第54話 卑怯者には卑怯で対抗し、徹底的に叩きのめしましょう
「各員戦闘開始!! 野蛮な魔王軍に国家の鉄槌を浴びせてやれ!!」
茂みから飛び出した俺たちは、眼前の冒険者を救うべく斉射。
少女を囲っていたゴブリンは胴体に風穴を開け、味方のライフル弾で次々と撃ち抜かれた。
ゴブリンの反撃も素早いが、こちらの動きは規律統制された部隊のそれ。
戦闘自体はほぼ一方的なものだ。
「ガギャアッ!?」
木の上で弓を放とうとしたゴブリンを、サブマシンガンで枝ごと粉砕。
倒れる冒険者の前まで前進すると、すぐさま背後で衛生兵が応急処置を開始する。
さて、その間少女と衛生兵を守るのが仕事というわけだが......。
「人間如きがぁ――――――ッッッッ!!!!!」
これまた驚くことに、数体のゴブリンロードが言葉を発しながら突っ込んできた。
知性はある方なのだろうが、まだ銃というものを理解しきれなかった彼らはサブマシンガンに薙ぎ払われ、友軍の正確無比なライフルによってまたたく間に絶命。
「人的......とはまた違うが、資源の有効利用がまるでなってないな」
少佐が呆れたように呟く。
それでも彼らは健闘した。
弾幕を突破した1体のゴブリンロードは短剣を俺へ突き立てようとジャンプ、勢いをつけて剣を振るう。
――――ギィンッ――――!!!
だが短剣は届かない......。
俺はゴブリンロードの悲痛に満ちた表情を、"防御魔法越し"に見ていた。
「距離を詰めるのは正解だ、でも残念――――対策なんてとっくの昔から考えてるよ」
「オグァッ!?」
静止したゴブリンロードを、セリカが真横からエンピで殴り付けた。
転がった敵の短剣をすぐさま蹴り飛ばすと、俺は身動きできないよう踏みつける。
「2時方向の木の裏、まだ隠れてます」
「了解」
俺はもう1挺持っていた武器――――アサルトライフルを、セミオートに切り替えてその木へ向ける。
「『貫通』!」
連続で放たれた付与魔法付きの弾は、近距離だったこともあり樹木ごと裏に潜んでいたゴブリンを貫通。
周囲の制圧は、ほぼ完了した。
「この下等種族が!!! 正々堂々と戦いやがれッ!!」
踏みつけていたゴブリンロードが叫んでいる。
彼の言う正々堂々の定義は不明だが、少なくとも集団で冒険者とはいえ少女を襲っていたコイツらに言われる道理もなし。
さて、どうしてくれようかと悩んだ俺の肩を、後ろから少佐が叩いた。
「代わろうエルドくん、君は周囲警戒に移ってくれ」
「わかりました」
ゴブリンから足をどける。
「てめぇ......勇者ジーク・ラインメタルか! なぜ......、なぜお前がこんなところに――――――アガアァッ!!?」
言い終わらせる前に、少佐は持っていた9ミリ拳銃でゴブリンロードの腕を撃ち抜いた。
「悪いが質問権はないんだ。まぁこちらのことを何も知らない君を殺しはしないから安心したまえ、今回の攻勢について聞いていることを教えてくれないか?」
笑顔で拳銃を突き付ける少佐。
モンスター相手の尋問か......、古くから連中と戦っている少佐なら確かに適任であった。
「はっ! 勇者のクソ野郎に話すと思うかよ? それにもうすぐ騒ぎを聞いた同胞が駆けつけてくれる、悠長に話しているとあっという間に......あがぁッ!?」
さらに2発、引き金をひく少佐。
「話せないなら良い、じゃあ代わりにこっちから教えてあげよう。君をここまで追い詰めている武器についてだ」
少佐は銃口を押し付けると、それはそれは嬉しそうに話す。
「これは"銃"と言ってね、身体能力で優る君たちをより効率よく消すために生まれた武器だ。美しいだろう? 機能美の極地というやつは実に合理的であり芸術的だ」
俺は今でもたまに疑う、少佐は本当に勇者なのかと。
想像していた勇者像とは、あまりにもかけ離れているからだ。
「火薬と鉄の武器、弾丸を飛ばして君のような上位種ですら圧倒できる。この指先1つで魔王すらひざまずくのだよ......っと、教えられるのはここまでだ」
少佐は鬼のような形相をするゴブリンロードの足へ、さらに4発撃ち込んだ。
これは......元々聞き出すつもりなんて無かったな?
「勇者が......!! 絶対に許さんぞッ!!!」
身動き1つ取れなくなったゴブリンロードから、少佐は足をどけた。
「後は頑張って自らが調べたまえ。今話したのでも十分軍事機密でね、マヌケなペンデュラム君には周回遅れがお似合いだ」
ふと、少佐は通信機を取り出した。
「こちらレーヴァテイン01――――今からか? ......あぁ了解した。すぐに後退する」
通信を終えた少佐は、手を振りながら踵を返した。
「撤収だよ撤収ー、こんなところさっさと出るぞー」
「えっ、そのゴブリンはどうするんですか?」
「放置で良いよ、時間がもったいないだろ」
負傷した冒険者を連れ、スタコラサッサと森の入口へ停めた装甲車へと向かう。
そして、道中で少佐が一言漏らした――――――
「救助者がいる以上無駄足だったとは言えんが、落とすならさっさと落とせば良かったものを......。諸君、車に乗ったら離れた高台へ向かおう。王国軍特製の花火が見られるぞ」
今でもお読みいただき、さらには感想、ポイント評価までしてくれる同志読者様には感謝しかありません。
今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m