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【完結済み】外れスキルの不遇魔導士、ゴミ紋章が王国軍ではまさかのチート能力扱いだった〜国営パーティーの魔王攻略記〜  作者: たにどおり@漫画原作
【番外・新大陸編】

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31・世界最後の勇者

番外編も、残すところ僅かとなります。

 

「えっ……?」


 それは一瞬だった。

 俺の右手を『インフィニティー・オーブ』が貫いた瞬間、眩い光が発生した。


 しばらくして俺とエルロラ、互いが弾かれた間の空間––––

 キョトンとした顔で、腰まで届く茶髪を下げた少女が座っていたのだ。


「……だ、誰ッスか? あれ」


 呆然とするセリカ。

 俺は血だらけの右手を治癒すると、座り込む彼女に手を差し伸べた。


「よう、久しぶりのシャバはどうだ? ––––“神獣ヴィゾーヴニル”」


 最初に俺の声へ反応したのは、眼前の少女ではなくエルロラだった。


「まさか……! お前……!!」


 ワナワナと震える彼女は、手の中にある槍を見つめた。


「わたしの攻撃を利用したのか……ッ!! エルド・フォルティス! ヴィゾーヴニル!!」


「あぁ……正解じゃ、勇者エルロラよ」


 立ち上がった少女……改めヴィゾーヴニルは、お尻をパンパンとはたきながら振り返る。

 外見13歳の観測者は、凛々しい瞳で勇者を見据えた。


「おぬしはエルドの魔力を槍で分離しようとしたらしいが……、残念じゃったの。見ての通りこやつの力はワシそのものなんじゃ」


「ありえない……!! じゃあ神殺しは……自分の能力全部が身体から離れるのを是としたと言うのか!?」


「そんなわけなかろう、分離したのはワシの自我と極一部の力だけじゃ。もっとも––––」


 髪を掻きむしるエルロラへ、俺は最高速で肉薄した。


「もうおぬしが知ることはない」


 動揺で隙だらけとなったエルロラの胸を、氷剣で呆気なく貫いた。

 滴った血が床に溜まると同時、勇者の魔力が四散する。


 空中に浮かんでいた魔法陣が消え去り、『神結いの儀式』とやらは中断された。

 エルロラはその場で仰向けに崩れ落ちる。


「あっ…………」


「神に近づこうとした者を止めるのが……、俺の今の仕事だ。悪く思ってくれるな」


「嫌だ…………、わたし、やっと、……やっと神様になれると思ったのに。みんなを幸せにできると、思ったのに……」


 最後の言葉の後……、金色だったエルロラの瞳から光が消えた。

 床に転がる神器『インフィニティー・オーブ』を、俺は拾う。


「これで任務完了……ッスか?」


 エンピを下ろすセリカ。

 だが、人の姿を取り戻したヴィゾーヴニルは安堵の表情を見せない。


「まだじゃ。まだ最後に……相手をせねばならんヤツがおる」


「えっ、誰ッスか……? 敵の勇者はもう倒したのに。誰が残ってるって言うんですか?」


 俺は思い出す。

 さっき自らの手で死に追いやったスペツナズ、その隊長の言葉を––––


 《神を殺した貴様が……、世界でもっとも神に近い存在なら。––––貴様はこれまでで最も親しくもっとも“最強な存在”と闘うだろう》


 そう……神と、神に近づいた者を殺すのが王国レーヴァテイン大隊の使命だ。

 であれば、この世界でそんな力を使う存在は……俺ともうあと”1人“しかこの世にいない。


 セカイという蠱毒の壺の、生き残りし2匹––––


「やぁ、みんな怪我がなさそうで良かったよ」


 俺は覚悟を決めてその人を……我が人生の恩師を見据えた。


「やっぱり……貴方がこの劇場(せかい)のラスボスなんですね。……ラインメタル大佐」


 勇者ジーク・ラインメタルは、俺の数メートル離れた位置で拍手をしていた。

 その右手には拳銃が握られ、今コッキングされた。


「……ようやく、我が大隊の目的を理解してもらえたらしい。嬉しいよ……エルドくん」


「俺をスカウトしてから、今日この日まで起こった全てが……貴方のシナリオだったんでしょう? 大佐」


「あぁ……全ては二度と、神が世界を牛耳らないためのストーリーだ。そして君は期待以上の姿を見せてくれたよ」


 俺はヴィゾーヴニルとセリカを退かせ、ラインメタル大佐と向かい合う。


「どういうことッスか……!? エルドさん! 大佐!!」


「どう言うこともなにも、全部あの人のシナリオだったんだよ。世界大戦も……神殺しも、全部ぜんぶな」


 そう、全ては“勇者”という存在を消すためのストーリーだ。


 人間でありながら、天使や神すら圧倒する大佐は、最後に自分が思い切り戦える人間を生み出したかったのだ。


 あの人と全力でやってなお持ち堪えれるのは、言うならば無限の魔力と全属性魔法を使える神に等しい人間のみ。


「貴方は生まれてから今日まで、本気を出したことなんてない。自分を含めた世の勇者を消し去るには、大佐––––最後に貴方と対等に殴り合う者が必要だったんでしょう?」


「君がセリカくんに連れられて、広報本部に来た日を思い出すよ……。気づいていたかい? 僕はあの日本当に嬉しかったんだ」


 両手を広げ、大佐は歓喜に満ちた笑顔を俺に向ける。


「遂に自分と殴り合えるかもしれない人材が来たと。そして君は世界大戦を勝ち抜き、神に最も近い存在となった。僕はまさしく……今日この日のため呼吸を続けてきたのだ!」


 ラインメタル大佐の瞳が金色に染まった。


「存分に戦おう!! そして、この世から勇者を殲滅して見せろ! 世界で最後の神様候補にして罪深き神殺し––––エルド・フォルティス!!!」


 そう、俺のレーヴァテイン大隊における最後の仕事こそ、眼前に立つ大隊長––––ジーク・ラインメタル大佐とのタイマンなのだ。


「セリカ!」


 俺が叫ぶと同時、全てを理解した彼女がエンピを投げた。

 それを受け取り、全身から魔力を吹き出す。


「俺は貴方に救われた––––救われてここにいる。もし本気で戦うことが貴方の救いとなるなら、恩に報いるべく全力でやりましょうッ! 世界で最後の勇者ッ、ジーク・ラインメタル!!」


 ラインメタル大佐の発砲と、俺の肉薄は同時だった。

 セカイの最終決戦が––––始まる。


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