第5話 討伐クエストのお供に魔剣? いえいえ、高火力国産ショットガンでしょう
俺が自力で使える魔法は、せいぜい防御魔法くらいだ。
魔力量がいくら多くても、その力を全く活かせなかったと言っていい。
そんな中出された少佐の案は、実に合理的で素晴らしいものだった。
「銃は弾を発射する武器だ。これに魔法を付与すれば、上位モンスターすら粉砕する威力になる」
王都からわりと近い森の奥で、俺たちはゴブリンロードの巣を目指していた。
霧が濃く、視界不良もいいところの悪環境。いかにもモンスターが出てきそうな雰囲気である。
「可愛いな〜、可愛いな〜! トレンチガンは可愛いな〜! 装弾数6発、優れた発射速度が自慢の素晴らしい銃ッスよ〜」
まぁ……、横でショットガンを頬へスリスリとくっつけているミリオタがいなければの話だが。
「おいセリカ、これから俺の命を預ける武器に何をしている?」
「決まってるじゃないッスか〜、ちゃんと動くよう祈る儀式ですよ儀式。これから魔法を付与する弾もしっかりわたしが持ってます!」
「お前が持ちたかっただけだろうが、限界オタクめ!」
セリカからトレンチガンを受け取った俺は、1発ずつ弾を装填していく。
「そういえば、魔法学院ではなにを専攻してたんですか?」
「さっきお前の言ってた付与魔法だよ、魔法をほとんど使えない俺にできた唯一の特技さ。魔剣や杖じゃ全然ダメだったけどな」
弾を5発装填し、スライドを引くことで薬室と呼ばれる場所へ送り込む。
ガシャッと軽い音が森に響いた。
「なるほど、それで銃というわけですか。軍を志望したのはミリオタ以外にもちゃんと理由があったんッスね」
「お前が言うか……。でもまぁそんなところだよ、最新式の銃を使えるのは王国軍くらいだし。学院長にはブチ切れられたけど」
5年前までやっていた魔王軍との戦争のせいで、軍事にアレルギーを起こすものは度々いる。
学院長もきっとその口だったのだろう、典型的な自称平和愛好家様だ。
「––––おっと、巣はもう少し先だと思っていたが」
立ち止まる少佐。
見れば、茂みの奥に今回の目標である"ゴブリンロード"が6体もいたのだ。
「では少々早いが始めよう。魔法学院の魔導士がどこまでやれるかをね」
木の上へ一瞬で上がる少佐とセリカ。
地上には俺とゴブリンロードのみが残り、銃の引き金に指をかける。
そういえばゴブリンロードの素材は希少だったな、売ればそれなりの額になるしついでに取っていくとしよう。
「実に楽しみだ…….、早く付与魔法専攻のエルドくんに見せてもらいたいね。武器に付与できるという強力な属性を」
「わかりました、ではさっそく1つ目を」
俺はまず近くのゴブリンロードに地を蹴って近づくと、1発目になる弾丸を発射した。
散らばった無数の散弾は、その一つ一つが榴弾のように盛大な爆発を起こし、ゴブリンロードを吹っ飛ばした。
「【炸裂】。講義では弓矢用でしたが、トレンチガンの方が遥かに強いですね」
「うわっ、すご……」
これは付与魔法でも一番魔力を消費するので、常人は1本の弓矢に全神経を集中させて属性を付ける。
だが俺の紋章は違った。
––––ダァンッ––––!!
乾いた音と同時、2匹目のゴブリンロードがアッサリ消し飛ぶ。
仲間は状況が理解できないのか、未だにオロオロしている。
そう––––無尽蔵の魔力は、数十発の子弾全てにエンチャントすることすら可能にしたのだ。
地面をえぐる炸裂魔法弾を何発だって放ててしまう。
「グギッ……! ギャギャア!!」
距離を空けていた2匹のゴブリンロードが、俺へ狙いを定め突っ込んできた。
横に転がり込むことで初撃を回避、すぐさま立て直す。
「ぬおおりゃああぁッ!」
もう1体を、起き上がった瞬間に空中へ思い切り蹴り上げた。
すかさず照準を定め、宙に舞うゴブリンロードへ合わせる。
「そして2つ目!【誘導】!」
撃ち上がった弾丸は、捕捉した敵へ向かってジグザグに飛翔。
本来なら散らばってしまうはずの散弾は、全弾ゴブリンロードへ命中した。
「うわぁ……オーバーキルッスよ」
セリカにドン引きされるも、こっちは命が懸かっているので躊躇など一切しない。
スライドを引き装填、誘導性能を与えられた次の弾丸が、逃げようとしたゴブリンロードを貫くのに5秒と掛からなかった。
続けて引き金をひく。
今度は炸裂魔法付きの散弾が撒き散らされ、薙ぐようにゴブリンロードを吹っ飛ばした。
「ギャルルアアアアアッ!!」
おそらく群れのボスだろう。
歴戦の傷跡は、今まであらゆる冒険者を返り討ちにしてきたのかもしれない。
でも冒険者じゃない俺には関係なかった。
障壁を張り、ゴブリンロードの攻撃を咄嗟に防ぐと同時に腰へ手を伸ばした。
「こちとら国営パーティーなんでな、予算が違うんだよ」
左手で拳銃を抜き連射。
ゴブリンロードにいくつもの風穴が空いた。
「おーこれでクエストクリアですね、いや期待以上でしたよエルドさん!」
セリカはやや上機嫌な様子でショートヘアの髪を触っている。
経験値も入手、希少種だけあってスキルレベルも一気に上がっていた。
そこへ、唐突に木の上から拍手が掛けられる。
「いや合格だエルド君、きみをぜひ我が隊へ迎え入れたくなった。どうだい銃は? もっと使いたくなっただろう?」
今さらながら、我々は武器に対する価値観が狂っているのだろう。
「最高ですが、俺には崇高な理念も信念もありませんよ」
「問題ない、国の主権を侵害する者を消す最も効率的な手段に過ぎんよ––––"銃"は」
「元勇者とは思えませんね少佐。良いですよ、世間じゃ外れ紋章の魔導士である俺でよければ」
少佐は三度笑うと、メガネの奥の碧眼を輝かせた。
「ようこそエルド君、しがない元勇者の率いる対魔王独立機動部隊––––通称"レーヴァテイン大隊"へ」