第49話 遊撃部隊は過労死をおそれない
魔王軍の復活。
一面で大々的に報じられた新聞は、事態の緊急性を仰々しく語っていた。
しかし、第二次魔王戦争が発生寸前となり、国全体が大騒ぎだというのに......この方は――――
「いやはや災難だったね2人共、まさか初クエストが魔王によって失敗になるとは。なんとも度し難く難儀だと思うよ、ぜひぜひ同情しよう」
我らが大隊長、ジーク・ラインメタル少佐はとてもご機嫌だった。
ここは国境都市ロンドニア――――複数の運河を中心に発展した、王都と同じ木組みの家が建ち並ぶ綺麗な街として知られる。
あの後クエストから急いで王都へ戻った俺たちは、休む間もなくこの魔王領に近いロンドニアへ運ばれた。
そして、連れられたこのロンドニア駐屯地内の食堂で、少佐がコーヒーをのんびり啜っていたという流れだ。
「ぜひぜひ同情してやってください、初めてのお使いくらい成功させたかったですよ」
「例のストーカー君には一泡吹かせれたのだろう? なら良いじゃないか、これで心置きなく仕事もできるというわけだ」
少佐にはクエスト中いきなり襲撃してきた新生魔王軍最高幹部、ヒューモラスについても話したが、この元勇者は意外にも無関心。
いずれにせよ、消えたクロムの所在も不明なのでこれ以上の報告もないのだが。
「ところで少佐、1つ聞きたいのですが......」
「なんだねエルドくん? コーヒーの香りが不満かい?」
「いえ、コーヒーではなく彼女のことです」
俺はその右手を、窓際に張り付くオオミナトへ向けた。
「なぜ彼女まで連れてきたんですか?」
「風属性魔導士はレアだからね、役に立つと思った。それだけだよ」
「事情説明くらいしてやってください少佐、王都に帰ってすぐ誘拐するように車へ詰め込んで......」
チラリと振り向く。
「うはー!! これぞファンタジー!! まさに王道! 木組みの家々に巨大建築物! 憧れてたラノベの世界そのまんまだしめっちゃ綺麗ー!」
中央に建つ巨大な時計塔を見ているオオミナトが、かなり興奮していた。
「ほら、嫌がってないぞ?」
「いやそうですけど! ほぼ誘拐もいいところですからね? なにより彼女は軍じゃなくて冒険者ですし」
「エルドくんは意外と神経質だな、では同意があれば良いんだろう?」
言うが早いか、少佐は席に座りながらオオミナトへ声を掛けた。
「オオミナトくん、君の力が必要だ。頼めるかい?」
「もちろん良いですよ!! 少佐さんでしたっけ、よろしくお願いします!」
いやいや軽すぎる、いくらなんでも軽すぎるぞ。
「オオミナトさん、これから君は危険に巻き込まれる可能性が高いんだぞ? フィオーレだったか? 友人のためにも一度王都に戻った方が――――」
「そこは大丈夫です、わたし家無いんで」
「......はっ? 家が無い?」
思わず聞き返す。
「えぇ、冒険者になってからはずっと馬小屋借りて暮らしてました。なのでここのベッドが使えるなら協力もやぶさかじゃないかなーって」
「それに」と、彼女は付け足した。
「危険になんてもう両足突っ込んじゃってますし、フィオーレも特に気にしないと思います。それに、エルドさんとセリカさんがいますのでへっちゃらですよ!」
ニヒッと笑うオオミナトは、窓越しに映る空を背に一層美しく見えた。
「そうだエルドくん、君には一緒に来てもらうところがあった」
「来てもらうところ......ですか?」
この瞬間に気づくべきだったのだ、少佐の瞳がランランと輝いていることに。
「あぁ、喜べエルドくん――――――君は今から"最前線"だ」
盛大にコーヒーを吹き出した俺は、一瞬この場からの全力逃避を思案。
だが、元勇者相手にはきっと無駄な足掻きになるのが目に見えてる。
「なーにセリカくんも一緒だから安心したまえ、あとそんなに気負うことはないよ......なんせ」
少佐の頬が吊り上がった。
「ボーナスステージだよ......これは。僕がなんのために今まで軍へ全てを注ぎ込んだと思っている? 全てがこの日のためだ、その成果を君たちに見せてあげよう!」




