱まらなかった。
「っ!? 退避――――ッ!!!」
上空高く放り投げられた車両が、ロンドニア中央駅を直撃する。
部隊の指揮官は、できれば絶対にやりたくなかった最後の手段を発動。
信号弾を打ち上げた。
「総員ホームから撤退せよ! 効力射がくるぞ!!」
「いやっ効力射って、ここ駅じゃない! 嘘でしょッ!?」
最初オオミナトが入る時に見た、駅を睨むように展開していた対戦車砲。
それらがゆっくりと照準を向けたのだ。