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第53話 人間なんて下等生物、そう思っていた時期がゴブリンにもありました

 

「ハァッ......ハァッ、ここまで来れば一旦は安全か......」


 森へ逃げたゴブリンロードのギムは、自身とその部隊がなんとかあの地獄から逃げ出せたことを幸運だったと呟く。


 おぞましい光景だった。遥か遠方でパパパッと閃光が瞬いた時には、もう傍にいた仲間が殺されていたのだから。

 前衛を務めたオーガも、なんの魔法かはわからないがことごとく頭部を喪失して全滅。


 歴戦のセイレーン隊も、何か見えない刃で切り裂かれるように撃墜されていた。

 この数年で、いったい人間共になにがあったというのだ。


「ギム隊長......、これでは事前の情報と違い過ぎます! 連中は今回もたやすく殺せるはずではなかったのですか!?」


 最近魔王軍に入ったばかりの新米ゴブリンが叫んだ。


「俺が知るか!! 最近まで冒険者と呼ばれる連中は確かに剣で突っ込んできたはずなんだ! クソッタレ......」


 苛立ちが抑えられない。

 始まりの町に着いたら好きなようにしていい、人間は殺すなり陵辱するなり、君たちの自由だとヒューモラス様に言われた。


 それがどうだ! 人間の城を踏み潰すどころか、森へ逃げるのが精一杯だとは......。


 頭に血が登ったギムは、傍にあった木を思い切り殴った。

 木はひしゃげ、メキメキと音を立てて傾く。


「ギム隊長! あまり目立つと人間に発見されてしまいます!!」

「黙れ新米の分際で!! なぜ俺たち魔族が人間共から隠れねばならん! 我々は決して屈しな――――――」


 グリムは気がつく、自分たち以外の臭いが混じっていることに。


「臭いな......人間だ! 近くにいるぞ!!!」


 部下に周囲を探索させると、正体はすぐに判明した。


「隊長! 人間です、人間の冒険者です!!」

「やっぱりか、連れてこい!!」


 茂みから引っ張り出されたのは、新米の冒険者らしい少女だった。

 体躯は細く、動きやすさを重視したのか軽装だった。


 腰の短剣を奪い取ると、ギムは顔を近づけた。


「オイお前......、あの連中の仲間か?」


 ゴブリンが喋ったことに驚いたのか、少女は両肩を抑えられながら逃れようとする。


「......仲間? 知らないわよ! 私は1人で採取クエストに来ただけ! 仲間がいたとしてゴブリンなんかに絶対教えないわよ!」


 気の強い少女だった。戦いを知らず巻き込まれたか、あるいは危険を承知でやってきたか。

 だが、その態度は人間に蹂躪されたばかりのギムにとって腹立たしいことこの上なかった。


「じゃあいいさ――――お前は用済みだよ!!」

「あがッ!?」


 少女の無防備な腹部を、ギムは怒りに任せて殴りつける。


「ほら見たかよ! 人間なんてしょせんこんなもん! さっきの戦いはなにかの間違いだったわけだ!!」


 何度も少女の腹に拳を打ち付け、蹴り飛ばした。


「カハッ......!」


 そのまま木に叩きつけられた冒険者の少女は、血を吐きながら力なく崩れ落ちる。


「うっぷんを晴らすにはちょうどいい、ついでだ、ここで殺して食料にしてやれ」


 奪った短剣を部下に渡すギム。

 だが、彼らは気が付かない――――――


 《目標、正面ゴブリンロード。単発、冒険者には当てるなよ》


 森で隠れるにしては――――


 《了解――――『誘導ホーミング』》


 少々騒ぎ過ぎていたことを......。


 ――――ダァンッ――――!!!


 短剣を持っていた新米ゴブリンが、乾いた音と共に倒れる。

 ギムの脳裏に蘇ったのは、先程までの悪夢だった。


「お前ら武器を構えろ!!!」


 木々の闇より飛び出してきたのは、冒険者とは明らかに違う――――無骨な鉄製の武器を持った戦闘集団だった。


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