第47話 新生魔王軍始動
エルキア山脈の地下にあったのは、かつて栄華を誇った魔王軍の本拠地である都市。
名を魔都【ネロスフィア】。
この中心部にそびえるのが魔王の住む巨城であり、今回始まる侵攻作戦の司令部だった。
「いよいよですね魔王様、勇者に敗れてからの5年――――魔族にとっては一瞬であるはずの時間を、これほど長いと感じたことはありませんでした」
新生魔王軍・第1級将軍のギランが、王の間でひざまずきながら言った。
将軍は全部で7つの階級が存在しており、そのトップたるギランはかつて勇者パーティー10人の内3人を葬った伝説の竜人族戦士として知られる。
魔王ペンデュラムは、そんな彼へ最高幹部に匹敵する信頼を寄せていた。
「してギランよ、我が軍の様子はどうだ?」
「士気旺盛にして強大であります! もはや上級ギルドごとき踏みつぶせるでしょう、始まりの町ソフィアまで侵攻するのに1週間と掛かりません」
王の間が揺れ動く。
魔都ネロスフィアが、5年の眠りから目覚めようとしているのだ。
「我らは神を殺せる唯一無二の上位種族、人間共から必ずや大陸を奪還し、魔王様へ献上いたします」
「頼もしいなギラン将軍、では戦力の程を聞こう」
ギランは魔導水晶を起動、魔王ペンデュラムの目の前へ光の画面が現れた。
そこには、旧魔王領の各地で集結する万のモンスターが映っていた。
「まずはゴブリン4000、武装リザードマン2000、ガルム・ワイバーン100、黒魔導士1500で先端をこじ開けます」
ギランの瞳は絶対的な自信、勝利への確信で満ち溢れていた。
「予想される王国の戦力は冒険者ギルド、ならびに王国騎士団ですが、先の大戦のデータから突破は容易でしょう。恐るるに足りません」
「ふむ、『ニューゲート計画』を進めるにおいて、始まりの町の制圧を含めた『浄化計画』遂行は絶対である。最高幹部ヒューモラスを司令とした君の第1軍団には期待しているよ」
「ありがたきお言葉、必ずやご期待に答えます」
ギラン第1級将軍は確信していた。この戦いはついに訪れた最高幹部出世への踏み台であると。
たかが人間、ちょっとひねればすぐに終わる。これは難しい仕事ではないのだ。
「本当に容易でしょうか? ギラン将軍」
「ッ!? 誰だ貴様は、魔王様の御前であるぞ!」
振り向けば、そこにはローブに全身を覆った子柄な少女がいた。
フードの隙間から金色の髪が伺え、第1級将軍の自分がひざまずいているというのに、彼女は漠然と立っている。
「リーリスか......、何用だ?」
「魔王様――――東の王国、そして西にある連邦はもうかつての姿ではありません。万の軍勢を粉砕する未知の力を持っています。攻勢を延期してください」
何を言うかと思えば、無礼な上に愚かな敗北主義者ではないか。
しかもこの女はなぜここにいる?
「リーリスよ、お前の持ってきた『ルナクリスタル』はもう起動した。我々は引き返せないところまで来たのだよ」
「いいえ魔王様! ご英断をなさってください! まだ敵の情報が少なすぎます......今は復活の時ではありません!」
いい加減腹が立った。
さっきからなんなのだとギランは歯ぎしりする、ようやくきた復活の時に敗北主義を喚き散らすなどもってのほか。
これから前線に立つ戦士として、ギランはリーリスの存在を許容できなかった。
「口を慎め無礼者めが! 魔王様は既にご決断なされた。これ以上敗北主義をこの魔都で広げるならば――――今ここで殺すぞ」
リーリスが数歩後ずさる。
これで良い、本当は殺してしまいたかったが、魔王様の手前それは控えた。
「これより我々は地上へ出る!! 今度こそ勇者と王国を粉砕し、我らは新世界への扉を開く!! 進めッ――――――魔王軍の勇敢な戦士たちよ!!!」
ペンデュラムの宣言と同時に、魔都全体が浮上を開始。
巨大な領土が、旧魔王領のエルキア山脈――――その麓へ現れた。
そして、魔都ネロスフィアの浮上、膨大な数の新生魔王軍が出現したことを察知した王国陸軍第6師団は、ただちに王都へ第一報を入れた。
【師団】
戦略上の最小単位で、歩兵や砲兵、補給部隊や装甲車部隊などがありこれ1個で独立した戦闘が展開できる。
人数は国や時代によるがおおよそ1〜2万ほど。