第41話 ヤバいやつにばかりモテる
「エルドさん......大丈夫ですかね?」
なんとか森へ逃げおおせたセリカとオオミナトは、今しがた走ってきた方向を見た。
2人が来た所からは、激しい爆発音が響いてくる。
「あの人、魔力だけなら無尽蔵なんで正面勝負ならたぶん負けませんよ」
「魔力無限ですか......、もし本当ならチート級の魔導士ですね」
「チート......が何かはわかりませんが、強いのは確かです。魔法はその代わりほとんど使えませんが」
「えっ!? 魔力無限なのに魔法使えないんですか?」
オオミナトの反応に、当然かと心中でつぶやきながら拳銃に弾を込める。
「えぇ、なので彼は軍に入りました。魔法ではなく――――火薬を使った武器を媒体とするために」
スライドを前進させ、初弾を入れる。
「色々考えてるんですね」
「はい、でも人のことばかり考えてもられませんよ」
「えっ......?」
セリカは拳銃を傍に生えていた大樹へ向けた。
「誰か!!」
林に向かって誰何するセリカ。
一見なにもないそこで、木から伸びていた影がうごめく。
「ほぉ......、まさかバレるとは思いませんでしたよ。相当の方とお見受けします」
人型を形成した影は、悪魔のような笑みを浮かべていた。
「過激派ばかりにモテて不本意なんですよ......こっちは、お引き取り願います」
「今不本意と!? いけません、それは不幸です! 全くよくありません! 不幸というのは世の理に反します。最上の幸福を私が届けて差し上げますとも」
「なんだか新興宗教みたいですね......、わたしは宗教とかあまりわかんないんで、遠慮しておきます」
オオミナトが手を横に振る。
「なにを仰る! 私の目的はあなたですよ、そこのたおやかな冒険者さん?」
「ストーカーの次は人外!? なんでこう変なヤツにばっかモテんのよわたしはぁ!」
黒髪をグシャグシャと掻きむしるオオミナト。
セリカに拳銃を突き付けられながらヒューモラスは一礼した。
「あぁ、自己紹介が遅れましたね。私――――こう見えて新生魔王軍の最高幹部を務めさせていただいている、ヒューモラスと申します。以後お見知り置きを」
――――ダァンッ――――!!
ヒューモラスの足元が撃ち抜かれ、地面がえぐられた。
セリカが威嚇射撃を放ったのだ。
「冗談でも聞き捨てなりませんね、ご同行願います」
「妙な武器をお持ちのようで、しかしそんな悠長ではいけません。不幸に追いつかれてしまいます」
直後、魔法陣がヒューモラスの足元に出現。
5体のリザードマンが召喚された。
「茶髪のあなたはいりません、消えてください」
「ッ......! オオミナトさん!!」
「はい!!」
距離を取ってセリカが射撃、アサルトライフルは川へ置いて来てしまっているので、頼りは拳銃1挺のみだった。
1体、2体とこみかみを撃ち抜くがすぐに弾切れ、しょせんはサブウェポン。火力には限界があった。
「ゴガアアアァァァッ!!!」
3体目がセリカに迫る。
「はああぁッ!!」
それは恐ろしいまでに鋭い体術、裏拳が鱗を砕き割り、上段蹴りがリザードマンの顔を叩き潰したのだ。
「今です!!」
セリカが飛び退いた瞬間、森に突風が吹き荒れた。
右手1本に暴風を集めたオオミナトが、数歩前へ踏み出す。
「『ウインド・インパクト』!!!」
上位風属性魔法が、横に倒した竜巻のようになってリザードマンへ直撃。
残った2体を遥か彼方へふっ飛ばした。
「ふぅ、一丁上がり!」
「思ったより大したことないッスね、ではご同行願いましょうか!」
ネズミを追い詰めたが如く、セリカとオオミナトは目の前の最高幹部へ詰め寄った。