32・VS勇者ジーク・ラインメタル
これが本作最後の闘いです
「さぁ来いっ!! これまでの全てに決着をつけよう!!! エルドくん!!!」
俺は勢いのまま突っ込み、自分ごとラインメタル大佐を外へ押し出した。
蒼空の下、城の平らで細い構造物を足場に俺たちは対峙する。
「いつか……こういう日が来るとは思ってました」
「あぁ、僕もだ」
これまでの敵とは全てにおいてワケが違う。
眼前で銃剣を手に構えるは世界を救い、世界を殺す謀略を打ち立てた世界最強の勇者だ。
「俺は貴方に救われた、もしこの世の勇者全てを駆逐するのが貴方の責務なら、俺は全力で応えましょうッ!!」
炎と雷を纏い、瞬間的に音速まで加速しエンピを叩きつけた。
ヴィゾーヴニルの力を100%活かした攻撃だが、眼の先で火花が散ったことから容易に防がれたと確信する。
「その通り––––傲慢な神を殲滅し、人類の完全自立を助けるのが僕の計画だ……。そこにアルナが残した勇者などという身勝手な存在は必要ない。全て消えるべきだ!」
振られた銃剣は、今まで死闘を繰り広げた数多の強敵全てを上回っている。
天使すら圧倒する剣舞を、一太刀残らず防ぐ。
「相変わらず回りくどいことですね……! 自殺は候補になかったのでッ?」
「自殺なんざ酔狂な人間のすることだよ、僕は最後の最後まで戦い抜き、人間の手によって討ち取られねばならない! それこそが真の勇者打倒だからだ!!」
後方へ距離を取った瞬間、ラインメタル大佐は銃剣へ魔力を乗せた。
残り火全てを捧げるような魔力量に、圧倒される。
空中に燃え盛る魔法陣が無数に浮かんだ。
「『イグニス・フレシェットランス』!!」
発射された大量の炎槍を、エンピで弾きながら足元に魔力を流し込む。
「はっ!!」
靴裏で爆発を起こし、俺はそのまま大きくジャンプ。
ラインメタル大佐を飛び越えた。
「そうだ……っ! そうだエルドくん!! 君は今や世界最強の存在だ! こんな程度でくたばる訳がない!!」
ラインメタル大佐が超高速で突っ込んでくる。
俺はすかさず氷壁を5重に連ねるも、残念ながら全く無意味だった。
防壁を一瞬でぶち破った大佐の銃剣が、俺を掠める。
エンピのグリップに力を込めた。
「思えば楽しい日々でしたね、ここまでキツい対勇者戦なんてウォストピア以来––––だッ!!」
すかさず剣を弾き、CQC(近接戦格闘術)へ持ち込む。
「きみは本当に、本当に強くなったよ……! トロイメライで、ロンドニアで、ウォストピアで、ネロスフィアで! 全てにおいて敵を超越していた!!」
俺の4属性魔法を纏った蹴りすらガードしながら、ラインメタル大佐は嬉しそうに頬を吊り上げた。
「だから今度は……僕を超えたまえっ!! この世から神の力の行使者を消すことが––––レーヴァテイン大隊最期の仕事だ!!」
大佐の銃剣が俺の動きを捉え、的確に腕を切り裂いた。
ッ!! さすがに強えっ、だが!!
「『炸裂魔法付与』!!!」
戦いで空中に浮いた瓦礫を、蹴ると同時にエンチャント。
砲弾のように爆発した瓦礫は、大佐に一瞬の隙を生ませた。
「っッ……!!」
「『身体能力強化・絶』!!」
全身に金色の魔力とスパークを纏い、ラインメタル大佐をぶっ飛ばした。
だが銃剣を足場に突き立て、大佐は瞬時にブレーキを掛ける。
「うおおおおぉぉぉおお––––––––––––ッ!!!!」
魔力を限界まで巡らせる。
全力で、全開で、本気の一撃に賭けるしか勝機はないッ!!
空中に飛び上がり、5属性の魔法をエンピに収束させた。
見れば、異次元規模の戦闘で空にはヒビが入ってしまっている。
だがそんなの、今は関係ねぇッ!!
「来いッ!! 君の持つ、君がこれまで培った、君の最強をぶつけてこい! 世界最高の一撃を見舞ってみせろ!!」
ラインメタル大佐を勇者の力が覆った。
これで、この一撃で全てが終わる。
これまでレーヴァテイン大隊のたどった軌跡全てを、大佐と俺は互いに武器へ宿らせた。
女神アルナを倒し、神のもたらす安寧と幻想を破壊したこの技で––––終わらせるッ。
「滅軍戦技––––『イマジナリー・ブレイク』ッ!!!!」
隕石のように急降下した俺は、世界を殺した最強の技を叩きつけた。
「『対勇者極防御魔法』ァッッ!!!」
ありえない規模で発生した魔力の衝突によって、世界に鐘の音に似た音が轟いた。
エルロラ王城が衝撃に耐えられず、木っ端微塵に粉砕される。
鍔迫り合いの向こうで、ラインメタル大佐は過去最高に嬉しそうな表情を見せている。
俺は貴方に助けられた、救われてここにいる!
だから––––今度は俺がっ、
大佐の銃剣と、俺のエンピが同時に砕け散った。
破片がバラバラになって飛び散り。四散する。
地面に着地しながら、俺は拳に全ての想いと力を込めて振りかぶった。
「この手で勇者という宿命から––––貴方を救うッ!!!」
俺の拳と、ラインメタル大佐の拳が互いの顔の間ですれ違った。
「本当に……ほんとうに最高の部下だな。君は––––––––」
鈍く響いた殴打音を最後に……、世界は嘘のように静かになった。




