第39話 クエストの合間にひとときを
「それッ!」
「ちょっ、セリカさんやりすぎー! ――――お返し!!」
「ぶはっ!?」
バシャバシャと水を掛け合う2人の女子を尻目に、俺は岩へもたれながら弾倉へ弾を込めていた。
空を見上げれば、透き通るような蒼空に薄く月まで見える。
小川のせせらぎと共に、7.92ミリ弾を弾倉に込めるカチンッという甲高い音が響く。
とても居心地の良い空間だ......、もう一生ここにいれるくらいに落ち着く。
「やっ! エルドさんは遊ばないんスか?」
「俺はいいよ、こうして弾込めながら空を見てるだけで満足だ」
「そういえば、魔法学院で出会ったあの日もこんな晴天でしたね」
言うと、セリカは俺の横に腰掛けた。
髪を濡らした彼女は、どことなく凛々しい雰囲気がある。
「わたし、こうやって仲間と楽しく冒険に行く日が夢だったんですよ......」
「冒険とは大げさだな、ただの採取クエストだろ?」
「わたしにとっては十分冒険ですよ、こんなの冒険者時代じゃありえませんでしたから」
俺は持っていた弾倉を置き、もう一度空を見上げる。
「軍人が冒険者より冒険者らしいとは、面白い時代になったもんだな」
「えぇ......、ホント感慨深いです」
振り向けば、彼女の瞳からは涙が一筋流れていた。
こういう時に男が取る行動なんて知らない俺は、無言でそれを拭う。
「ひぐっ、すみません......。わたし冒険者だった頃は雑用ばっかで、囮にされては大怪我したりとかが普通だったから、こうやって仲間とクエスト行くなんて経験なくって......」
辛い過去は誰もが持つものだ。
だがそれを乗り越え、ここまで生きてきた人間は本当に尊敬する。
そんなとっても強い女の子の頭を俺はソッと撫でた。
「そういや、最初は冒険者ギルドに行くのも怖がってたっけ。よく今朝ついてこれたもんだ、お前はそこらの上級職よりよっぽど強いよ」
グシャグシャと濡れた髪を撫で回す。
彼女は少し前まで冒険者ギルドを敬遠していた、だが今朝はなんの気なしに俺と同行した。
十分な進歩だ。
「いっ、1番信頼できる人が......いてくれましたし、あのくらいよゆーデス」
「1番って、こんなミリオタがか?」
「ミリオタだからッスよ、戦車について語らえるのはエルドさんくらいですので」
ニッと笑うセリカの顔にもう涙はなかった。
「そうか......ほら、オオミナトが呼んでるぞ、行ってやれ。んでもって遊んでこい」
「了解ッス!」
立ち上がるセリカの背中を見ながら装填作業を続けようとした時、滝の上で何かが光った。
魔力反応を同時に感じた俺は、とっさにセリカの腕を掴む。
「下がれッ!!!」
引っ張ったセリカの前に立ち、防御魔法を展開。
タッチの差で次々に『炸裂』の付与された矢が、障壁に刺さり爆発した。
「エルドさんッ!?」
「ギリで防いだから心配すんな! それより来たぜ――――追跡魔さんのお出ましだ」
滝の上で魔弓を構えていたのは、冒険者クロム・グリーンフィールド。
街で召喚獣を使って俺たちを襲った張本人であり、その照準はまっすぐ俺に向いていた。
「国家のあやつり人形風情が......! 消しとべッ!!!」
さらに撃ち込まれる炸裂魔法付きの弓矢。
防御魔法で防ぎながら、後ろのセリカへ叫ぶ。
「オオミナトさんを連れて隠れろ!! あのクソ野郎は俺が始末をつける!」
「......はいっ!」
攻撃の合間にセリカが飛び出し、最低限の装備だけ持ってオオミナトと共に森へ退避。
俺はショットガンに非殺傷弾を込めると、滝上のクロムと正対した。
「せっかくの楽しいひとときを奪ったんだ......。覚悟はできてるな?」
「知らないね、君のひとときなど奪われて然るべきものだ」
「ほぉ......」
ショットガンを後ろに担ぎ、拳銃のスライドを引く。
「ならアーチャー対アーチャー。お前が魔弓なんていう前時代的な武器でどこまでやれるか――――――楽しみだよ!」
弓が引かれ、戦いの撃鉄が起こされた。




