第45話 人間は時として狂気に満ちる
「ぐっ......クソッ、あの野郎......この僕を撃ちやがって......」
川原で目を覚ましたクロムは、激痛に悶えながら身を起こそうとしていた。
非殺傷弾とはいえ、至近距離からくらえばその威力は計り知れない。
レベルが低ければ死んでいた可能性もあっただろう。
「荷物は......どこだ」
まずは奪われた武器を取り返し、今からでも体勢を立て直す。
嫉妬の炎はたぎるほどにクロムを動かし、ドス黒い感情が彼を奮い立たせた。
「僕はまだ、倒れるわけにはいかない......。これぐらいの試練何度だって――――」
「......いいえ、痛みに悶え、それに抗って苦しむのは不幸ですよ」
「ッ!?」
動かなくなった足を見れば、地面から伸びている真っ黒な手に掴まれていたのだ。
「おっお前......! 何者だ!! 僕に触るんじゃない!!!」
「あなた......見たところ冒険者ですね? これは幸運、ちょうど私も標的に逃げられたばかりでして」
弓だ、弓さえあればこんなやつすぐにでも追い払える。
だがクロムの視界のどこにも、自分のアイテムは落ちていなかった。
それもそのはず、クロムの装備は全て気絶している間に隠されている。
着の身着のままの状態では、抵抗など不可能だった。
「ぼ、僕をどうするつもりだ......!?」
「君に限らず冒険者なら誰でも良いですが、ある実験の被験体が欲しいのです――――――ご同行願いましょうか」
「嫌だッ! 離せぇッ!!! 僕はオオミナトをあのクソ野郎から取り返さなきゃいけないんだ!」
「オオミナト? あぁ、あなたも彼女を求めていたのですか。それは不幸でしたね......」
影が広がり、クロムの視界を覆い尽くした。
「ではあなたに彼女の代わりをしてもらいましょう、真に彼女を愛するならば」
真っ黒なシミだけを残して、上級冒険者クロム・グリーンフィールドはその日――――忽然と姿を消した。




