第60話 クソッタレの近接戦
ヤバいヤバいヤバいヤバい......!!
30発の弾丸を放った俺は、すぐさま弾倉を入れ替えた。
走行中の、それも列車の上で近接戦にもってこられた俺と少佐は、なんともクソのような至近距離で敵と交戦していた。
「はあぁぁ――――――ッ!!!」
「ッ!?」
叩きつけられた一撃に、列車が大きく揺れる。
エルミナと名乗った吸血鬼の少女は、これまでの最高幹部と違い近接に特化しているようで、当たろうものなら無事では済まない攻撃力を誇っていた。
飛び退きながらフルオートで射撃するが、そもそも相手は子柄なのでまるっきり当たらない。
攻撃に間断がなく、エンチャントする暇さえ見つからない。
どうしてこう俺は厄介な連中とエンカウントするのだろうと、発砲しながら胸中で叫ぶ。
「くたばれ、王国軍ッ!!!」
射線を縫うようにして迫ったエルミナは、俺へ向かって一撃を放とうと飛び上がった。
「っと、そこまでだ」
だが、立ちはだかった少佐が2刀の銃剣でもって受け止める。
両手を魔力で強化しているのか、エルミナは素手で刃と競り合っていた。
「勇者ジーク・ラインメタル......! 確かに強い、お父さんから聞いたとおりね」
「お父さん? あぁ......前の最高幹部だった吸血鬼王のことか、これは懐かしい――――」
「ッ!!!!」
怒涛の打ち合いが始まる。
エルミナの放つ体術は相当のものだが、さすがは魔王を追い詰めた人ということもあり、少佐はその全てを避けていた。
「攻撃が鋭くなったな、図星だったかい?」
「口を慎め勇者がッ!!」
「それは無理だね、つまり君はアイツの娘であり、復讐のために新生魔王軍に入ったというところかな?」
互いが再び距離を置く。
エルミナは少佐だけを睨んでおり、俺のことは眼中にないようだった。
「魔王様の言ってたとおり、ホントうざいヤツね......。確かに間違っちゃいないわ。でも――――それだけじゃない」
「ふむ、つまり?」
俺は銃を抱えながら、事の成り行きを見守る。
「新しい門を開く。これこそが全世界的に革命を起こせる唯一の手段! 勇者――――いえ、人間の軍隊では決してできない崇高な行為よ」
「我々は国民の生命財産、および主権を守る――――それだけの暴力装置だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
「あーキモイキモイキモイキモイッ!! 主権だとか正義だとかホント人間っていうのは面倒くさい生き物ね。そんなの守ってどうすんのよ」
「秩序とルールの維持、そして平和を守るためだ」
乾いた笑いを見せる少佐は、どこか台本を棒読みしているようだった。
「じゃあなおさら和解なんて無理ね。わたしたちはこの世界を変えるのよ! 成すべきは"人類国家の転覆"!! 人間のルールと秩序を破壊し、自然の摂理に戻す。ニューゲート計画によってね!!」
エルミナは意気軒昂に喋っている、だが少佐の顔から笑みは消えていなかった。
こういう決め台詞を途中で切るのは普通ご法度だが、こと我々に関してはそこまでお人好しではない。
「ではエルミナくんに1つ助言だ、僕だけを注視してると痛い目を見るぞ」
「なっ!?」
少佐が屈むと同時に、俺はアサルトライフルを射線上の吸血鬼目掛けて発砲した。
「『炸裂』!!!」
放たれた弾丸はほぼ全て命中、エンチャントされた弾丸の直撃をくらったエルミナは爆炎に包まれた。
さて、これで倒れてくれるとありがたいんだが......。
「――――妙な飛び道具を使うじゃない......、後ろのそいつ魔導士だったんだ」
おっとこれはマズい。
痛そうにはしてくれてるが、これを耐えられたのはデスウイング以来だ。
こんな容姿でも最高幹部というわけか......。
「セリカくん、援護射撃を頼む」
《了解ッス!!》
並走する装甲車が機銃をこちらへ向けた。
このまま火力でゴリ押しできれば......。
《ッ!? おいなんだこれは! 車体滑ってるぞ!!》
《地面が凍ってやがる! スリップするぞ!! 捕まれ!!》
援護射撃をしようとした装甲車が、突如謎のスリップを起こし、列車からドンドン遠ざかる。
魔導士として魔力の流れならわかる、間違いなく人為的に地面が"凍結"されたのだ。
「遅かったわね、"お姉ちゃん"」
「あなたが1人突っ走るせいで追いつけなかっただけ、わたしは定刻どおりに到着した」
いつの間にかエルミナの横に立っていたのは、水色のショートヘアをなびかせた少女。
エルミナとは反対に、とても落ち着いた口調だった。
「なるほど、君たちは姉妹だったか」
そうつぶやく少佐に、氷のような冷たい落ち着きを見せる少女が答える。
「わたしはアルミナ。エルミナ・ロード・エーデルワイスの姉よ。魔王様から聞いてる。勇者が軍に入ったということも、その軍に主力がやられたということも」
淡々と並べられる言葉に感情はない、妹のエルミナとは正反対だ。
「魔王様より命令を受けてきた。『敵国を混乱状態にせよ』と」
巨大な氷の鎌が形成される。
やはり氷結魔法の使い手か、振り下ろされる一撃に身構えるが、鎌は俺たちのすぐ目の前で落ちた。
何かが断ち切られる。
直後、俺と少佐の乗る車両が失速したのだ。
「まさか、連結部を破壊したのか!?」
「今ここで勇者パーティーと戦うのは非合理的、よって今ここで選べる最適解を選択しただけ」
離れていく吸血鬼たちへ撃とうとするが、残りの弾数はゼロ。
激しい近接戦闘でフルオート射撃をしまくった結果だった。
「うーんこれはちょっとマズいね、弾の補給もそうだが、いずれにせよスリップした装甲車を待つ必要がある。すぐには追いつけないだろうな」
「少佐! この列車のそもそもの目的地はどこだったんです!?」
待っていた答えは、最悪のそれ。
だが少佐は微塵も慌てていなかった
「ロンドニアだよ。連中の目的もそこだろう。一応向こうの駐屯地に連絡はしておくよ」
落ち着き払った様子でラインメタル少佐は微笑む。
「置いていた備えの駒が遊兵にならずに済みそうだ」
60話!(゜∀゜)
っということで、記念にいつもよりちょこっと分量を増量しました。
いつも感想励まされておりますm(_ _)m