30・VS勇者エルロラ
神にならんと目論む勇者エルロラと、俺たちは決死の攻防を繰り広げていた。
儀式完了まで時間はない。
「だあああああぁぁあああああッッ!!!」
猛速で突っ込んだセリカが、強大な運動エネルギーと一緒にエンピを振り下ろした。
エルロラはすぐさま槍で防ぐも、無防備となった脇腹を俺が見逃すはずもない。
「『身体能力強化・絶』!」
金色の魔力と雷をまといながら、俺はエルロラ目掛けて蹴りを叩き込んだ。
吹っ飛んだ彼女は神器で床をえぐってブレーキを掛けながら、忌々しげに叫ぶ。
「なぜ貴様らは神亡き世界に納得する……!! 人間などと言う浮浪の存在がこの世で生きるには、国家じゃなく神による庇護こそ必要だとなぜわからない!!」
「はっ! 神だと?」
氷剣を錬成し、エルロラと鍔迫り合う。
「俺たち人間は自由意志の生き物だ。神なんていう不確かで傲慢な存在に、生殺与奪を握られるのが本気で幸せだと?」
「そうだ……ッ! だからわたしは『神結いの儀式』をもって、アルナ様の代わりとなる! ……それさえ叶えば地上の国家など全て解体してやるさ!!」
激しい打ち合いの中、俺は眼前の勇者を睨めつける。
「なるほど、全国家の解体がお前の目標か……無政府主義者の亜種ってところだな。アルナに似て傲慢だ」
「さて、この場合果たしてどちらが傲慢なのかしら……?」
「どっちもだろうな、なんにせよ俺にはその槍がいるんだ」
さすがに勇者だけあって、こちらの攻撃はどれも決定打に欠ける。
セリカの援護があっても、エルロラに攻撃が当たらない。
「貴女はどう思ってるのかしら? 右手でダンマリの神獣さん?」
エルロラに問いかけられたヴィゾーヴニルは、淀みなく応えた。
『どうも思わぬな、ワシは世界樹に住みしただの観測者じゃ。この世を誰が統べろうと知ったことではない』
「意思なき人間の手に神器が渡るのを––––神獣である貴女が許容するの? 信じられないわね、怠惰な観測者めっ」
『はっ! 観測者が怠惰でなくてどうする、それにこやつは意思なき人間じゃない』
再び攻防を制した俺が、エルロラへ追撃を掛ける。
『ワシが自ら戦い、ワシの意思で見込んだ人間じゃ。無限の魔力と神の力––––両方を持つ資格を得た唯一無二の存在!』
ガードを崩し、とうとうこちらの攻撃が脇腹を掠る。
「ッ……!!」
『エルロラよ、おぬしは誰かに認められたのか……? 1人よがりの正義で良くなるほど……世界は単純じゃないぞ?』
「黙れ黙れ黙れッ!!! わたしは勇者だ!! アルナ様に見初められた、神になる資格を得た人間なんだ!! 観測者が偉そうにわたしへ説法垂れるなッ!!」
エルロラは『インフィニティー・オーブ』を巧みに使い、俺の連撃を回避する。
このままじゃ埒があかん、一か八か……この一手に賭けてみるかっ!
「そろそろ決めてやるわ神殺しっ、アンタにはこの宝具の真髄を見せてあげる!」
槍の先端から、宇宙のような模様がオーラとなって吹き出した。
「全ての物質を分離させ、また全ての物質を結合・圧縮させられるのが『インフィニティー・オーブ』の能力。ならば–––––」
エルロラが空中へ放った瓦礫が、槍で突いた途端一瞬で消え去った。
否––––見えなくなるレベルまで圧縮されたのだ。
究極まで押しつぶされた粒子は、周囲を一気に歪ませる。
「重力崩壊……ッ!!」
一瞬で収まったそれは、しかし瞬間的にだが俺を重力で引き寄せ身動きを封じた。
エルロラはその隙だけ狙い、俺へ回避不能の一撃を繰り出す。
「これで終わりだッ……!! 神殺しいいぃ––––––––ッ!!!」
迫る槍の先端、突き出された全てを分離させる一撃に……。
「ちょっと我慢してくれよッ! ヴィゾーヴニル!!」
彼女の宿りし右手を、『インフィニティー・オーブ』が貫いた。




