第52話 最強だった魔王軍は、今日をもって過去の栄光となりました
「敵ワイバーン撃墜!」
塹壕から顔を覗かせた俺は、突っ込んできたワイバーンが落とされる瞬間を見届けていた。
「今のは危なかったッスね〜、エルドさんちゃんと当てましたか?」
真横にいるセリカが、鉄鉢を抑えながら上空を見上げる。
「機関銃まだ装填中なのに撃てるかよ、さっさと弾帯入れるぞ」
「はいはーい、あれ......弾薬箱どこに置いたかな?」
くっ、コイツと最前線とか生き残れる気がしない......。
見ればもう視界には敵の軍団が映っている、効力射の中を突っ切ってきたのだろう。
「装填よし!」
「了解!」
パタンと薬室を閉じ、コッキングレバーをめいいっぱい引く。
新生魔王軍は無事だったオーガを筆頭に、波のごとく押し寄せていた。
俺たちの仕事は、そんな砲撃の食い残しを仕留めることだった。
「さて諸君、ようやく我々の出番がきた。楽しい殲滅戦を彩る準備はできたかね?」
《こちら第2トーチカ、もちろんできておりますよ勇者殿!!》
《迫撃砲班準備よし! 吹っ飛ばすことこそ我らが本懐です!!》
《勇者殿! とっておきの酒を期待してもよろしいと聞きました!!》
少佐の声に、意気揚々とした通信が乱れ飛んでくる。
さすがは元勇者......最前線での士気上げにも、少佐は一役買っているようだった。
「鼓舞もいいッスけど少佐ー、それマジで撃つつもりですか?」
セリカの視線の先を見れば、物々しく突き出した対戦車ライフルを少佐は構えていた。
なんというか、あんなの撃ったら肩が吹き飛びそうだ。
「せっかく書類共々の申請を終わらしたんだ、使うに決まってるだろう?」
「絵面が勇者のそれじゃないッス......」
「ではその保守的なイメージを塹壕に捨てたまえ。さっ、そろそろだぞ」
異形の軍団へ照準を向ける。
モンスターなんて狩ってるのはいつも冒険者ギルドの連中だが、彼らの戦いと俺たちの戦いは根本からして違う。
俺たちはもっと――――――
《対モンスター突撃破砕射撃5秒前――――3、2、1......》
――――卑怯だからだ。
《全陣地撃ち方始めッ!!!》
機関銃の引き金をひいた。
超高速で発射された大量の弾丸が、魔法を発射しようとした黒魔導士を薙ぎ倒す。
さらに......。
――――ダァンッッ――――!!!
横で対戦車ライフルが火を吹いた。
少佐の放った大口径の弾丸は、オーガの首から上を消し飛ばしていた。
「えっぐ......」
俺の傍で機関銃の発射を補助してくれていたセリカが、倒れるオーガを見て一言。
一方の敵はというと、迫撃砲に機関銃、ライフルの一斉射撃を受けて大混乱へ陥っていた。
「撃て! 撃てッ!! 絶対に近寄らせるな!!」
もし近接戦に持ち込まれれば、俺たちは逆に絶対的な不利へと転落する。
なんとしても接近を阻止せねばならないと、さらに弾を発射した。
俺に任せられた汎用機関銃は、恐ろしい発射速度を誇る武器だ。
その異常なまでの連射から布を破いたような音が響き、相手の上から撃てばショットガンの雨のようになる。
《10時方向、稜線よりセイレーン群出現!!》
《歌声に惑わされるな!! 意識を取られそうになったら同僚に引っ叩いてもらえ!!》
人と鳥を合わせたような異形、名をセイレーンがこちら目掛けて突っ込んでくる。
奇妙な歌声は、不思議なことに銃声の嵐を突き抜けて俺たちの耳へ届く。
意識を持ってかれそうになりながらも、俺は対空サイトを立ち上げてセイレーン目掛けて斉射。
翼ごと撃ち抜かれたセイレーンが、バタバタと撃墜された。
「セリカ! 起きてるなッ!?」
「ふぇ......、だっ、大丈夫れす!」
「おい舌回ってないじゃねーか、起きろコラ!!」
寝起きの子供のようによだれを垂らすセリカを思いっきり揺さぶり、なんとか覚醒させる。
だが、他も結構似たようなことになっているのか、あちこちからビンタの音が聞こえる。
中には、引っ叩いても起きなかった人を目覚めさせるためか、至近距離から銃を撃った人がおり「俺の耳元で撃つな――――――――ッ!!!」と悲痛な叫び声が聞こえてきた。
だがなにはともあれ......。
「撃ち方やめー!」
突っ込んできた新生魔王軍は、ようやく引いたようだった。
だが、少佐は撃ち尽くした対戦車ライフルを置くと、拳銃を2挺取り出した。
「森へ逃げた少部隊がいる、ゲリラ化しても厄介だ――――皆で一緒に駆逐しに行こう」
ニッコリと笑みを浮かべる元勇者様は、徹底的にやるつもりのようだ。
【鉄鉢】
戦闘用ヘルメット。
【突撃破砕射撃】
一般的には最終防護射撃と呼び、敵のいる場所、いそうな場所へとにかく機関銃やら迫撃砲を撃ちまくる。
なお、もしこれを突破された場合は殴り合い必至の白兵戦となる。




