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34・大団円Ⅱ

 

 ––––ミリシア王国 王都。


 世界から全ての勇者が消え、神の力を誇示する存在は失われた。


 あの日……王国海軍の駆逐艦に回収された俺たちは、その後王都のホテルに宿泊していた。


 なぜ大使館じゃないって?

 こないだの大英雄グラン・ポーツマスと大佐の戦いで、建物が未だぶっ壊れたままだからである。


「さて……、今日で新大陸ともお別れだ。やり残したことはないかな」


 荷物整理しながら、俺はソファーでミリタリー雑誌を読んでいたセリカの頭をポンと叩く。


「いったー、なんスか?」


「出立の準備はできたのかよ?」


「わたしはエルドさんみたいなズボラと違うッスからね〜、もうキッチリ準備してますよ」


「そうですか」


 午前10時になり、俺たちはホテルをチェックアウトした。

 俺が壊したことで、インフィニティー・オーブも一旦は消え去り、世界大戦は無事回避された。


 帰ったらアルミナたちにも報告しないとな。


「そういえば戦艦グリフィス、こっちのドッグで修理するんでしたっけ?」


「らしいな、連邦戦艦と撃ち合って小破で済んだあたりやっぱ凄えわ。機会があればもう一回乗ってみたいな」


「そうッスねー! 46センチ砲の迫力はマジヤバでした! アレはロマンの塊ですよっ!」


 そんな会話をしながら、俺たちは港湾エリアへつながる通りにたどり着いた。

 一歩踏むごとに、はちゃめちゃだった強行軍の終わりが近づく。


「ラインメタル大佐は……やっぱ新大陸に残るんスね」


 少し残念そうに呟くセリカ。


「まぁ当然だろ、あの人の職務は神なき世界の維持だ。今さら現大陸に戻っても退屈するだけだろうよ」


「もう勇者じゃないのに、相変わらずウォーモンガーっすねぇ。戦闘できないとストレス溜まるのは、エルドさんがレーヴァテインに来る前からずっとですよ」


「そうなのか?」


「えぇ、ちょうど魔法学院への潜入手続きしてもらったときも、平和なんざクソ喰らえみたいな顔してたッス」


「ははっ、容易に想像できるな。一応今度の休暇で帰ってくるらしいから、すぐに再会できるだろう」


 ちなみに、新大陸に来てすぐお世話になった大英雄の妹––––カレン・ポーツマスには前日に別れの挨拶を告げた。

 なんでも、これから兄に代わってドラゴニアとかいう冒険者ギルドを立ち上げるらしい。


 目指すはランキング1位、めっちゃ意識高い。


「時間は進むなぁ、……止まることなんざ決してない」


 だからこそ、決めねばならない時は必ず訪れる。

 アルト・ストラトス王国行きの客船が停泊する埠頭、その正面で立つ少女に俺たちは正対した。


「よっ、ちゃんと眠れたかえ?」


 黒が基調のマントに学校の制服にも似た上着、これまた黒のプリーツスカートを振ったヴィゾーヴニルが振り向く。

 茶髪の頭には、トンガリ帽子がかぶさっておりそれはまるで……。


「おぉっ、めっちゃ魔法使いっぽいですね!!」


 まさにセリカの言葉のままだった。


「ありがとうセリカ、ちなみに黒はおぬしらの軍服をリスペクトしてるが故じゃ」


「嬉しい! とっても可愛いッス!!」


 女の子らしく照れるヴィゾーヴニル。

 その手にはキャリーケースのグリップが握られており、これから俺たちと現大陸に戻る予定だ。


 けれど次の瞬間––––俺の大事な片割れは名残惜しそうに微笑んだ。


「エルド、ワシは……この新大陸に残ろうと思うんじゃ」


 きっと……、一晩中考えたであろう決断。

「なぜ」と言おうとしたセリカを、俺はあえて遮った。


「荷物見てそう言うと思ってたよ。もう俺たちをからかえなくなったんじゃ、お前が退屈な現大陸に帰る理由もないしな」


「ちっ、バレておったか……我が片割れは相変わらず鋭いのぉ」


「同じ存在だからな、隠し事は不可能だよ。俺も……お前も」


 こいつはずっと世界樹に引きこもっていた。

 俺と戦ったときも、外の世界に強い憧れの感情を見せていた。

 ならば、真に自由となった彼女の旅を誰が邪魔できようか。


「本当に……残っちゃうんッスか?」


「あぁ、ワシはもっと世界をこの目で見てみたい。色んな人と出会い、家族を作り、自由奔放に生きてみたいんじゃ……わがままかの?」


「いえっ、そうは思いません……! ただ、たまには帰ってきてくださいね?」


「もちろんじゃよセリカ、その時までにはおぬしと被ったこの茶髪もなんとかせんとな」


