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第50話 近代国家の本気

 

「敵の様子はどうだ?」


 新生魔王軍・アルト・ストラトス方面第1梯団ていだん長クロームは、偵察から戻ったガルム・ワイバーン部隊の隊長に報告を訪ねていた。


「妙に細長い溝と、見たこともない鉄の柵が伸びていました。建築物も多数見受けられますが、敵の軍勢はよく確認できません。突撃してくる気配など皆無です」

「怖気づいたか? 我が軍の威容の前には無理からぬ話だが、やはり人間では戦いにすらならんか。これならエルミナ様より早く着けそうだな」


 越境した新生魔王軍は、一直線に【始まりの町ソフィア】を目指していた。

 予定ではもうこの時点で抵抗してきた王国軍を蹴散らし、通過地点であるロンドニアへ攻め込む準備をするはずだったのだが、一向に敵の攻撃が来ないのだ。


「クローム様、いささか不審だと思いませんか? 予想以上に事が進みすぎています」

「良いことじゃないかターナー隊長、このペースなら今日中にロンドニアを陥落させることすらできるやもしれん。魔王様もお喜びになるだろう――――君は引き続き上空から掩護したまえ」

「......わかりました」


 ターナーは再びガルム・ワイバーンにまたがると、上空の味方と合流する。

 見下ろせば、眼下には地を埋め尽くさんばかりのモンスターが行軍。


 各種族ごとに密集し、いつどこからの切り込みや魔法攻撃にも対応できるよう、前衛にオーガ、後衛に黒魔導士が配置されている。


 自分たちの上空掩護を合わせれば、まさに盤石ばんじゃくと言って良い。

 だが――――――


「どうして敵は仕掛けてこない......?」


 あの溝や建築物にいるのは間違いない、しかし一向に魔法攻撃すら行われないことにターナーは違和感を覚える。

 そして、彼の眼下でそれは光った......。


 小さな池を新生魔王軍が超えた時、ノーマークだった山の中腹よりいくつもの閃光が瞬いたのだ。

 オーガ部隊が巨大な盾を構え、魔法攻撃を確信した黒魔導士が障壁を展開。


 開戦の火蓋は、まず中央のゴブリン軍団が吹き飛ぶことにより切って落とされる。


「なんだッ!?」


 次々と爆発する地面。叩きつけられた空中からの爆風が黒魔導士を木っ端微塵に粉砕した。

 第1梯団ていだん長クロームは、事態を把握できない。


「障壁が一瞬で破られた!? 何が起こっている......!!!」


 それが彼の放った最後の言葉だった。

 山岳部に隠蔽されていた陸軍の155ミリ榴弾砲が、魔王軍の本陣に直撃。

 司令官クロームはその瞬間に戦死し、さらに第1梯団ていだんはこの時点で1000以上の被害が出ていた。


 21個砲兵中隊(120門以上)による激烈な効力射を、ターナーは上空から見下ろしていた。


 《クローム司令官戦死!! 第1梯団の被害甚大です!!》


 僚騎が念波で最悪の報告を送ってくる。

 地上のあちこちで閃光が走る度に、味方が消し飛んでいくのだ。

 ターナーはこれを大人しく見ていることなどできなかった。


「地上部隊を救うぞ! 全騎突撃! あの魔導具陣地を吹っ飛ばしてやれ!!」


 溝の奥、平らな陣地に展開する砲兵部隊へ、ターナー航空騎士団は突撃。

 30騎のガルム・ワイバーンが今まさにブレスを放とうとした瞬間、隣接する塔に動きがあった。


 ――――ドドドドドドドドドドドッ――――!!!!


「なッ!?」


 陣地の防空を行っていたのは、ハリネズミと形容するに相応しい高射砲塔。

 曳光弾えいこうだんが視界を埋め尽くし、とてつもない弾幕によって次々に精鋭が――――仲間たちが落とされていく。


「こんなことが......」


 せっかく放ったブレスも、コンクリートの塊たる高射砲塔には火災すら起こせない。

 ターナーがただの溝と思っていた陣地、名を"塹壕"からも機関銃が浴びせられた。


 愛騎がまたたく間に蜂の巣となり、やがてターナーも全身を引き裂かれた。


 06:17――――越境した新生魔王軍 第1梯団は開幕で司令官が戦死。3500以上の死者を出すことで悪夢の戦闘を開始した。


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