第43話 最大のピンチ
「さぁ、大人しく投降してください」
新生魔王軍の最高幹部と名乗るヒューモラスへ、詰め寄るセリカとオオミナト。
きっと、召喚獣に頼る辺りコイツ自体の戦闘力は低いのだろう。
先の戦闘から2人はそう考えていた。
「よろしいですよ、どうぞ拘束してください」
「潔いですね、オオミナトさん......ヤツが何かしてきたらためらわず攻撃してください」
「了解です」
近寄ろうしたセリカは気づく、ヒューモラスに笑みが溢れていたことに。
「慢心は不幸の始まりです、愚かな思考は破滅を呼びます」
セリカの真上に魔法陣が現れた。
それが召喚魔法ということに気がつくが、時既に遅し。
「しまっ!」
「セリカさん!?」
直上から召喚されたリザードマンに、反応が追いつかなかったセリカがのしかかられる。
2体掛かりで両手足を拘束され、身動きなど取れなくなった。
「ッ......! このッ!! ウインド――――」
暴風を右手に纏うオオミナト。
だが、ヒューモラスの笑みは消えていなかった。
「ダメです!! オオミナトさんッ!」
「――――インパクト!!!」
嫌な予感のしたセリカが這いつくばりながら叫ぶも、先ほどリザードマンを吹っ飛ばした風魔法が発動。
ヒューモラスへ向かった。
「フンッ!!」
オオミナトの放った風魔法は、右手1本でヒューモラスに止められてしまう。
「なッ!?」
「素晴らしい神のような力ですが、それだけです。この世界の理をまるで知らない!! 反射せよ――――『ネメシスの鏡』!!」
瞬間、オオミナトの『ウインド・インパクト』は180度反転。
魔法を放った本人である彼女に直撃した。
「かはッ――――ぁ......!?」
凄まじい暴風に吹き飛ばされ、後方の岩へ背中から激突。
砂煙を巻き上げ、オオミナトは膝から崩れ落ちた。
「わたしは魔王軍の大魔導士であり、あらゆる魔法を知り尽くしました。ただの魔導士がこれ以上戦っても不幸なだけです......あの冒険者さえ渡していただければ、あなたは助けますよ?」
気絶するオオミナトを、ヒューモラスが指差した。
リザードマン2体に抑え込まれながら、セリカは目の前に立つ敵を見上げた。
悔しさで胸が張り裂けそうになる。
最初のリザードマンは、こちらを拍子抜けさせるための罠。
自分は拳銃の弾を使い切り、オオミナトも手の内をさらけ出してしまった。
術中にはまった自分が恨めしくて殺したくなる。
「オオミナトさんを渡す? 大人しくはい......なんて言うと思いましたか? そうやって余裕ぶっこいてるから、5年前勇者に負けたんじゃ――――ぐあぁっ!?」
ヒューモラスの指示で、リザードマンがセリカの腕を締め上げた。
「不幸な方だ......この状況、その華奢な体でなにができると?」
セリカは無理やり立たされ、リザードマンの剛腕が肩に回される。
「人間の感性を以前調べましたが、こういうのが好まれるそうですね」
抵抗できないセリカのショートパンツへ手を伸ばしたヒューモラスが、それの裾へ手を入れた。
ふとももを好き放題撫でられ、変な感触と羞恥心でいっぱいになる。
「んあっ......、はぅ......」
拘束され、暴れることすらできないセリカは嗚咽を上げることしかできない。
「無防備ですねぇ、人間の女の子はこれをやられると恥ずかしがるらしいですが、もう少しガードを固めた方が良いのでは?」
「いやっ......やめっ」
最悪の状況だった。
さっきまで追い詰めていたのはこちらだったのに、気づけば蹂躪寸前。
オオミナトも意識を取り戻してはいたが、片目だけなんとか開けてセリカを見ている。
まだ動けそうになかった。
――――誰か......誰か、助けて......。
祈りと共に涙が一筋、セリカの目から流れた。
――――ダァンダァンダァンッ――――!!!
その空気を破ったのは、3発の発砲音。
茂みを裂いて飛び出してきた7.92ミリ弾が、ヒューモラスとリザードマンのこみかみを撃ち抜いたのだ。
「ゴギャッ!?」
「なにッ......!!」
再び影で全身を覆ったヒューモラスが、開放されたセリカから離れる。
「嫌な魔力の正体はお前か......人がストーカーと戦ってる間に、随分と好き勝手やる変態が現れたもんだ」
木々の奥より現れたのは1人の魔導士。
アサルトライフルの銃口から煙を昇らせ、背中には盾を背負っていた。
「これは不幸極まりない、まだ仲間がいましたか」
「......ッ! エルドさん!!」
セリカの横に立ったエルドは、その銃口をヒューモラスへ向けた。