「えっ、そんなの全然気にしないッスよ!?」


「そういう訳にもいくまい––––ほれ」


 言うより早かった。

 ヴィゾーヴニルが指を鳴らすと、瞬く間に彼女自身の髪色が薄い金髪に変わっていく。

 魔法使い然とした格好と相まって、まるで別人のようだ。


「ヴィゾーヴニル……というのも人間社会じゃ結構目立つしの、違和感がないものに改名しようと思う」


「お前のことだ、とっくに考えてんだろ?」


「フッフ、ご名答!」


 キャリーケースを身に寄せた彼女は、指を三日月(みかづき)のように曲げた。


「エルド、おぬしとワシは表裏一体の存在……お前が太陽ならばワシは静かな月じゃ」


 彼女は自信に満ちた笑顔で、名前を宣言した。


「古の神獣ヴィゾーヴニル改め––––古の大賢者“ルナ・フォルティシア、これからはそう名乗ろうと思う」


「ルナ・フォルティシア……めっちゃ良い名前じゃないッスか! 超センスあります!!」


「フッフフ、そう褒めてもなんも出やせんぞ」


 船の汽笛が鳴った。

 出発時刻が近づく……。


「活躍を祈っているよ、ルナ・フォルティシア。お前のことだからすぐに大都市くらいその名で牛耳りそうだ」


「もっちろんじゃ、実は既に候補を決めておっての。【温泉大都市ファンタジア】という街を拠点に活動しようと思っておる……そこで有望な弟子も取ってみたい」


「さすが大賢者様だ、人生計設計に余念がない」


「今やエリート軍人のおぬしが言っても、皮肉にしか聞こえんが」


「本気だよ、お前なら––––次代の伝説の立役者にすらなれるだろう」


 船の出発時刻になった俺たちは、最後に笑顔を見せ合った––––


「また会おう、ルナ・フォルティシア。貴官に蒼空の加護があらんことを」


「あぁ、また会おう……エルド・フォルティス。セリカ・スチュアート。どうか幸ある良き家庭を––––」


 生まれ変わった彼女に見送られながら、

 新大陸発、王国行きの船に俺たちは乗り込んだ。


「また会いましょーう!! フォルティシアさーん!」


 終わらない物語はない。

 どんなストーリーにも終わりはある、けれど……バトンは受け継がれるだろう。


 俺が大英雄に道を示したのに呼応し、きっと次に現れる新たな竜が伝説を作るのだ。

 そして……。


「セリカ!」


 誰もいない、潮風の吹く甲板。


 俺も……次のステップに進むことを心に決めた。

 恋人の告白はセリカからだった、なら––––2回目の告白は俺から行うのが筋ってもんだ。


 唾を飲み込み、美しいセミロングの髪をなびかせたセリカに––––俺は赤面しながら向き合った。


「これから俺と一緒に……っ! 最高の家庭を作らないか?」


ぶっきらぼうなその一言に、彼女––––セリカ・スチュアートは床を蹴り、バッと抱きつきながら答えた。


「もちろんッスよ、なんたってわたし達は––––神すら倒す世界最高のパートナーなんですからっ!」








––––––––国営パーティーの魔王攻略記 番外編END


もしここまで読んでくださってる方がいたなら、楽しんでもらえた方がいたなら……作者としてこれ以上の喜びはありませんっ。


至らぬ点も多かったと思いますが、番外編はとりあえずこれにて完結です。

本編終了後に残された不明点を解消する目的で書き始めたお話ですが、とりあえずヴィゾーヴニルと少佐、そしてエルドとセリカのどうなったか要素は解消できたんじゃないでしょうか。


ただ、エルドの言ったとおりこれでバトンが落ちるわけではありません。

彼が生かした世界で、新たな物語は動き続けます。


新大陸に残ったラインメタル大佐、ルナ・フォルティシア、そしてエルドに道を示された大英雄グラン・ポーツマス。


彼ら彼女らがその後どう生活しているかは、私が現在連載中の【「俺たちもうトップランカーだから」と追い出された竜王級エンチャンターの幸せ過ぎるホワイトライフ〜】で綴っております。


世界観はガッチリ繋がっていますが、本作を知らなくても全く大丈夫な作りになっています。

けど、これを知っているあなた方ならさらに楽しめますよ。

広告⬇︎のリンクから読めるので、是非––––



ではこの辺でお暇です。

私自身、本作は全編通して最高の物語が書けたと思っています。

重ねて、お読みいただいた全ての読者様に感謝っ。


皆さんに蒼空の加護があらんことを––––

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